(仮・第4話「Ground Zero START」)

 iQaiイクァイには存在しない引力に引かれて地球に降下していくKKNoコクーノの中で、大気圏に突入する感覚というのは、なかなかに気持ちのいいものではない、とファナイは思っていた。何度経験しても、少しの違和感を感じる。それはイクァイにいるときには感じないものだ。

 しかしどうやらフォルタの方は少し楽しみにしていたようだった。

「コクーノって狭くない?」

 そのコクーノの唯一の搭乗者であるファナイの心理には微塵も気を使う様子を見せずに、フォルタが話し出した。

「元々、単独で地上に降りるための端末だからな。どうせ乗っている時間も少ないんだし、別に狭くても構わないよ」

「閉所恐怖症だったら乗れないよねーこれ」

「閉所恐怖症?」

「あ、ファナイは知らないか」

「何よ、それ」

 大気圏突入の振動にわずかに揺られながらも、突入角設定を対Seloシェロ用に微調整しているファナイの追いかける様な返答に、フォルタの無駄口がこれ見よがしと言わんばかりに加速する。

「人類の一部が患っている精神的な性質の一つだよ。とにかく狭く閉じたところが怖いんだって。個体によってはパニックになったり、意識を喪失したりしちゃうんだって」

「不便だな。それは」

「そういうのって、ファナイたち希傀にはないの?」

「どうかな。一応同じ人類ではあるけれど、私は聴いたことないよ。他の希傀にしてもね」

「ふーん。あ、話は戻るけどさ、大気圏への突入シークエンスって僕はワクワクするけど、君はどう思う?ファナイ」

「なんか、違和感」

「違和感?」

「そう。不安でもなく、恐怖でもなく、安心感でもなく、興奮でもないけれど、何かは感じる」

「へぇ。やっぱり脳みそとルモフォルノとセルクァフォを積んでる君とは違うみたいだ。オペラシオ性能も格段に上となると、感覚も含めて敵わないや」

「お前も、KiRaSカイラスにしては優秀だよ。さ、無駄話は終わり。シェロに入るよ」

了ー解テース

 かつて地球上のすべての生物が、なぜかその上に舞い上がっていく金属たちを見送ったときからその空を閉じた幕ー鋼雲が、もう目前まで迫っていた。

 ファナイが、コクーノに設定していた突入角への姿勢制御を実行した。

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