あんな厄介なの要らんよ

 男は何故か、ルカをしげしげと見た。居心地が悪くて身じろぎすると、にっと笑う。悪巧みをするような笑みに、いくらか腰が引けた。


「お前、妖異に名前つけてんの?」

「悪いですか」

「いんやあ?」


 つい反抗的に返してしまったルカを、男はにんまりと笑って迎え撃ち、その後ろの男たちが少しざわついた。


「俺はハシバ・ケイ。お前は?」

「キラ・ルカ準尉です」

「よしルカ、路頭に迷ったらうちに来な」


 何を言い出すのかと、つい視線が厳しくなる。

 ハシバはそれを笑って受け流し、何故か後ろの男たちが歓声を上げた。野太いそれに、何事かと困惑してしまう。

 次々に握手まで求められ、いよいよわけがわからない。


「こらケイ、何俺の部下勧誘してんだ」


 いつの間にかリツが隣に並び、笑い混じりにハシバを睨みつけている。リツの後輩らしい女も一緒だ。


「もー班長、気に入った人見つけるとすぐそれなんだからー。ちょっとは自重してくださいー」

「いーだろ、人材集めが趣味なんだからよ」

「それならソウヤ誘えよ、同期だろ」

「あんな厄介なの要らんよ。お前よく手懐てなづけたよなあ」

「は? 俺何もしてねーよ。人徳だろ、人徳」

「そーいや聞いたぜ、兄貴が乗り込んできたんだって?」

「もう知れ渡ってんのかよ」

「そんだけ目ぇつけられてんだよ、お前んとこは。もっと大人しくしときゃーいいのに、隊長自ら突っ走るからなー」


 癖のあるやり取りを聞きながら、ルカはふと不安に駆られる。

 まさか、兵団では変人でないとやっていけないということはないよなあと、馬鹿なことを考えてしまった。

 何にしても、やれることをやっていくしかないのだが。


「隊長、そろそろ」

「ん、おし。念のため、俺たちだけで…なんだよケイ?」


 子どものように手を上げられ、リツが胡散うさん臭そうにハシバを見る。が、相手は至って真顔だった。


「おれの机の上に色水置いてあっから、マジマごとあっちの部屋ん中にぶっかけといてくれるか?」

「はあ? …あー。妖異に色つけよーってハラか。俺はいーけど、後片付け大変じゃねーの?」

「そんなの、こいつらがやるし」

「はんちょー!」


 野太い悲鳴が重なる。仲がいいのだと思うと、妙に微笑ましい。

 リツもそんな面々を楽しそうに見ていたが、ふと、気づいたようにルカを見た。にっと笑う。


「ルカ、行くか」

「はい」


 この人について行こうと、このとき何故か強く、ルカは決意をあらたにした。

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