ヒーロー2021

@sera

第一話 

「及川くんが中央公園で悪い奴に捕まっちゃったよ!助けてヒーロー!」

「そうか。何で俺が助けなきゃならない?」

「だってヒーローでしょ!」

「お前に支払い能力があるとは思えない。諦めろ」

「ひどいよ!そんなのヒーローのすることじゃないよ!うわーん!!」

「こっちは仕事でやってんだ。帰りな」

「うわーん!」

出ていく子供を見つめながら準備を始める。


「困ったらヒーローが助けてくれるからってうちの子が努力をしなくなった。責任取って下さい!」

そんな子供の屁理屈を鵜呑みにする親の方もどうかと思うが、最近のヒーロー事情は厳しくなった。困ってるからといっておいそれと助けるとクレームになるなんてね。

そもそもヒーローなんていうのは基本的に休みがないし、対象者が子供の事が多いから報酬の未払いも多い。いわゆるブラックな仕事ってやつ。それに最近は安全対策が充実してるから依頼自体も減ってきている。なんでこんな仕事をしてるのか自分でも分からなくなる事が時々ある。

おっと、そうこう言っているうちに追い付いた。あんな小物なら何の問題もない。問題は

いかにヒーローに助けられたと思わせないかだ。まずは通り道に大量の落ち葉をセット、次に小石をゲット、タイミングを見計らって脛目掛けてショット。

「痛っ!!!あっ、待てこら!」

ドサッと倒れた先の落ち葉のクッションに及川くんはダイブしてそのまま逃げ去る事に成功。

さてようやくヒーローの登場だ。

「なぁ、お前なんであの子を誘拐した?」

「誰だお前は?あいつは俺の子だ」

「俺の職業は政府公認のヒーローだ。悪者を痛め付ける許可は下りている。そしてあの子はお前の子ではないことも分かっている。誰の命令か言えばお前をこれ以上傷つけるつもりはない」

「はっ?ヒーローなら俺を助けてくれよ。誰かさんにケガを負わされた。病院に連れてって治療させてくれ」

あー、もう。やっぱり一つも良い事ないよ。人助けしても感謝されることなく悪者に絡まれてるこの現状。もう殴って良いかな。一発くらい殴って良いよね。悪者だし。

「痛っ!てめー何しやがんだ!」

「だから政府公認で暴力が許されてるんだよ、俺は。良い加減吐いてくれない?誰の命令よ?こんな杜撰な計画じゃ上の奴もたいしたことないんだろうけど」

「てめー、大地さんをバカにしてんのか!?」

「はいはい、首謀者は大地さんね。人助けも出来たし、お前みたいな小物に興味はない。大地さんにあんま調子乗ってるとヒーローが成敗しに来るぞって伝えとけ」

「おいっ!おまっ、え?消えた?」


あー、下らない。ヒーローなんだから空くらい飛べるし、常人の身体能力と一緒に考えて欲しくない。こっちはちゃんとライセンス更新のために毎年試験受けてるし、救った人達を確定申告してるっつーの。

どうでしょう?最近のヒーローはこんなもんなんです。

昔はみんなの憧れ、子供達のなりたい職業ナンバーワンってもんだったのに。今はコンプライアンスだなんだかんだと難癖をつけられてすっかりヒーロー稼業は日の目を見なくなっている。まぁとりあえず政府公認で悪を退治することは許されてるからストレス解消は出来る。まぁあくまで政府にとっての悪であって政府という悪を成敗しようとしようものなら全ヒーローを使って抹消されるわけだから都合の良い存在というわけ。

あぁ、こんな話をしてたらストレスがたまってきたし、大地さんとやらを成敗しようかな。こういう時はあいつに電話だ。

「はい、こちらヒーロー相談所でございます。被害のご相談は1を、悪者の目撃情報は2を、その他のご相談は3を押して下さい。」

無機質な応答が返ってくる。こっちは依頼を請け負ってるヒーローなんだから良い加減直通の連絡先を教えてよ。毎回まどろっこしいんだよ。3をプッシュ。

「その他のご相談、でございますね。担当者におつなぎいたします。少々お待ち下さい。」

‥‥‥‥

「ただいま、回線が込み合っております。このままお待ち頂くか時間をあけてまたお電話下さい。」

おいっ!良い加減にしてくれ。どこに取引先を待たせる企業があるってんだ。これは悪か?悪なのか?殴り込みに行って良いやつなのか?

「お待たせいたしましたー。こちらヒーロー相談所です。どのようなご用件でしょうかー?」

「こちらヒーローNo.046だ、所長を出してくれ。」

「はぁ、ヒーローナンバー46さん、どのようなご用件でしょうか?所長にお繋ぎする案件かどうか確認させて頂きますので。」

「おいおい、俺はヒーローだぞ。所長とも知り合いだ」

「分かりましたー。ご用件が分からない状態で所長にはお繋ぎ出来ませんので。あっ、少々お待ち下さい‥‥」

『この番号は僕の知り合いだ。出るよ、それに彼は本物のヒーローだよ』

『えー、本物のヒーローがヒーロー相談所に電話してきてるんですかー。ウケるー!』

‥‥おい、通話口を離したって全部聞こえてるんだぞ。常人よりちょっと優れた聴覚を持ってるからね。何故俺がバカにされなきゃならない。これはヒーロー相談所に相談だ。

「もしもし、代わりました所長の久松でございます。」

「おい、今度から電話は保留にしてつなぐようにした方が良いぞ。全部聞こえてる。あの女は辞めさせた方が良い。」

「あー、ごめんごめん。彼女に悪気はないんだ。マニュアル通りにしっかりやってくれているよ。だけど、保留を押すようには伝えておく。で、どういった要件?久しぶりだけど」

「ここ最近で大地って名前がつく奴から受けた被害報告は入ってないか?おそらく組織に属していると思うんだが。」

「うちの支店のネットワークでは出てこないね。ちょっと全国を調べてみるよ。何か分かったら携帯に連絡する。」

「なぁ、お前が俺の個人の連絡先を知ってて、俺がお前の直通の連絡先を知らないのはおかしいよな。教えてくれ。」

「所長の直通ダイヤルがもし流出してしまったら困るから無理だよ。ただでさえいたずら電話が多いのに対応出来ない。それと僕の携帯電話の番号も教えられない。僕はプライベートも大事にしたいタイプだからね。23時とかに電話来たら困るんだ。というわけでこれからもフリーダイヤルからつないでくれ」

「お前絶対おかしいよな。俺はヒーロー相談所に電話するヒーローってバカにされてるんだぞ。まぁいいや、分かったら連絡してくれ」

「了解した。とはいえその大地とかいう奴はきっと小物だろうな。もし依頼も来てない人物だと政府からの報酬も少ないぞ」

「んなもん、知ってるよ。でも生活のためには小遣い稼ぎでもしなきゃならないんだよ。それに俺はヒーローとしてのプライドを捨てたわけじゃない。悪者は倒すさ」

「了解した。大地の情報は確認しておく。

いや、ちょっと待て!一部上場企業からクラッキング被害で個人情報流出が身代金として請求されているという依頼が出た。そちらの調査をしてくれ」

「待ってくれ。俺はサイバー犯罪は専門じゃない。頭を使うのは苦手だし、何をすれば良いかも分からん」

「おいおい、このご時世でそんな事言ってたらヒーローとしておしまいだぞ。こっちの方が依頼の数も多いし、民間報酬もでかい。とりあえずやってみたらどうだ」

「そんな簡単に出来るものではないだろう。サイバーヒーロー達に依頼すれば良い」

「彼らは今、他国からのサイバー攻撃や戦争への火種になりそうなサイバー攻撃を他国と協力して鎮圧している。国内のいち民間企業の相手をしていられるほど暇ではない」

「おいおい、散々な言いようだな。民間企業を守る事だって重要な任務だ。それにその言い方だとまるで俺が暇みたいじゃないか!実際暇なんだが。。」

「じゃあよろしく頼むよ。すぐに菱井工業の本社でIT推進室の永森部長を訪ねてくれ。菱井工業からの成功報酬は1千万円+出来高、政府からの報酬は臨時対応割増込みで200万だ」

「おいおい急過ぎるだろ!しかもなんか思ったより安い気がするぞ!」

「当然だ。何の実績もない奴にそんな額は払えんからな。とはいえ失敗したら10億以上の損失が見込まれている。その場合は賠償請求をされる恐れもあるから絶対に失敗出来んぞ。ともかくよろしく頼んだ!」

ピッ。

「おいっ!!切られたか。それにしてもあいつ最後にとんでもなく事言ってやがったような。まぁもうとりあえず菱井工業に行くしかないか」

(続く)

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