そこまで忘れ去るか普通?!

 一月ひとつきばかり前まで、ほんの数ヶ月とはいえ所属していた職場だ。

 それでなくても、家柄も含め何かと知名度の高い第一隊の隊員のことは、部外者にも顔と名をよく知られている。

 フルヤが疑うように向けた視線を受け、今度こそルカはため息をついた。

 何故、本人がいるのに自分が喋っているのだろう。少し、腹も立ってきた。


「記憶力が悪いわけじゃないから、つまりはさぼってるんだと思うけどね。動機が本人の興味のようだから、いちいち気にするだけ無駄だと思うことにしたよ、僕は」

「…何か、さらっと毒吐いた?」

「思ってることを言っただけだよ。僕は別に優しくも温和でもないよ、よく勘違いされるけど」

「なんだよ、もっと早く出せよ。学生んとき皮かぶってたな? 実技もろくにできないふりして」

「いや…それは、本当にできてなかっただけで…」


 今も、リツやソウヤがみっちりと仕込んでくれていなければ、落ちこぼれのままだっただろう。

 そう思うルカの言葉は信用はしてもらえず、隠すなって、などと言いながら、痛いくらいに肩を叩かれる。

 しかし学生時代にあまり親しい人を作らないようにしていたのは本当で、実のところ、今こうしてフルヤに友人扱いをされているのも予定外だ。


「キラとは仲がいいのか?」

「悪いか?」


 唐突に意図の読めない発言をしたスガを、フルヤが睨みつける。

 ルカは黙ったまま、いったいこれはどういう状況だろうと心の中で頭を抱える。

 一緒に暮らしてきた施設の人たちは別として、兵団でだけは、親しい人はあまりつくらないようにしたかったのに。

 そんなルカの思惑は無視して、スガは一人で頷いた。


「それなら覚えよう。名は?」

「…名札見ろ」


 各部屋の入り口にある名札は、三つしか埋まっていない。四人部屋なのだが、一人が先日辞めてしまったのだ。

 スガは、首をひねって確認して、困ったようにルカを見た。


「どっちだ?」

「そこまで忘れ去るか普通?! ルカ、絶対教えんなよ!」

「キラ、どっちだ?」

「…スガ君、ここに来た用件は?」


 ため息を飲み込む。子どものケンカか。

 スガは、ああ、と頷いた。

 思っていたよりも性格は悪くないとは思うのだが、妙にずれているところがある。これはむしろ、特別扱いは周りのためにもよかったのかもしれない、とさえ思えてくる。


「今日から俺も、ここに住む」

「はあ? ここに? まさか勘違いしてないとは思うが、俺らはお前の従者じゃないぜ?」


 驚いたらしく、フルヤの言葉は内容ほどに毒がない。ルカはその間、無言でまじまじとスガを見つめてしまった。

 スガが、うんざりとしたように肩をすくめる。


「これが本来の扱いだろう。それとも俺は、隔離されなければならないようなことをしたか?」


 思わず、ルカとフルヤは顔を見合わせていた。

 お互いに、学生時代からの変わりように驚いているもののその理由を知らないと気付き、スガへと視線を転じる。

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