わーってるよ、小姑

「あ、そーだ。ルカ、四月から新しいの入ってくるからな。ぎりぎり退院に間に合うかな? 二人、お前の同期だ。正式にゃまだだけど、確定だぜ」

「だれ、っ…」


 思わずリツに詰め寄りかけたルカは、痛みに声もなく伏せた。緊張がけたからか、感覚が戻っているところがつらい。おかげで、下手に動けない。


「あーあー。ルカ君、怪我に関しちゃ誰も肩代わりできないんだからね。自分で気遣うしかないんだよ。それをまあ…。リッさんも、何も今話さなくってもいいでしょうに」

「えっ、そうか? ごめん、ルカ」

「いえ、あやまられるようなことじゃ…だれ、ですか?」


 同期の人数はそう多くない。

 しかもソウヤいわく年々減っていくらしいが、今のところ、ルカの耳に同期が辞めたとの話は届いていない。もっとも、届いていないだけのことかも知れないが。

 とにかく、名をげられれば顔が思い浮かぶくらいには知っている者ばかりだ。

 リツが一度、許可を求めるようにソウヤを見た。ソウヤは肩をすくめて返す。今更と言いたげなかおをしていた。


「スガとヒシカワだ」


 ルカは、あやうく飴を丸呑みするところだった。


 スガは同期の中で一番の家柄の出で、ヒシカワは首席。

 二大有名人、と言っても過言ではなく、別の意味で目立っていたルカとは縁の作りようもなかった人たちだ。実際、ろくに話した覚えもない。

 そんな二人が同僚になるのは――ルカには、正直気が重い。


「なんだ、顔色悪いぞ。悪化したか? ヤカン顔に言って早く封鎖解かせるか?」

「ヤカン顔!」


 慌てるリツと噴き出すソウヤと。

 同期となると比べられる、今以上に使えないのが二人に知られてしまう、とルカはそれどころではなかった。痛んだ体がいっそう重い。


 ソウヤが、笑いながらリツの背を叩いた。


「リッさん、スダ一佐に根のこと話して、封鎖解くよう言ってもらってください。ちゃんと、礼儀正しくしてくださいよ。絶対にヤカン顔とか言わないでくださいよ」

「わーってるよ、小姑こじゅうと。ルカ、すぐ救護班呼ぶから、待ってろよ!」

「たのみますよー。…さて」


 一度フルヤの様子を確認して、ソウヤはルカに向き直る。しばらく、意識は戻りそうにない。


「これだけの怪我人が出たら、大っぴらに査問会とか開かれるんだよね。その予行演習ってわけじゃないけど、くよ?」

「はい」

「あの爆発はルカ君? フルヤ君?」

「…ぼく、です」

「そのときフルヤ君は? もう気を失ってたのかな」


 ルカは、小鳥のことも含め、半ばソウヤに誘導されながら今までにあったことを話していった。喉は、やはりかすれるが飴のおかげか大分ましになっている。

 ソウヤは、自分の意見を挟まずとりあえずは最後まで聞いた。


「一度は退こうとしたんだね?」

「はい」

「それなのにどうして?」

「はながひらいてて…たいちょうたちもはなれてて…どうにかしないとって…たぶん…」   

「で、駆けつけたリッさんに真っ先に残ってるだろう根のことを伝えた、と。…凄いなあ、本当にリッさんのじき弟子だねえ。うーん、長生きできないよ、ルカ君」


 笑ってはいるが茶化している感じはない。ルカは、どう反応していいものかわからず、沈黙を守った。

 不意に、ソウヤの声の調子が変わる。

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