やあ、人災の秘蔵っ子

 人気ひとけのなかったところから一転して、入り口近くはさすがに人が多い。

 はぐれないようアイルの手を握り、話せそうな人はいないかと探すうちに、見慣れた顔を発見した。


「ソウヤ先輩!」

「ルカ君。あれ、リッさんは? そちらは?」


 器用に人の間をすり抜けて近付いてきたソウヤにほっとして、手早く説明を済ませる。ついでに何故リツのことを訊かれたのかもたずねてみる。


「うわあ、大変だったね。リッさんがルカ君たちを探すって言ってたんだけど、会えなかったか」


 苦笑して、ソウヤは、妖異を一体捕獲していることと少年が一人、内外判らず行方知れずの報告と伝達を手配しに、一旦、人込みの中へといってしまった。

 やがて、少女らの母親を連れて戻ったので、少女を引き渡す。


「ルカ君、捜索隊に入るかい?」

「え、いいんですか?」

「こっちは手が足りてるみたいだからね。妖異も残り一体で、屋上に追いつめてるらしいし。子どもの入り込みそうなところとか、多少は詳しいでしょ」


 施設で暮らしていれば、下手をすれば日々かくれんぼだ。

 しかしそのことを言い当てられたのは少々意外だった。マキが話したか、今までに似たような境遇の知り合いでもいたのだろうか。


 急いで、建物の中へと引き返す。ルカ一人加わったところで大きく変わることはないだろうが、何もしないよりはましだ。

 それに、スガやヒシカワにも会えるかもしれない。二人からすればルカに心配されるなどと心外だろうが、気になるのは仕方がない。


「ん? ああ、十一隊の秘蔵っ子」

「は?!」


 とりあえず地下から、子どもの潜みそうなところを探そうかと階段を下ったところで、明らかにルカに向けられた口ぶりでで妙な言葉を口走られた。

 地階の廊下を見渡せる場所に立ちはだかる男がその発言主で、警護の第三隊の紺の制服をまとっている。すらりと、背が高い。

 階級章は何故か見当たらないが、三十は超えているだろうこの男が、準尉よりも下ということはないだろう。

 思わず胡乱うろんげになってしまった視線を改め、どう接したものかと迷う。とりあえず、手招きをされたこともあり、階段を下りきった。


「やあ、人災の秘蔵っ子。こんなところで何をしてるのかな、人災は上だよ」

「あの…自分のことをご存知、なのですか…?」

「うん? 有名人の自覚がないみたいだね。それは難儀な。ソウヤは何をしてるのかな」

「ソウヤ先輩?」

「先輩。へえ、先輩! それなら僕のこともアラタ先輩と呼んでくれていいよ」


 妙にれしくてやりづらい上に、つながりも見えない。が、ソウヤの知人であれば、後で訊いてみればいいような気もする。

 とりあえず、頭二つ分くらいは身長差のありそうなアラタを見上げる。


「七歳くらいの男の子が迷子になっているかも知れないのですが、見かけませんでしたか?」

「ああ、何か言っていたかな。僕は見てない。少なくとも、ここにはいないと思うよ。何しろ、妖異がここから逃げたってことで、徹底的に洗ったからね。今もほら、僕が番をしているし。上を探したほうがいいよ」

「はい。ありがとうございます」


 この調子なら、他の階も調べてあるかもしれない。何事もなく無駄足で終わるなら、それでいい。


「ところで、秘蔵っ子君」


 心なし軽くなった足で二、三歩階段をあがったところで、また声をかけられた。妙な呼び方だが、ルカをしているには違いなさそうだ。

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