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 黒塚勇斗が目を覚ました時には、彼はベッドの中だった。腕には点滴らしき何本もの管。口元には酸素マスク。そしてバイタルサインを測定するためのおどろおどろしい程のセンサー類が体じゅうに装着されている。

 記憶も曖昧で、何が何だか訳が分からなかったが、ここが医療室であるところを見ると、自分が今まで意識を失っていたのだということが何となく理解できた。

「やっと気が付いたのね。どう? 私が分かる?」

 無表情で可愛らしい顔が彼を覗き込んでいる。ショートカットの赤い髪に丸型の輪郭。そして少しだけ垂れた優しそうな目に灰色の瞳。

「あ、ああ……セシルさん?」

 やはり彼女は勇斗の思った通りセシル・セウウェルで間違いない。

「ここは……?」

「ここは私たちのアジトの中よ」

 そう言えば見覚えがある。質素ではあるがそれなりに必要な分だけの機材が整い、どちらかと言えば薬品の匂いよりもほのかに火薬の匂いのするこの医療室。彼は何となくだがホッとした気分になる。

「セシルさん、無事だったんですね……」

 彼は安堵とともにそんな言葉が出てきた。が、

「え、ええ。まあ何とか……」

 気のせいだろうか。彼女の無表情が一瞬だけ曇ったように見えた。

「あ、あのセシルさん……。俺は、何があったのかよく覚えていないんです」

 勇斗は言いつつも、手や足を軽く動かした。今の自分の体が“本物”であるのか気になったからだ。

 するとセシルが、

「大丈夫よ、あなたは動かなくなった17号に閉じ込められて軽い火傷を負っただけ。腕も足も本物よ」

「で、でも……」

 このおどろおどろしい程の医療器材に囲まれては不安になるのも当然である。

「あ、そうそう。先に言っておくわね、黒塚くん。ありがとう」

 セシルはゆっくりとスツールから立ち上がり、近くにあった花のオブジェに手をやった。

「え?」

「だってあの時、私を助けに来てくれたんでしょ?」

「え、ええ、まあ……」

 勇斗は目を点にして考えた。

 確かに彼は、SOSサインを受けてアトキンスの命令に従いセシルの救護に向かった。そこまでの記憶は何となくだが覚えている。だが彼は、彼女を救出した覚えも無ければ、なぜ自分が火傷を負うような目に遭っているのかさえ分からない。

「それにしても、黒塚くん。今回はお手柄だったわ。初陣なのにすごいわね」

「え?」

「だって、あの五年前の戦乱で活躍した“背骨折り”をやっつけちゃったんですもの」

「え、ええーっ!?」

 余りの衝撃に、勇斗はベッドから転げ落ちた。


 第一章 完 つづく


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