パートナーセレクト14


       ☆


 袖浦からの呼び出しを受けた俺だったが、その後袖浦が現れることはなかった。


 俺はその日も仕事があり、あまり長い時間学園にいるわけにもいかなかった。袖浦には『予定があるからまた今度な。悪い』と連絡だけして渋谷へと向かった。



 しばらくすると返信があった。


『私の方こそ予定時間に来れなくてごめんなさい。自分勝手が続くけど、しばらく一人にしてもらえると助かります』


 この文が届いてからは袖浦と俺は顔を合わすことがなくなった。


 料理を教えて欲しいとか言ってたくせにこれはどういう意味なのだろうか。


 最初はどうして一人にしてほしいのか尋ねようとしたが、学園では避けられ、家に帰ってから声を掛けようと思っても、最近のあいつは夜遅くに帰ってきて朝早くにはもういない状態だった。


 心配ではあったが、時間が解決してくれると俺は楽観視していた。


 気が付けばそんな日々が続き一ヶ月が経ちそうになっている。


 学園内では本格的にアイドル争奪戦が勃発していて、エマ・ナイトレイを筆頭にたくさんの人間が群がり、星宮にもアプローチを行う生徒が目立っていた。


 俺はというと特に何もしていない。袖浦をアイドルに据えると決めているので、誰かのところに行く必要はなかった。ただ、現時点では焦りを感じていた。


 袖浦の考えがよくわからない。このままで大丈夫なのだろうか。


 もしかしたら袖浦は別の相手を決めていて俺は用済みになったとか。


 袖浦に限ってそんなことはないと信じたい。だが、よくない思考はどんどんと溢れていた。


 パートナーセレクトの期日が当日に迫った頃には、俺のストレスはピークに達していた。


 もしかして本当に俺は用済みになってしまったのか。


 パートナーを決める最後の舞台として、多目的ホールにてアイドル科の人間たちが歌と踊りを行ってくれことになっている。


 昼休み終了後に多目的ホールに各自集まるようになっていて、昼食を終えると俺は教室の机で顔をうずめていた。


 席の目の前には田中がいて聞いてもない自慢話を俺に延々としてくる。俺はそれに対して適当に相槌を打ちながら袖浦のことばかりを考えていた。


 今日あいつはまともに踊れるのか不安で仕方がない。また藤沢先生に罵倒されるのではないか。


 それからあいつが俺を避けるようになった理由も早く知りたい。


 胃に穴が空きそうだった。


「大元空」


 自分の腹をさすっていると、突然に神谷愛が俺に話しかけてきた。


「なんだよ」


 俺は辟易した感じて答えた。


 入学してから一ヶ月は経つがこいつのことはよくわからない。


 俺を嫌うように距離を置いてるかと思えば、たまにこちらに視線を向けてくる。


 クラスの委員決めで、体育委員に立候補したらこいつも対抗するかのように立候補してきた。


 俺はてっきり学級委員にでもなるのかと思ったが予想が外れてしまう。結局学級委員は田中に決まってしまった。


 家庭科の料理の実習でも俺がちょっと美味しい料理を作ると、自分の方がよくできていると突っかかってきたりもしていた。


 俺の中でこいつはわけのわからない存在だ。


 周りのクラスメイトは常に俺を見下しているのに神谷愛だけはライバルのように見ている。


 俺の勝手な思い込みの可能性もあるが、明らかに敵対心を抱いていた。

 

 普段は機械みたいに表情を変えないのに俺に対してはいつも睨みをきかせている。


「パートナーセレクト、あなたは無関心だったようですが、ちゃんとアイドルを決められているんですか?」


「まぁ……その……大丈夫だ」


「歯切れが悪いですね。最初から躓かないでくださいよ」


 それだけ淡々と言い放つと神谷愛は颯爽と教室を後にした。


 わざわざそんなことを言うために俺に話しかけたのかよ。


 黙っていた田中も同意見なのか首を傾げていた。


「あの子、噂によると前期試験でトップの成績だったみたいだけど妙に大元に構うよね。彼女レベルなら君程度相手にするほどでもないのに」


「うっせ」


「ただ僕が前期試験にいたら彼女は次席だっただろうけどね」


「はいはい」


 ある程度田中とも距離感が掴めてきた俺は適当にあしらっておく。


 田中もなにかと俺に構い選択授業なんかでもいつもこいつと一緒だった。


 こいつは友人作りに失敗していて喋れる人間が俺しかいない。


 俺も似たようなものであまり人を馬鹿にできないのだが。


 初期の方はピリついていたクラスだが、やはりここにいるのは全員高校生。


 時間が経つにつれて段々と友達の輪が形成されていった。さすがに友人一人作らずに学園生活を送ることはできないのだろう。


 その輪に漏れているのは俺と田中、そして神谷愛だった。


 俺はというと、付き合う価値なしと判断されて誰一人として寄り付くことはない。


 田中は不遜ふそんな態度が反感をかって話しかける人間がいなくなってしまった。


 神谷愛は最初こそ話しかける人間もいた。


 マネージャー科には女子が数人しかいないし、神谷愛は世間一般でみれば美少女と呼ばれる部類だ。


 アイドルとの恋愛が禁止されている男子生徒はその欲求を満たすために近づく者も多かった。


 だが、神谷愛はクラスメイトに話しかけられても時間の無駄だと言わんばかりに無視を決め込んでいた。


 会話をするのは俺か天野先生くらいのものだ。


 そうなってくると日に日に神谷愛に話しかける人間はいなくなっていき、最終的には孤立してしまっていた。


「時間になるね。そろそろ行こうか」


もうそんな時間か。


「そうだな」


 時刻を確認する。もうそろそろ行かなければ遅刻してしまうな。


 俺は田中と一緒に教室を出て多目的ホールを目指した。

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