カメレオンどーすんだよ?

「あの、向こうの部屋には、こちらの音は届かないんですか?」


 部屋の隅の、それなりに落ち着いていそうな男に声をかける。男は、今ルカに気づいたようなかおをした。


「あ? ああ、話できるんだけどな、今つなぐとマジマの笑い声がなあ…早く何とかしてくれ」

「はい。隊長!」

「ん?」

「歌ってもらう前に、中と話が出来るようにしてもらって、出てもらわないと…」

「ああ、そうだな」


 ようやく我に返ったように、リツは居合わせた面々に指示を出す。途端に響き渡った笑い声はやはり異様だが、どうしようもない。


「ルカ、出るぞ」

「えっ、でも自分は」

「阿呆っ、わざわざ教えてやんなくていーんだよっ」

「あ」


 小声でリツに叱り飛ばされて、ウタの歌声に耐性があると知らせる必要はないのだと気づく。

 ウタに少し歌ってから待つよう言い聞かせ、ルカも廊下に出た。


「先輩、上手くいくんでしょうかっ」

「大丈夫じゃね? ってか、マジマの親父何してんの? 何のうっかり?」


 学生時代の知り合いだろうかと、リツと、まだ若い女性隊員のやり取りを聞くでもなく聞き流していると、ひょいと襟首をつかまれた。


「えっ?!」

「なあなあ兄ちゃん、この後どーすんのよこれ?」


 見れば、先ほど声をかけた男だ。ソウヤと同じくらいの年齢だろう。

 その後ろには四、五人ほど、そろってくたびれた白衣を着た男たちがひしめいている。他には数人が所在無げに立ったり座り込んだりで、この十人ちょっとが居合わせた面子らしい。

 ルカはリツを見たが、何やら話が弾んでいるようで声をかけづらい。


「ええと…マジマさん、ですか? その方も妖異も眠ってしまうので、マジマさんだけ連れ出せばいいと…」

「カメレオンどーすんだよ?」

「カメレオン?」


 妖異に名付けていたのかと首を傾げると、ん? と、男もルカを真似まねるように首をかしげた。


「聞いてねーのか?」

「はあ…何の妖異かとかは、まったく」

「えっ、それさ、あの鳥って歌って眠らせたんだろ? 耳のないヤツとかだったら意味なくね?」

「ああ、それは――。あの、ウタ、ってさっきの鳥ですけど、こちらで検査を受けているはずですが…?」


 後方の男たちはむっとしたような空気を漂わせたが、もっぱらルカと話している男は、無精ひげに手をやりながら、あっけらかんと笑った。


「そりゃー他の班の仕事だろ。俺ら六班はどーでもいいよーなのしか回ってこねーんだわ。で、続きは?」

「あ、えっと、はい。妖異の取り込んだものが何であれ、妖異自体は生き物のようなんです」

「あーそうだね、うん。え? それで聞こえるって理屈?」

「そうらしいです。全く聴力のない妖異がいるのかどうか、自分にはわかりませんが、今のところはどれにもいたようです」


 実技試験の日に逃げ出し、ルカとスガが捕らえたあの死肉妖異にも利いたのかどうか。それは、あの妖異が処分されてしまってわかりはしないのだが。


「へえ。そんなものよくも、野放しにしたもんだ」

「え?」

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