③ページ
妙に告白めいた言葉を発しながらニタリ顔ですり寄ろうとする小紋。
そこに、
「失礼ですが、小紋様、いつまで正太郎様といちゃいちゃしておられるおつもりでしょうか? あまり時間がありません、早く正太郎様に本題を申し上げてください」
と、有能な秘書官アンドロイドであるマリダが割って入った。それはどこか落ち着いた声色であるが、またどこかにトゲが混じっている。
「あれぇ、マリダったら。もしかしてそれ、焼きもち? そうでしょ、焼きもちなんでしょ? このこのぅ、芯まで可愛いぽぴぽぴロボっ娘めぇ」
からかい半分の小紋を、マリダは冷めた口調で、
「お戯れを……。小紋様、あなたが今どのような立場でいらっしゃるのか、本当にお分かりになっておられるのですか? そんなことではまた……」
小紋はちょっと口を尖らせながら、
「もう、分かってるってば。だからこうやって羽間さんに僕の気持ちを伝えてから……」
「小紋様! お気持ちをお伝えするのも大切ですが、今はそれどころでは!」
なんやらかんやら訳の分からないことで盛り上がっている二人である。
まったく状況をつかめない正太郎は、
「おいおい、なんだよ小紋。それどういうことだよ? 確か今、マリダが時間がないって……」
少々イラつき気味の正太郎に
「い、いやぁ……そんな大袈裟にする話じゃないんですけどね、実は……」
と、ごにょごにょと口ごもってしまう。
そんな小紋を見兼ねたマリダは、
「実はですね正太郎様、私どもは先程、こちらに来る途中に」
「来る途中に?」
「総勢十七人の暴漢に襲われました。それもみんなB級武装型の」
「は、はあ!? B級武装型だって?」
正太郎は驚きのあまり声が裏返った。B級武装型――つまりはその装備さえあれば、商店街ほどの区画を簡単に火の海に出来るという意味を示しているのである。
ということはつまり、もうどこかから機械神の機能停止情報が洩れているという事なのだ。もしそうでなければ、武装した集団など機械神に簡単に予測され逆に拘束されるか殲滅させられてしまっている。
「おい小紋」
「あい」
「……てえことは、つまり、あれだ」
「あい」
「正直に言えよ」
「あい」
「あれが……あの機械神【ダーナフロイズン】が機能停止したってのは、もうだいぶ前からの話ってことだよな?」
正太郎は半ば呆れた表情で言った。小紋は何も言わずにコクリとうなずいた。
正太郎にとって、五年前のヴェルデムンドの戦乱は無駄ではなかった。
なぜなら、こうして彼らのような“自然派”は“自然派”として生きている。そして“ヒューマンチューニング”を望むものは“ヒューマンチューニング”されて生きることでその人生を謳歌している。
つまり、あの戦乱があったからこそ機械神ダーナフロイズンは自己学習し、その選択する権利を人々に与えたと言えるのだ。
言うに及ばずあの戦乱が無ければ、時代は機械神のご託宣があるがままチューニングされ、人々の意志とはかけ離れた流動的な人生を送らされていたはずである。
だが、羽間正太郎に代表されるような真っ直ぐな考えの人々ばかりではないのも事実だった。それ以外――例えば何らかの別の思想や目的を含み入れて戦乱に参加する者も多く居たのを正太郎はよく目にしていたし、それらのことをよく知っている。
彼は戦乱の後期に、そんな有象無象の考え方をいつの間にか憎悪するようになり、とうとう戦闘のどさくさ紛れに姿を
「おい小紋、お前この俺に何か重要なことをまだ隠してんだろ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます