本当に、人が悪いんですね

「リっさんが得た推薦は、当時の兵団総括、ニシダ氏。リッさんの後見人のものだった。むしろ、これがあったからこそ、十一隊前隊長の推薦書や隊員の事前の支持書が認められたともいえるだろうね。かくして、あの人は隊長への挑戦権を手に入れ、今に至るというわけだ」


 そうソウヤは締めくくり、いつの間にか空にした皿を、サイドテーブルに戻した。そうして、ルカを見てにやりと笑う。


「感動的な話だろう?」

「感動、というか…凄い話ですね」

「うん。他人事みたいに言ってるけど、君もその一員だからね」

「………はい?」


 理解できない、というよりは理解したくなくて首を傾げて半ば固まったルカに、ソウヤは、人好きのする笑みを向ける。

 笑顔なのに不穏なのが厭だ。


「ルカ君、うちに来たときにたくさんサインしたでしょ。覚えてる?」


 申請や申告の書類を、入院する前のソウヤに言われるままに片端から片付けていった覚えはある。 

 え、もしかして、とソウヤを見ると、にっこりと肯く。


だまちで悪いけど、あの中に俺の支持書が潜んでたんだよ。ルカ君の支持書はまだだけど、今頃、リッさんが推薦書を書いてるね」

「え」

「それらを活用するかどうかはルカ君次第だけどね。そもそも、前例があるからといって次も通るかどうかはわからないし。でも理念としては今も、続いてるんだ。リッさんが十一隊の隊長になった六年間、その前からずっと。それだけは、覚えておいてほしい」


 ほんの一日足らずで一挙にしらされた物事に、ルカは、軽くめまいをおぼえた。

 つか真顔になっていたソウヤは、いたずらを企むようなかおをした。


「これは余談。俺が副長になってから、全く人が居つかなかったわけでもなくてね。そのたびに、リッさんも俺も書類を作ったわけだけど、リッさんはいつも、この病院に来る。ここには今も、先代の、リッさんが入隊した頃の副長が入院されてるんだ。意識は戻らないけど。いつもあの人は、その人の枕元で仲間を隊長に推挙する書類を書いてる」


 黙り込んだルカを見て、ソウヤがしれっと笑う。


「そう聞いたら、プレッシャー感じるだろう?」

「…本当に、人が悪いんですね」

「だからそう言っただろう」


 ソウヤがあまりに楽しそうで、つい、話の前後を忘れていい人と思いそうになる。

 そんな錯覚をふり切り、ルカは、ややうつむいて床の一点を睨みつけた。迎え入れられて、うれしいが少し心苦しい。厄介なものだと、ルカはひっそりとため息を落とした。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る