第一章【謎の秘密結社】

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 氷の嵐は、かつて跳ね馬の異名で呼ばれた名機“方天戟ほうてんげき”ですらその自由を奪った。

 風速二十メートルにも及ぶ凶悪な猛吹雪はまるで弾丸をばら撒いたようであり、氷の粒は装甲板を貫かんばかりの勢いがある。このような日に外に出る行為は、ただ無駄に浪費を重ねるばかりではなく、言わずもがな命が危うい。

 黒塚勇斗くろづかゆうとは、これが十六年間生きてきて初の出撃だというのに、

(全くツキがない。まるで俺の人生そのものだ……)

 そんな愚痴をこぼす余裕さえない有様だった。

「おい勇斗。このブリザードでは目で追ったところで何も役に立たん。こういう時は無理せず人工知能あいぼうに任せるんだ」

 よちよち歩きの黒塚機を気遣って、ジェリー・アトキンス元少尉が声をかける。

「は、はい……なんとかやってみます」

「無理はするな。俺たちの使命は、あの女と付き添いのアンドロイドの抹殺だ。それさえ済めば次の作戦までゆったり眠れる」

「え、ええ……。俺だって、あの威張り腐ってやりたい放題だった連中を放っておけませんから」

「その意気だ。しっかりやれ」

 この氷嵐の中を、手慣れた調子でそぞろ歩くように進軍する元少尉は大したものだと彼は思った。

(伊達にあの激しかった戦乱を生き残った人じゃない)

 

 二時間前に十七機あった二つの編隊のうち、四機が返り討ちに遭い、三機がこの劣悪な天候の影響で戦闘不能状態に陥った。

「あのマリダとかいうアンドロイドは思った以上に危険だ。先程の戦闘でも解かったように我々の手の内を読んでいると思われる。あの優秀さは脅威だ。とにかく全員そのつもりで気を引き締めろ」

 暫定で戦闘隊長に任命されたアトキンス元少尉は、商店街に撃ち込んだ迫撃弾の行方を目で追いながら、

「熱源により対象は存命と確認した。これより追い打ちをかける。A班の生き残りは右手に散開。そこで待ち受けろ。そして我々B班は、左手に回り俺の合図で一気に突入し対象の二名を始末する。もしそれで逃がすようなことがあったら、A班で始末だ」

「ですが、アトキンス隊長――」

 勇斗は率直に疑問をぶつける。

「もし他の住人がいたとしたら……」

「おいおい勇斗。もうここまでやっちまってそれはないぜ。俺たちの今回の任務は対象の抹殺だが、全体を考えればそれはチープな考えに過ぎない。俺たちはこれを機に、何をすべきかお前はもうすでに知っているはずだ」

「分かりました、俺もそう思います。ただ、確認したかっただけです」

「よし、貴様ら。今の若大将と俺のやり取りを聞いての通りだ。しっかり頼むぞ!」

 了解――

 無線装置に飛び交うシグナル音は号令を示していた。すでに緊張を高めていた勇斗は、方天戟のを握りしめるとその他四機と共に突撃を開始した。



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