(仮:第3話「XXth in the Air)

(仮:第3話「XXth in the Air」)

 鋼雲こううんの海に包まれてしまった星が、気づくとその全貌を視認できないまでに迫っていた。

 拠点となっているiQaiイクァイから対大気圏用長距離航行輸送機「eSTRaRoエストラト」で宇宙空間に飛び立ち、およそ6時間経過した船内に大気圏突入のアナウンスが流れる。

『あー、あーー。聞こえますか?』

「聞こえてるよ」

 対鋼雲突破用単独射出兵装「KKNoコクーノ」に入って準備をしていたファナイが答える。

『……あれ?ファナイさん?』

「ん?聞こえているけれど」

『……あ、すみません…艦内放送にしてしまっていました。レスが聞こえないだけですね…」

「まったく、またぁ?」

 ファナイは口を開いていない。彼女の戦闘用兵装フォルタの声音だった。

 ファナイが身を沈めているのはKKNo(コクーノ)と呼ばれる、地球の分厚い雲"鋼雲"を、戦闘員単独で突破できる突入用のカーゴだ。

『ファナイさん単独通信に切り替え完了しました!」

「了解(テス」

 先ほどの呆れた声はフォルタのものだったが、通信から聞こえた状況更新を伝える作戦支援オペレーターの声に答えたファナイの声も、また少し呆れている色が滲んでいた。

『あ、はーい。良かった聞こえた。現時点から30秒後に、当エストラト12から切り離されて地上任務の開始となりますが、不備はありませんか?」

「さっきも確認した。問題ないよ」

『かしこまりました。射出25秒前です。あ、フォルタさん!』

「何」

『もし良かったら、地上にある花をいくつかサンプリングしてきてくれませんか?ヴィヴのラボと先日、地球の花ってどうなっているんだろうと話をしてたので…』

「わかった。見つけたらね」

『射出17秒前です。わあ!ありがとうございます!』

「帰ってこれたらだけど」

『15秒前です。その時は花だけでも握って死んでください!』

 KKNoのハッチが閉まる。射出カタパルトの空間が、コクーノの外に切り離される。ファナイにとっては急に圧迫感が迫ってくるように感じられて、それが少しだけ息苦しいと思う。

「その花、そんなに大事なの?」

『あ、は、はい』

「ああ…わかった。前向きに検討してみる。頑張って」

『ががががガンバるのはファナイさんの方じゃないですか!射出5秒前!さ、察してくれたんなら、よ、よろしくおおおお願いしますね!』

「善処するよ」

「初いなぁ」

 フォルタの一言を最後に、エストラトとコクーノとの接続が切られ、機外に放りだされるようにして、地球地表を目指して降下して行った。


 

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