保証も何もありませんけど

「十四年前、内部でもごく一部しか知らないことだったようですが、人工的に妖異と人とを融合させて、その能力をかせないかと、第十隊で取り組む動きがあったようです。結局は派手に失敗して、第十隊は人員と記録ごと壊滅、そのとき扱っていた妖異の大部分も死んだり逃げ出してしまったようですが。七年後に、そうして生きびていた妖異が発見され、それと知らずに第十一隊も呼ばれ、おそらくはその断末魔が――共鳴して、僕を生き返らせた。おそらく、兵団内でもそう知られていることではないでしょう。でも、知る者が皆無でもない。そうでなければ、僕が妖異がかりと知られていないことがおかしいですから」


 ルカが口を閉じると、静寂がおおいかぶさった。カウンター内にいたはずの男は姿を消し、見える範囲ではリツとルカしかいない。

 ルカは、リツに目を向けながら、微妙に焦点が合っていないことを自覚していた。いまルカが見つめているのは、例えて言うならば、おのれだった。

 自分が妖異がかりだというのは、ルカも知っていた。幼い頃の記憶がほとんどないのもそのせいだといわれれば納得がいった。

 光園は妖異に絡んだ子どもばかりで、妖異がかりの子どももいて、やはり記憶を失っていることもあったからだ。

 だが、園長から全てを聞かされ、思ったこともある。――忘れようとして、そうして、本当に思い出せなくなったのではないか。


「何故、十四年前、そこにお前がいたんだ」


 ゆっくりと、低く出されたリツの声に焦点を取り戻す。

 気づいたのなら、ほのめかす必要もない。ルカは、むしろ微笑さえ浮かべていた。


「妖異と掛け合わせる実験体としてです。二人ともがそれに関わっていたようだったから、自分たちの子どもなら何かあっても誤魔化ごまかしがかせやすいと思ったんじゃないでしょうか」

「そんな親――」


 途切れた言葉の先は、「いるはずがない」か「ゆるせない」か、それとも全く別のものだろうかと、考えるともなく考えつつ、ルカは続けた。

 はたから見れば、ルカがリツを怒らせているように見えるだろうか。


「はじめからそうではなかったと、思いたいところですけどね。元々僕は、体に欠陥があったようなんです。臓器のいくつかが、どうも成長に耐えられないほどに質の悪いものだったようで。数年と生きられない、というのが生まれた当時の診断だったようです。それが、十四年前、九つまで生きられたのは妖異のおかげです。今も、妖異がいくつか臓器の代わりや手伝いをしてくれているから、ここにいられるんです。いつまでそうやって大人しくしてくれているのかは、保証も何もありませんけど」


 そして、十四年前のあのとき、更に妖異を取り込むために、一応は健康なはずの臓器もいくつか摘出したというのは、げる必要のないことだろう。

 園長も、はじめは話そうとはしなかった。ただルカが、その場面を思い出してしまっただけで。


 元々、妖異がルカの臓器の代わりをしていることは知らされていた。

 いつか暴走することがあるかもしれないという、妖異がかり共通の恐れとともに。珍しい症例だから人には話さないように、とも言い聞かされていた。

 その特異性に気づいたのは、本格的に兵校で勉強をしているときだった。

 だがそれでも、妖異にはわからないことが多いような現状で、そんなこともあるのかという程度の認識でしかなかった。傷の再生を早めるなら、特定の臓器の働きも出来るだろう、と。


 事の異様さに気付いたのは、ウタと出会ってからのことだ。

 普通、妖異同士の耐性は、はっきりとしたものは同質・同系統でしか起こらない。それなのにルカは、臓器という肉体系の特質を持ちながら、音系の耐性をつくり出した。

 二種以上の妖異が同居して人が意識をたもっている例は、聞かない。

 これが貴重な一例とすれば、実験体扱いになることも覚悟して公にした方がいいのだろうか。

 生真面目にそうも考えたルカは、成り行きを幸いと園長に相談し、すべてを聞いた。

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