謎の女の方が面白いでしょ?

「――すみません、取り乱しました」

「いやいや、かまわないよ、今日はどうせろくに仕事にならないし、せっかくだから、こちらの方に隊服姿もお見せしたら?」


 女の向かい側でにこにこと笑いながらうながすソウヤにほっとして頷きかけ、はたとルカの動きが止まった。

 じとりと、女を見つめる。


「まさか、名前も言ってないの?」

「謎の女の方が面白いでしょ?」

「ごめんね、俺もそれに乗っちゃって」


 全く悪気なく謝りの言葉を口にするソウヤをまさか怒ることもできず、ルカは、がくりと肩を落とした。

 まだ、リツがいなくてましだったと感謝すべきなのかもしれない。何になのかはよくわからないが。

 肩の上でウタが、ルカを励ますように短く鳴いた。ありがとうと、指ででる。


「彼女は、ヒハラ・マキさんです。僕の――家族のような人で。マキさん、この方はフワ一佐。第十一隊の副隊長をされています」

「キラ、俺を忘れていないか」

「え? あ。ごめん」


 横合いからの声に、ルカは小さく跳び上がった。ルカがうっかりとしているだけかもしれないが、スガは、存在感があるのに妙に気配を消すのが上手い気がする。

 慌てて、言葉をぐ。


「スガ君。僕の同期で同僚です」

「はじめまして、お目にかかれて幸いです」

「あら、ありがとう。ルカと仲良くしてやってね。この子人見知りするし」

「マキさん!」 


 年を考えろ、という言葉はさすがに飲み込んだ。その場合、ルカとマキのどちらの年が問われるのか。

 ルカは、痛む気がする頭を押さえ、にっこりと微笑ほほえむマキを見た。

 久々の再会のはずなのだが、全くそんな気がしないのは何故だろう、と胸の内でぼやく。


「なぁに、ルーくん」


 ソウヤとスガが、揃って顔をそむけた。肩が震えている。絶対、笑っている。そしてマキも、わかってやっているに違いなかった。

 少し考え、ルカは、ぱっと顔を上げた。笑顔を取りつくろう。


「副長、着替えてきます。申し訳ありませんが、しばらく失礼します。――マキさん、どうしますか?」

「フワさん、もうしばらくお邪魔してもかまいませんかしら?」

「はい、大歓迎ですよ」


 ここで好き勝手に過去をばらされる危険と、今の勢いで我を失うのと。その二つを天秤てんびんに載せて、ルカは僅差で傾きを知った。


「では、失礼します!」


 入ったばかりの部屋を後にして、深々と息を吐く。寿命が縮んだ気がする。

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