第四章 休日の過ごし方のこと

とにかくお前、ヒマなんだな?

「あれ、お前も今日休み?」

「うん、まあ一応」

「一応って何だよ」

「いや…開店休業状態の上に隊長がいないものだから、今のうちに休み溜めしとこうってことになっちゃって」

「…ああ!」


 納得顔になってから、フルヤは、笑っていいのかとうかがうようにルカを見た。苦笑するしかない。

 ルカ自身、それは受け狙いか自棄やけか嫌味のどれだろうと思ったものだ。


 数日前の昇進試験の日の騒動は、最後の第十一隊の独走も含め、兵団内では今や知れ渡っている。

 実際のところは隊ではなくルカの独断だったのだが、リツが己の指示として収めてしまい、公的な処分は、減俸以外はリツのみに下った。

 ルカとしては撤回したいところだが、手を出すなと厳命されてしまっている。


「で、何やってんだ?」


 話題を変えて誤魔化すことにしたようで、ルカは、笑って肩をすくめた。

 今日も天気がいいのに部屋を出ようとしないルカをいぶかったのも本当だろう。フルヤ自身は、出かけるのだろう。

 だが、のんびりとルカと話をしているところからすると、特に決まった予定があるわけではないのかもしれない。

 ルカは、広くはない部屋に詰め込まれた二台の二段ベッドをふりあおいだ。いで、窓の外に広がる青空を。


「天気がいいから、布団でも干そうかと思って」

「は?」

「一緒に干しとこうか?」

「…お前は主婦か」


 呆れ顔で覗き込まれる。

 ルカは、あまりに予想通りの反応に笑うしかない。施設にいたときでさえ、似たようなことを言われたことがある。


「夕方からは出る用事があるんだけど、どうにも落ち着かなくて。いっそ大掃除でも始めようかなと」

「その考えになるところが主婦だって。とにかくお前、ヒマなんだな?」

「いや、だから夕方には…」

「まだ昼前だぜ。よし、当分ヒマだな。お前、見かけはそう悪くないし」


 気安く肩を叩き、フルヤは、にっと笑った。肩を引こうとしたルカだが、思ったよりもしっかりとつかまれていた。

 つい、目が泳ぐ。


「どこに行くつもり?」

「決まってるだろ、休みの日に男一人なんてムナシイだろ!?」

「キラは恋人がいるらしいぞ」

「何? いやこの際客寄せだけでも――って、スガぁ? 何だってこんなことに。お前一人部屋だろ、今更迷子か?」


 入り口に立つスガに、二人ともが注目する。

 フルヤの言葉に多少のとげが含まれているのは学生時分からのことで、実際、四人部屋から始めるはずの寮生活を一人部屋で始めた特例は、一定の反感をいだかせるには十分だった。

 だがスガは、フルヤをじっと見たかと思うと、首を傾げた。


「名前が思い出せない」

「…下々のことはいちいち覚えてないってのか」

「いや、単に興味がなかっただけだと思うよ」

「はあ?」


 反感が敵意に発展しそうで、ルカはため息を飲み込んで口を挟んだ。あおりを喰らってフルヤに睨まれる。しかも、よくよく考えれば全くフォローになっていない。

 スガを見るが、黙って立っているだけで言い訳もしようとしない。もう一度、ため息を飲み込む。


「この間気付いたんだけど、同期の誰一人として顔と名前が正確には一致してなかったみたいで」 

「へえ?」

「第一隊の人のことも、ほとんど」

「は…?」

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