しばらく自重してください

 ソウヤは笑い、硬いものをルカの口に入れた。ほのかに甘い。


「のど飴」

「ありがとう、ございます」

「気休め程度だけど、結構重宝するよ。やあしかし、随分間近で喰らったね、これ」


 喋りながらも手当てをしてくれているらしく、背に穏やかな冷たさが広がる。薬を塗っているのだろう。


「フルヤくん、は…?」

「ん、外傷はかすり傷や打撲くらいじゃないかな。ルカ君の方がよっぽど重症。何日か入院だね、これ」

「え」


 考えてみればその程度で済めばマシな部類なのだが、ルカは絶句した。

 術も体作りも積み重ねが重要で、ルカもこのごろようやくいくらかましになったと感じていたところだったというのに。


 ぶは、と、ソウヤが噴き出した。


「ほんっと、ルカ君ってリッさんの弟子って感じだね。給金もらいながら休めるんだから、ラッキーくらいに思っとけばいいのに」

「…そんなの…」


 余裕があるから言えるんだ、とは、さすがに口には出せなかった。が、ソウヤは肩をすくめる。


「焦りなさんな、若人よ。実際、少しやりすぎだったからね。丁度いいよ。――スダ一佐も召し上がりますか、のど飴」

「いや――ああ、もらおう。よく持っているな、こんなもの」

「上司の十八番の一つが晴月ですから。フルヤ見習いは、気絶しているだけのようですよ」

「そうか」


 ふっと空気がやわらいだのが、ルカにもわかった。ソウヤが、それに乗じたのも。


「ありがとうございます、任せてくださったようで」

「失礼、外と連絡を取ってくる」

「――照れ屋だなあ、あの人も」


 あまり嬉しくないだろうソウヤの評を追うように、爆音が響いた。

 その遠さに、ルカはぎょっとする。花からはあまり離れていなかったはずなのだが。


「たいちょう――ひとり、で?」

「ああ。情けない話、リッさん以外、下手したらルカ君の二の舞だしね」


 さらりと、そんなことを言う。ルカとしては身の置き所がない。

 やがて、戻って来たリツが、どかりと胡坐あぐらをかいた。


「俺にもアメ」   

「はいはい。スダ一佐は向こうで連絡中です。えらく、音が遠かったですね?」

「ああ、凄いぞあれ、根っ子だけで逃げようとした。花と根で別々に妖異がいてたんじゃないか?」

「はあ。で、終わりました?」

「おうよ」

「お疲れ様。後は、俺に始末書押し付けるだけですね。ルカ君は多分、短期入院。ってことで、リッさんもしばらく自重してください」

「えっ、入院すんのかルカ。大丈夫か?」

「大丈夫じゃないから入院するんでしょうに。ルカ君、もう一個いる?」

「あ――はい」


 ルカの口の中にもう一つ、飴が放り込まれる。

 今度のものは妙に甘く、薬草の味もない。これではただの飴ではないかとルカが不思議に思っていると、あ、とソウヤが声を上げた。


「ごめんごめん、それ、リッさん用のただの飴だった」


 何故二種類。

 残念ながら、突っ込もうにもルカは喉が不調だ。すっかり緊張の糸が切れたと、ルカは内心で呟く。いいのか悪いのかすらわからない。

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