隊長にはどうやったらなれるか

 当時のリツを想像しかけて、改めて、ルカは愕然とする。

 最年少での隊長就任――その年、リツは研修を終えたばかりだった。今のルカと、同じように。


 オレンジでのどをしめらせ、ソウヤは続ける。


「作戦は、結果から言えば、最悪は逃れた、ってところかな。妖異はどうにかやり込めたけど、多数の死傷者を出した。体の破片をばらいてうめく奴や、体の一部がつぶされて泣き叫ぶ奴。まあそのへんは、生きてるだけましだったかもね。そして――大打撃をこうむったのが十一隊だ。彼らに割り当てられたところが一番被害が大きかった。十一隊が弱かったからそんなことになったんだ情けない、なんてもっともらしく言う奴らもいたけど、俺はそうは思わない。彼らでなければ、妖異は囲みを脱していただろう。ところで、三部三課の仕事は知っているね?」

「――兵団の、内部監査、ですね」

「その通り。大なり小なり、作戦を行ったときはそこが動くものだけど、このときは規模が規模だけに大掛かりでね。そして、犯人探しや見せしめではないけど、機能不全に陥っている十一隊、ここを廃しようという動きが出てきた。隊長が死亡、副長も重篤、そもそも二班しかなかった班の班長も副班長も、死亡したり重症だったり。他の隊員にしても、復帰が危ぶまれるほどのものがほとんどだった。成り立ちが成り立ちだから、仕方のない流れではあったんだよ」 

「でも――そんなの」


 思わず口を挟んだルカに、ソウヤが、なかば面白そうに寂しそうに、微笑する。そして、不意に調子を変えた。


「隊長にはどうやったらなれるか、知ってるかな」

「え、と。欠員が出たこと、四名以上の隊長格の推薦もしくはその隊に属する者すべての支持と隊長格二名以上の推薦、一定以上の技量を有していること、…でしたか?」


 一応座学で学んではいるが、縁のない話と思っていたために、あまり自信がない。

 ソウヤは、にっこりと笑って頷いた。


「その通り。隊長格の推薦が二人だけで、技量の見極めも形だけの副長に比べて、破格に困難になる。特に、技量、ってのがね。過去に、人望が厚くて多数の推薦を受けたのに技量審査で落ちた人が何人もいるくらいだ」

「それを…通ったんです、ね」


 誰が、とは言う必要もない。

 ソウヤはうなずき、しかし首をふった。


「それも凄いけど、問題は推薦人だよ。冷静に考えて、入ったばかりの新人を隊長に推薦しようなんて思うかい? しかも、他の隊員たちが物理的に身動きの取れなかった状態でリッさんが動けたのには二つの理由がある。一つが隊長と副長が、身をていしてかばったから。そのせいで二人の状態が取り分け悪かったんだといわれても、否定できない。もう一つが、あの人の頑丈さと回復の早さ」


 混じり物、という蔑称べっしょうも、妖異がかりとも、ソウヤは口にしない。

 その表情は平静をたもっていたが、目に、痛ましさ、あるいは怒りがにじんでいた。

 妖異の混じったより自分たちに近い異端を、人は恐れ嫌い、時に、そのものよりも憎む。


「あの人を推薦する隊長は他の九隊にはいなかった」


 だがそれでは、今のリツがあるはずがない。

 ルカはじっと、続きを待った。まるで、夜の昔語りを待ち望む子どものように。きっと、めでたしめでたし、でこの物語は締めくくられるのだと信じる幼子のように。

 ソウヤが口を開く。


「十一隊を守ってくれと、隊長たちは言ったらしい。もう二度と隊員を、隊を失いたくはないと。十隊で一度失ってしまった彼らは、一つの準備をしていた。正式な推薦状と支持書。それらは、隊員の数だけ用意されていた。もし誰かが欠けてしまっても、誰かがこの隊を受け継げるように、と。――それらは、有効と判断された。後は、たった一人の推薦でいい」


「でも」


 たった一人でも、いたはずがない。ほんの新人に、しかも身の内に妖異を潜ませた少女に、慣例のようにそろえられた推薦と支持があるからといって、誰が。

 そこで不意に、ルカは答えを知った。推薦人は、隊長格の者。隊長のみ、ではないのだ。三部の三長でもいいが、これは違うのだろう。


 ルカが見ると、理解を読み取ったのか、ソウヤは肯いた。

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