「うわ出た」
「ちょっとリツ、どこ行くつもり?」
「うわ出た」
「なんですって?」
女子寮の裏口で捕まったリツは、男物の服に包んだ身を縮めた。
腕組みで仁王立ちしているのは、学生時代からの親友だ。肩のあたりで切りそろえられた髪が風に動き、夕焼けに染まった空といい、効果抜群だ。
えへ、と、リツは笑った。
「リタさん、どうしてここに?」
「謹慎処分受けた親友が退屈してるだろうなあ、と思って来たのよ。まさか、いくら学科の成績が悪かったからって、謹慎の意味も知らないとは思わなかったわ」
「あー…見逃して?」
「駄目」
にっこりと笑い、黒ぶち眼鏡がきらりと光る。こわい。
リツも何かとこの友人には頭の上がらないことが多いのだが、今回は譲れない。ただ、心配してくれると判るからこそ、申し訳ない気分になる。
「ごめん! 頼むよ、リタ!」
「…リツ、今回の処分…本当に、あなたの指示だったの?」
「当たり前だろ、あいつは俺の部下だ」
リタは、じっとリツを見つめた。
変装のつもりか、いつもは束ねている髪をほどいて帽子をかぶったリツは、顔を上げて真っ直ぐにリタを見つめ返す。そこに、揺らぎはなかった。
「馬鹿」
「うん。知ってる」
「ああもうっ、あんたのそういうところ嫌いよっ」
「俺はリタのこと大好きだぜ?」
「…たまに、ユウ君との結婚を
「え。嘘、いや待て、そんなので離婚とか不和とかなったら絶対たたり殺されそうなんだけど?!」
それでなくてもいまだ、リタの夫のユウには、リツがいなければもっと早く話はまとまったと文句を言われているのだ。
真剣にうろたえたリツに、リタはくすりと笑った。
「冗談よ」
「な…脅かすなよーっ。あーっ、寿命ちぢんだっ。頼むようもう、リタにはまっとうに幸せになってほしーんだからさー」
「ありがと。それならあたしのために外出をやめる気は?」
「ない」
迷いのない断言に、リタは深々とため息をついた。
「それなら、これは持って帰るわね」
「え、何?」
「お酒。二人で飲み明かそうと思ってたのよねえ、明日休みだし」
「う」
見せびらかされた銘柄は、リツの好きな、しかも高いそれだった。無言で何かを訴えるリツに苦笑して、リタは手をふった。
「次の機会に取っておくわ。見つからないように気をつけなさい」
「リタぁ…愛してるっ!」
学生時代と同じように、リツはリタに抱きついた。
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