残してないから!
「面白そうだな」
ぽつりと、スガが呟く。何故か、感心気味だ。
「面白くない!」
「どこが?」
ユリがキッと睨みつけ、ルカは淡々と返す。
スガは、そんな二人の反応にわずかに首を傾げた。
「養護院というのは、寮のようなものだろう? それも、幼い子どもがわらわらいる。面白そうじゃないか」
「そこなの?」
ユリが情けない声を上げるが、スガは不思議そうなかおをしている。
そこに至って、ルカが施設の話を出したときに漂ったぎこちなさは完全に霧消した。
それを
「ユリ、その荷物光園の?」
「そうだけど…?」
「持って行くよ。みんなはゆっくりしてて」
「ええっ」
思わずユリが立ち上がるが、ルカはにっこりと笑って迎え撃った。
そろってあまり手のつけられていない、テーブルの上を穏やかに示して見せる。
「残さないようにね?」
片手にユリの持っていた荷物をひとまとめに、もう片手で空になった食器を持って四人に背を向ける。
考えてみれば、施設――光園に行くのも久しぶりだ。
ユリやマキには街で会ったりもしたが、最後に足を運んだのは、卒業式から
一年以上も顔を出していないということになる。
「…忘れられてるかもしれない」
知らずにこぼれた呟きは、我ながら情けない。
「キラ君!」
「…ヒシカワさん?」
店を出てすぐに、襟首をつかんで路地に引き入れられる。
誰かが追いかけて来るとしてもヒシカワだけは予想しておらず、ルカは、少し戸惑った。
急いだからか、ヒシカワの顔は軽く上気している。その上目が少し潤んでいて、じっと見つめられたルカは、妙に慌てた。思わず、素っ気無い声が出る。
「何か、用?」
「その…この間は、ごめんなさい」
「この間…?」
ヒシカワが移動してきて一月余り。たった五人の部署にもかかわらず、その間、あまり接触もなかった。
覚えのないルカがごく正直に首を傾げると、ヒシカワは一瞬睨みつけ、深々とため息をついた。
申し訳ない気分になる。
「実技試験のとき。嫌なこと言ってごめんなさい。八つ当たりだった。私、成績は良かったけど現場ではまだまだで。キラ君が
僕も役立たずのままだけど。
ルカとしては、スガといいヒシカワといい、いやそれどころかフルヤもソウヤもリツも、買いかぶっているとしか思えない。
ため息を飲み込んだルカは、だが、呆気に取られた。
「見つけた! いたぞ、こっちこっち」
ひょいと顔をのぞかせたフルヤが呼んで、ユリとスガまでが現れる。
「あっ、持ち帰りにしたんだからねっ、残してないから!」
ユリが紙袋を大袈裟に振って見せ、一つをヒシカワに手渡す。他の二人は、早食いしたのか残したのか手ぶらだ。
ルカは、気付けば笑っていた。
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