第2話ロリっ子閻魔様 前編

 我が家に帰宅した俺を待っていたのは、温泉と全裸の黒髪美少女だった。


 これは所謂、ラッキースケベ?


「きゃぁぁぁ!」


 そんな事を考えている間もなく、当然のように女性から悲鳴が上がった。そして定番の通り女性から投げ出されたのは、お風呂の桶、


 ではなく、


「え? ちょ、おま」


 俺の身長くらいはある巨大な岩。それをこの女性は片手で持ち上げてそれを俺に投げつけてきた。


「このど変態!」


 生命の危機を感じた俺は、咄嗟に家の扉を閉じる。扉が壊されるとかそんな事も考えず、とりあえず閉めた。


 しばらくの静寂が流れる。


 だがその後扉が壊される事も、あの巨大な岩が飛んでくる事もなかった。


(今のはただの見間違い、だよな?)


 俺は深呼吸した後に、再び家の扉を開く。だが開けた先に待っていたのは、


「お待ちしておりました、園崎秀様」


 見た目は小学生と変わらないくらいの女の子と、明らかに俺の部屋ではない作りのどこかの部屋だった。


「私が先程あなたに連絡を差し上げた閻魔大王の」


 俺は再び家の扉を閉めた。


(よし、何も見なかった事にしよう)


 俺は現実から逃げるように、その場から立ち去ろうとするが、背中が何かとてつもない力で引っ張られる。というよりは吸い込まれる方が近かった。


「逃げないでくださいよ、秀様」


 先程の声が背後から聞こえる。


「誰だって逃げたくなるに決まってるだろー」


 だが俺の叫びも虚しく、そのまま我が家に強制帰宅させられたのであった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「もうどうして逃げるんですか」


「誰だって逃げるに決まっているだろ!」


 訳も分からず強制的に謎の場所に連れ込まれてしまった俺は思わず少女に怒鳴ってしまう。すると少女は、すぐに涙目になる。やはり見た目通りの年なのか、怒鳴ってしまうのはマズかったのかもしれない。


「あ、えっと、その」


「うぇぇぇん」


 俺が慌てて謝ろうとすると、少女は案の定泣き出してしまう。それを見て俺は急激申し訳ない気持ちに襲われる。


「私はただ、秀様が困っていたから助けようとしたのにぃ……うぇぇん」


「ど、怒鳴ったのは悪かったから、泣かないでくれよ」


「じゃあ……、私の話を聞いてくれますか?」


 泣きながらチラッとこちらを見てくる少女。上目遣いでこちらを見てくるのが、とても可愛らしくて何かに目覚めてしまいそうだ。


(ってアホか俺は!)


「話だけなら一応聞くけど、その前に聞きたいのは俺の部屋は元に戻るのか?」


「戻るも何も元から秀様の部屋は無くなっていませんよ」


「え? でも扉を開けたらここに繋がっていたし」


「正確に言うと別空間にあるといいましょうか。こちらの世界と空間を切り離せば、秀様の部屋は戻ってきます」


「別空間? 切り離す?」


 何を言っているかサッパリな俺。俺の部屋が無事であるならそれは問題ないけど、そもそもここがどこなのかとか色々知りたい事が山ほどある。


「ではまず、もっとも秀様が聞きたいであろうこの場所についてお答えします」


「お、おう」


「まずここはとある温泉宿『桜花』という場所です」


「温泉宿? つまりここは温泉なのか?」


「はい」


 言われてみればここは何処となく日本でいう温泉宿に近い作りをしている。ただ置物として置かれているものは全く見覚えがない。


 例えば底に落ちているのは、骸骨。骸骨?


「ちょっと待て、温泉宿なのにどうして骸骨が置いてあるんだ?」


「置物ですよ。風情が出ていて良くないですか?」


 屈託のない笑顔で少女は言う。これはあれか?俺の感性がおかしいだけで、こういうのが流行っているのか、今は。


「いやいやいや、絶対におかしいって!」


「そうでしょうか?」


「ほら、他にもう少しまともな置物とか植物とかあるだろ? 竹とかでも雰囲気でるし」


「たけ? 竹というものは一体どのようなものなのでしょうか」


「え? 竹を知らないの?」


 じゃあここは外国なのか? いやそれでも骸骨が飾り物とか絶対におかしい。


「聞いた事ありませんね。更に言うならこの近辺にそのようなものは生えないと思います。育つには少々暑いですし」


「環境的な問題なのか、それって」


 そう言われて俺はある事に気がつく。俺は今すごい量の汗をかいている事に。そして今いるこの場所も異様に暑い事にも気がついた。


「確かにすごく暑いなこの場所。どこの国なんだ?」


「国という名前はありませんが、そうですね、秀様の世界の言葉で言うなら地獄という言葉が相応しいですかね」


 サラッとそんな事を言う少女。なるほど、地獄か。それならこの暑さも納得……。


 納得……。


「ま、待った、今なんて言った? 地獄?」


「はい。正式名称は違いますがここは地獄です」


「マジで?」


「マジです。そして私はその地獄の温泉宿の主人で、秀様の世界で言うなら閻魔大王である、ヘルーナ・シュヴァリエ・エルマと言います。皆さんからはエマと呼ばれています、よろしくお願いしますね秀様」


 笑顔で頭を下げながら言うエマ。だがあまりの超展開に俺の思考は追いつかない。


(地獄? 閻魔大王?)


 俺は夢でも見ているのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る