第二話-菱井工業-
菱井工業本社受付にて
「IT推進室の永森部長を呼んでくれ。ヒーロー相談所東京サービスセンターの久松所長から依頼を受けてサイバー攻撃の件で話を聞きにきた。」
「永森でございますね。確認いたします。入館許可証を発行のためにそちらの紙に記載をして頂いて身分証明書のご提示よろしいでしょうか?」
「おいおい、ヒーローに名前を聞くのはご法度だぜ。永森部長に聞いてくれたらなんの事か分かるはずだ。」
「来社の際にはそちらを記載して頂く決まりです。永森に確認いたしますのでそちらにお名前をご記入してお待ち下さい。」
おいおい、なんだこのカタブツは。鉄拳制裁を加えて良いのか。そもそも依頼受けずに帰ったって良いんだぞ。まぁとはいえ受付の仕事をしっかりまっとうしてるとも言えるのか。とりあえず名前と住所以外は書いてやるか。
…
「お待たせいたしました。永森は現在会議中ですので少々お待ち下さい。永森の秘書から話は伺いましたので身分証明書のご提示は結構です。仮名で結構ですのでお名前をご記入頂いてよろしいですか?」
「なかなか面倒な注文だな。ヒーローNo.46だ。」
「申し訳ございませんが、もう少し名前っぽいお名前にして頂けますか?」
「いい加減にしてくれよ。ヒーロー、、ヒーロー、、そうだな、ヒイロ·ユイで良いか?」
「かしこまりました。ヒイロ様そうしましたら永森の会議が終わり次第お呼びいたしますので少々お待ち頂ければと思います。」
ハー。どこでもかしこでも待たされて。ヒーローの地位ってのはどこまで落ちてるんだ。平和ボケし過ぎなんじゃないのか。まぁ今のうちに会社の様子を見ておくか。
···
「ヒイロ様ー。ヒイロ·ユイ様ー。」
周りから冷ややかな視線を感じる。。
知ってるのか知らないのか分からんがこれは地獄だな。。サンライズ様ごめんなさい。
「おー、いるいる!呼ぶな呼ぶな!俺はヒーローだ。逃げも隠れもしない。会議が終わったのか?」
「はい。IT推進室で永森がお待ちです。こちらの入館証をお持ちになり、そちらのエレベーターから12階へお上がり下さい。」
「了解した。階段はあるか?」
一刻も早くここを離れたい。
「えぇ、エレベーターの脇に非常階段がございます。」
「そうか。ありがとう。」
シュッ、シュパッ、ビューン!
ここか。
「ヒーローNo.46だ。永森部長を訪ねてきた。」
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
「あんたが永森か?サイバー攻撃の件で話を聞きにきた。」
「はい。私、菱井工業IT推進室室長の永森と申します。よろしくお願いいたします。」
「あぁ、私は名刺を持っていないんだが、ヒーローNo.46だ。今回のサイバー攻撃の経緯を聞かせてくれ。」
「えぇ、まずはお座り下さい。」
「あぁ、私は危機管理として座らないので大丈夫だ。話を続けてくれ。」
「かしこまりました。今朝の事です。パソコンを起動すると突然エラーメッセージが表示されたとの報告が入りました。弊社のシステムエンジニアに確認して貰いましたが、回復せず、調査を続けていたところアングラと自称するクラッカーからメッセージが届いて画面が凍結されたのです。パソコンをいじってみましたが社全体のパソコン画面が凍結されている事が確認されました。」
「アングラ。。アンダーグラウンド。。地下。。大地?んなわけないか。分かった。それで現在も画面が止まっている状態なんだな?アングラからの要求は何なんだ?」
「48時間以内に1億円の送金がなければ画面を凍結し、顧客リストを世間に流すと言われています。先ほど会議で試算したところデータ流出だけで賠償その他諸々で10億円の損失。さらには弊社の社会的信頼は失墜し、緩やかに倒産の道を辿る事だって考えられます。なんとか解決お願いします。」
「それなら1億円払っちまえば解決なんじゃないか。こういうクラッカー集団は金さえ払えばちゃんとルールを守ってくれるってよく聞くぞ。10億以上の損失を防ぐために1億払うなんて必要経費じゃないか。てっきり法外な請求をされているのかと思ったら1億なら払って解決出来るじゃないか。」
「いやいや、ふざけないで下さいよ。悪者にはビタ一文払いたくないからあなたに頼んでるんじゃないですか。」
「だが下手に抗わずに交渉をした方がうまくいく事もあると思うがなー。そもそも成功報酬1000万+出来高って聞いてるが俺が1億の請求したらどうするんだ?アングラには1億払わずにヒーローには払うのか?」
「えぇ、まぁそうですね。。悪の組織を壊滅させてくれて今後同様の事が起きないようになるなら1億でも払いますよ。というかさっきから何なんですか!こっちは困ってるんだからヒーローだったら早く助けて下さいよ!もう42時間しかありませんよ!」
あー、出たよ。被害者面して全部ヒーロー任せ。成功したら自分の手柄、失敗したら他人のせいってタイプだなこいつは。成功したら1億以上ふんだくってやろう。
「分かった。とりあえず取り掛かろうか。まずはパソコンとそこに表示されている文面を見せてくれ。」
「かしこまりました。こちらです。弊社のエンジニアでは全く太刀打ち出来ませんでした。」
どれどれ。
'ここのシステムは乗っ取った。48時間以内に下記口座への振込をオコナエ。なお、48時間を過ぎた場合システム内の顧客データを10分ごとに10名分コウカイスル。コウカイのない選択を。 アングラ
振込先:〇〇ネットバンク〇〇支店 口座番号:○○'
「なるほどな。警察には相談したのか?わざわざ口座番号を公開してくれてるんだから警察が調べればこの口座番号の出入金が誰がいつどこで行ったかくらいすぐに調べがつくんじゃないのか?暗号資産を購入して引き渡すとかじゃなくてこんな古典的なやり方ならいくらでも捕まえられそうなものだが。」
「しかし警察に頼むとマスコミに嗅ぎつけられて大ごとになりそうで。それにアングラの機嫌を損ねて顧客データを公表されてしまっては元も子もないですし。なんとかヒーロー単体で早期に解決して頂ければと思い依頼をいたしました。」
「うーん、あまり得策とは思えんがな。それにしても公開と後悔をかけてダジャレを言うとはセンスがないな。」
「もう!そんなしょうもない事言ってないで早く解決して下さい!」
「それともうひとつ、どこにも1億円なんてワードは出てきてないが、なぜ1億なんだ?」
「それは一応振込先の口座を確認したところ1億円以上の振込しか出来ない設定になっておりましたので。。」
「ふーん、そんな設定が出来るのか。じゃあ厳密には最低1億って事だな。分かった、とりあえずここにいても仕方がないから情報を集めてくるよ。」
「え?ここでパソコンを使って解決するんじゃないんですか?」
「あぁ俺はハッキングなんてやった事がないからな。自分のやり方で解決するさ。まぁ任せておけ!」
「大丈夫なんですか?頼みましたよ!なんとかして下さい!」
さて、とりあえずアングラとやらの情報を集めるか。まずはあの情報屋の所に行くとするかな。
(続く)
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