ソウヤの癖に生意気な
顔を上げると、ソウヤが微笑をたたえて見つめていた。もう笑顔は、ソウヤの基本装備なのかもしれない。
「副隊長は」
「ソウヤ」
「…ソウヤ先輩は、もしその時がきたら、挑戦するんですか」
「するよ。でも、俺は常にあの人の傍にいたいから。リッさんがどうにもならない状況なら俺の方こそ無事じゃないんじゃないかな。――参考になったかな?」
「厭なこと、訊きますけど」
すっきりとした笑みのソウヤを見ながら、ルカは、懸命に体の奥から起こる震えを押さえていた。
どうぞと軽く
「隊長やソウヤ先輩は、どちらかが――例えば妖異に取り込まれたとき、見捨てられますか?」
「うん?」
一瞬、虚を突かれてかソウヤは笑顔を固まらせた。だがすぐに、自然な笑みが取って代わる。
「そりゃあ、本当にそれ以外どうしようもなければ、そうするだろうね。心配かな? そうならないよう、ちゃんと
「そうですね。よろしくお願いします」
いくらか棒読みになっていたが、ソウヤが問い
元気よく、リツが病室に飛び込んできたために。
「話終わったか?」
「リッさん…もっと静かに入ってきてください。怒られるの俺なんですよ」
「じゃーいいだろ」
「よくないです」
「いいの。ルカ、行くぞ。二人ほど金づる見つけたから予定変更。俺のおごりはまた今度な」
「あーもう昼時か。またね、ルカ君」
「え。…はい」
ルカが口を挟む間もなく話は進められ、リツに追い立てられるように椅子から立ち上がる。
「あ、あの。ソウヤ先輩、どのくらいで退院されるんですか?」
「あと五日、の、予定だよ。それまで、リッさんのお
「誰が誰のお守だ、ソウヤの癖に生意気な。ってか何、なんでソウヤは名前呼び? 俺のことは
「へえ? 結構あっさり呼んでくれましたけどね?」
にやにやと笑うソウヤは、明らかに楽しんでいる。リツは、まさか本気で怒ってはいないだろうが、悔しがってはいそうだ。
ルカは、気付けばじりじりと出入り口へ向かって後ずさっていた。
ここで逃げてどうなるものでもないとはわかっているのだが、本能的に、体が逃げに入っている。施設の先生たちに叱られるときと似た反応をしていると気付いた。
状況が違うと思うのだが。
「まあそれはおいて、リッさん、支持書持ってます? 入院中に書いときますよ」
「ん? あ、ああ」
言われて、リツが学生が使うような斜め掛けにしたカバンを探る。
ルカは、そもそもソウヤが
あ、とリツが声を上げ、思わず二人揃って身をすくめる。
「ルカ、ちょっと先行っててくんねーか。向こうにゃお前のこと言ってあっし、目立つ二人組だからすぐわかるだろ。遅れてくって言っといてくれ」
「え。…はい。失礼します」
目立つ二人組みってどんなだろうと内心で首を傾げつつ、ルカはぺこりと一礼して病室を後にした。
追い払われたのだろうと気付かないほどではないが、新参者でしかない自分のいない方がいいこともあるのだろうと、ルカは納得することにした。
病院は、兵団本部と変わらないくらいに人であふれていた。
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