よく頑張ったね

「ルカ君、このままだと上に睨まれるよ。リッさんの部下ってだけで十分なのに、まさかこの短期間でこれほど馴染なじむとはね。正尉までは筆記試験の比率が高いけど、それ以上の昇進は厳しいかもしれないよ。査定が主だからね。リッさんは部下の手柄を横取りするような人じゃないけど、十一隊の功績自体があまり認められてないんだ」

「…センパイは」

「んー。俺は、スパイってことになってるから。一応、上のうけは悪くないんだよ。ま、いつまでもつかわかったものじゃないし、あっち側に戻るつもりはさらさらないんだけど」


 ルカが黙ると、ソウヤは肩をすくめて続けた。


「ある程度は、身を守るためにも出世しておいた方がいいんだよ。したなんて、好き勝手移動させられたりするから。だから、離れるのもテだよ? 四月に二人入ってくるから、人手はまあ何とかできるし。今のままここにいれば、下手したらかたきにされる。リッさんの代わりに」


 さあどうする、とでも言うように、ソウヤは言葉を切る。ルカは、ゆっくりと息を吐いた。


「――ぼくは、たいちょうと、センパイのところで、つよくなりたい、です」

「いいのかい? いい加減、俺も誤魔化せないし、今回のこれ、ルカ君の手柄ってところ大きいからね。スダ一佐、生真面目きまじめな人みたいだからもしかすると丸々うちの功績をそのまま報告してくれるかも知れない。そうなると、めに回された上に上司に気を遣って転属届けも出せない、って線では押し切れない。かくして、君も目ざわり集団の片隅に席を得てしまう、と」

「かまいません」

「俺は、ルカ君のことまでは面倒見切れないよ? 余裕があれば助けるけど、いつもそうとは限らない。それでもいいのかい?」

「はい」


 ふふふふふふふふ、と、突然ソウヤが笑い出した。

 ぎょっとして、ルカは思わず顔を上げる。ソウヤが、あくまで爽やかに、み崩れていた。

 ルカの視線に気付いて、ソウヤがひらひらと手を振る。


「そうやって覚悟できちゃってるルカ君が、どんな子が来ようと、見劣ることはないと思うよ」

「――え」


 見抜かれていた。

 思わず、ソウヤを凝視してしまう。


「大体、いつまで学生のコンプレックス引きずってるんだか。今回証明しただろう。ルカ君は十分に戦力なんだから、机上の空論だった頃のことは置いといていいんだって。他はともかくうちでは、倒れるくらいまで頑張って成果も見せてくれるくらいじゃないとやっていけないね。まあ、本当に倒れられると困るから、もっと底力つけてね」

「は、はい」

「それと俺、今まで話した中で嘘はついてないからね。生きびたかったら、自力でなんとかするように」


 にこやかに釘を刺してから、ソウヤは、軽くでるようにルカの頭を叩いた。


「よく頑張ったね。後は任せて、君は休んでなさい」

「はい。…とりが…」


 ルカは小鳥もそのあたりで気を失っているのだと伝えようとしたが、言えたかどうか、よくわからなかった。

 完全に気のゆるんだルカは、呆気なく意識を手放してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る