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「勇斗! そっちに行ったぞ、回り込め!」
「は、はいっ!!」
アトキンス機と勇斗機は、烈太郎を発見するや否やその背後からソニックブームキャノンで狙撃した。だが、彼らの弾道の先に烈太郎はもういなかった。危険を察知した烈太郎はとっさに身をかわし、得意の高速走行で走り去った後だった。彼らは、烈風七型の中身が正太郎抜きであることをまだ知る由もない。
「クソッ! 勇斗よ、俺の経験で言えば、奴をやるにはこの機体では手に負えんかもしれん。だが、俺たちが手を合わせれば勝てない相手ではない」
「はい!」
「しかし、待ち合わせ組の五機と、8号機のセシルが合流すればそれも叶うはずだ。それまで奴を見失うな!」
「はい!」
二機は、レーダーサイトの示すがまま機体を発進させる。
これまでにもなくいきり立ったジェリー・アトキンスの動きに、勇斗はついて行くのが精一杯である。さすがは元反乱軍のミスタートップガンとまで呼ばれた男。この視界の利かない巨木の間を、あたかも一筋の風が隙間を縫うように突き進んで行く。
「み、見えない……」
勇斗は実力と経験の差というものを実感する。敵との交戦を慄く以前に、自らの技量の無さに恐れを感じる。
いくらフェイズウォーカーのメイン操作が個々の人工知能によるものであろうとも、細かい誤差を修正するのはパイロットの役目である。そのコンマ何ミリ、コンマ数秒という動きの機微を感覚で読み取り、それぞれの人工知能にフィードバックさせるのが彼らの腕の見せ所なのだ。
(これではパイロットどころか、ただのお荷物だ……)
勇斗は手綱を引きながら奥歯を噛み締めた。これが今の自分自身そのものであると実感せざるを得ないからだ。
その時、彼らのレーダーサイトから8号機の機動シグナルが消えた。そしてそのサインはSOSへと移行した。
それに素早く反応したアトキンスは、
「勇斗、8号機のセシルの反応が変わった。もしかするとこの悪天候で機体不良を起こしたのかもしれん。お前、行けるか?」
「は、はい。行けます、行かせてください、隊長!」
勇斗は即答する。なぜなら、このままあの烈風七型をアトキンスと追いかけたとしても、足手まといにならざるを得ないと確信していたからだ。
(それならば、セシルさんを助けに行った方がいい……)
と思ったのだ。
確かにそう思う理由の一つに、勇斗自身の弱さから来るものがある。しかし、戦場での弱気は命の明暗に直結する。ジェリー・アトキンスは、それを確認する意味で彼に問うのである。
「勇斗! 待ち受け組が俺たちに合流するまでに五分はかかる。その間、おまえはセシルの安否の確認と、不測の事態への対応を命令する。しっかりやれ」
「りょ、了解しました」
勇斗は、この状況で尻尾を巻いて逃げ出そうとしている自分に負い目を感じた。
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