二度とやらないように

「う、わ、わ、わ…っ、わーっ!」


 十一、と書かれた扉を開けた途端に襲われ、ルカは後ろにすっ転んだ。とっさに受身は取ったものの、廊下の壁に背をぶつけた。


「ぴぃ」


 襲撃者は悪気なく、ルカの顔にしがみついている。額にくちばしが突き刺さった気がするが、血は出ていないようだ。

 一緒に来たスガは、部屋に半歩踏み入った体勢のまま、倒れているルカを半身で振り向いて目を丸くしている。


「…ウタ」

「ぴ!」

「危ないから、突然飛び掛らないように。下手をしたら怪我をする。他の人だって巻き込むかもしれない。そんなことをしたいわけじゃないんだろう?」

「…ぴぃ」


 しょぼん、と音が聞こえそうなほどに頭をれた空色の小鳥は、差し出したルカのてのひらに飛び降りた。

 細い足には、第十一隊に所属することを示す赤い輪がはまっている。


「いいかい、驚いて頭でも打ったり、手に何か持っていたら落としかねないだろう。僕に会えたのを喜んでくれるのは嬉しいけど、もうやらないようにね。わかったなら、落ち込まなくていいよ、今回は怪我はしてないしね」

「ぴ!」

「でも、二度とやらないように」

「ぴぃ!」


 ルカがウタと名付けた小鳥が何を言っているのか正確には把握できないが、ウタの方は、人語をほぼ理解できているようだった。おかげで、注意も説教も有効だ。

 元気を取り戻したウタを肩に乗せ、ルカはそっと立ち上がった。ぶつかった瞬間に慌てて手に取った刀を、腰のさやに戻す。

 ルカが顔を上げると、スガと目が合った。


「どうかした?」

「いや。…保父さんみたいだな、キラ」


 誉められたと取っていいんだろうかと、ルカはつか沈黙した。その間に、部屋の中から苦笑気味のソウヤの声がかかる。


「朝会えなくて心配したみたいでね。説明はしたんだけど、信用してくれなかったみたいで。とにかく入りなさい、二人とも。ルカ君にお客さんも来てるよ」

「僕にですか?」


 心当たりがなく首を傾げたルカは、スガに続いて部屋に入ったところで、その肩越しによく見知った人を見つけて言葉を失った。

 来客用のソファに座っているのは、赤みがかった長い髪の女。ルカを見る眼はきとしていて、実年齢よりも幼く見える顔が更に補強される。

 思わずルカは、スガの横を駆け抜けて女に詰め寄っていた。


「なんでここにいるんだよ!?」

「あーら、いちゃ悪い?」

「悪いよ!」


 きっぱりと言い切ったルカを前に、女はからからと笑った。


「いつから、兵団本部は一般人が気軽に立ち寄っちゃいけないところになったのかしらね?」

「それはロビーとか食堂の話! 隊室にまでっていうかどうして僕が十一隊にいるって知ってるんだよ?!」

「ユリちゃんに聞いたからに決まってるでしょ」


 どこまでも、女は楽しそうにしている。

 ぐ、と言葉に詰まったルカはそこでようやく、自分を見つめる二組――ウタも入れれば三組の、視線に気付いた。ウタはともかく、二人はどことはなしに楽しげだ。

 ややあって、ルカは深々と息を吐いた。

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