ざまあ系ヒロイン漢道

語部マサユキ

ざまあ系ヒロイン漢道

 気が付けば私は“ソレ”になっていた。

 いわゆる乙女ゲームのヒロイン、マリーナ・ガーネット、それが今の私の名前。

 それは『前世』で散々プレイしていたゲームで、今私がいるこの世界がそのゲームと同じ世界、そして同じ時系列を辿っている事実に今までないくらいに興奮した。

 当然だけど私は全ての攻略ルート、イベントを網羅している。


 つまり、それは私はこの世界を私が思うように好き勝手に操作出来るという事。


 ハッキリとはもう覚えていないけど、私は前世の日本人の頃は特に目立つ事のない地味で平凡な女子だった。

 これはそんな私に神様がくれたチャンスかもしれない!

 乙女ゲームの定番として、ここはとある王政国家の一つで、攻略対象の定番として王子や公爵、伯爵の令息、騎士や大商人の息子などなど例外なくイケメン揃いの男子をえり好み出来て……しかも逆ハー展開すらこのゲームにはあったのだ。


「ウフフフフ、アハハハハ! だったら、ヒロインである私が何をしても世界は私の為に回るはずよね」


 私は自分が望むとおりに、私の為に行動しよう……そう心に決めた。


               *


 そして現在、ゲームではエンディング間近の卒業パーティ。

 本来のストーリーであれば、攻略対象の男たちは自分の婚約者とこの場で婚約破棄をして、ヒロイン、つまり私にプロポーズをするというイベントがあるのだが……。

 そんな場面で、私は全攻略対象のイケメンたちに囲まれていた。

 逆ハー成功……とは言いがたい、慈しみや愛おしさなど欠片もない……どちらかと言えば冷たく、侮蔑も込められた視線。

 そんな中、最高難度の攻略対象アルフレッド王子が隣で困惑の表情を浮かべる絶世の美女を守るように前に出た。


「ガーネット男爵家令嬢マリーナ。本日は貴殿に問いたい事がある」


 睨み付ける視線は鋭く、為政者として威厳すら漂わせ、男として女性を守ろうとする気概すら見て取れる。


「貴殿は我が愛しき婚約者であるサリアに対して度重なる嫌がらせを行ったというのは事実か!?」

「!?」


 その瞬間、私は自身の失敗を認識した。

 サリア・マリーローズ公爵令嬢はゲームではいわゆる『悪役令嬢』で、王子を攻略した時、婚約破棄をされ、更にはこれまでのヒロインに対する虐めや嫌がらせが露見して公爵家ごと断罪されてしまう予定だった。

 その令嬢を『愛しき婚約者』と表現する王子……この状況は。

 視線を周囲に投げると、好奇の瞳を向ける者の中に、既に篭絡済みと思っていた学友たちの姿が。

 特に元々サリナの取り巻きだった令嬢リリアとテディの姿もある。


『しまった! これはヒロインざまあの典型!?』


 私は自分がやり過ぎた事を今更ながら気が付いた。


              *


 前世でプレイした乙女ゲームと同じ世界。

 王政国家で攻略対象に婚約破棄をさせるエンディングを目指す、いわゆる『略奪愛』をテーマにした、逆ハーすらも目指せるこの世界において、行動は迅速でなくてはならない。

 何しろ攻略対象は全6人。

 ゲームの期間は学生の3年間のみなのだから、無駄にする時間など無いのだ。


「すでに出会いイベントは終わっているのよね~」


 私が『前世』を思い出すまでに攻略対象との出会いイベントは全員終わっていた。

 つまり、すでにゲームは始まっている。


「イベントが始まる前に……急がなくっちゃ!」


 私は最初の目標に向けてダッシュした。



 ある麗らかな午後、本日の授業を終えて優雅につかの間のティータイムを楽しむ令嬢が二人いた。

 それはサリナの取り巻きである令嬢、リリア嬢とテディ嬢。

「そう言えば、お聞きになりました? アルフレッド王子に接近したと噂の男爵家令嬢の話」

「ええ……サリア様というれっきとした婚約者がいらっしゃるというのに、王子のお手に触れるなど……一度釘を刺しておくべきかしら?」

「そうですね、いざとなれば……」


 扉の前、廊下にも聞こえて来た話の内容は、本日転んだところを王子に助け起こされた男爵家令嬢、つまり私の話だ。

 それだけなら大した事ではないけど、あればゲームで言う出会いイベント。

 つまり『他の女』が友人の男に手を出す切欠……攻略開始の合図。

 私はそんな“悠長”な事を言っている令嬢二人の声を聞き取り……勢い良く扉を“蹴破った”。


「おそおおおおい!!」

「「きゃあ!?」」


 ドバン! と激しい破壊音と共に入室する私に驚愕する黒髪のリリアと茶髪のテディ。

 どちらも悪役令嬢の取り巻きに相応しく、きつめの瞳だが驚いた顔は可愛らしくある。


「遅い遅い遅い! どこの馬の骨とも分からない女がサリア様の婚約者である王子に接触を図ったのよ! 速攻で動かなくてどうするの!!」

「は、はい!?」

「あ、ああ! 貴女は!!」


 突然の出来事に面食らったようだが、真っ先にテディは私が件の男爵令嬢である事に気が付いたらしい。

 居住まいを正すと持ち前のキツイ瞳で睨みつけて来る。


「なんなのです貴女!? 無作法にも程があります!!」

「そ、そうです! それにアルフレッド王子に接触した件だって無礼極まりない。恥知らずにも時期王妃にでもなるつもりですか!? 男爵令嬢ごときがなれる程甘くは……」


 追従してリリアも私に対する糾弾を開始する。

 元々偶然コケた私(ヒロイン)を王子が助け起こした……ただそれだけの事だ。

 ゲームとかを考えないのであれば、彼女たちが言っている事はこの時点では言いがかりの部分が大きい。

 本来であればもう少し後に“サリアを含めた面々にヒロインが呼び出されて”この言葉を投げつけられる『予定』だった。

 ゲームでの私(ヒロイン)は弱弱しく『そ、そんな! 王子は私を助けてくださっただけで……』と言うのみなのだが……。

 私は自分の思いの通りに、堂々と言い放った。




「当たり前でしょう、そんな事。何、寝言言ってるんですか貴女方」




「「へ?」」


 再度呆気に取られる二人の令嬢。

 いけませんよ、淑女がそんな大口で……はしたない。


「次期王妃となるべく幼少から英才教育を施され、そのこと如くを自らの力として吸収し、それでも努力を惜しまず成績は常に優秀。磨かれた礼儀作法は美術品の如く完璧。鍛え込まれた体は生半可な美辞麗句では到底表現できない完璧さ。ブレない姿勢はダンスでも変わらず見たもの全てを魅了する上級者。更に女神の如き神々しいあの美貌…………平凡な男爵令嬢如きの私が入り込む資格がある、なんて考えるワケが無いでしょ!!」

「は、はあ……」

「すみません……」


 私の弾丸トークに二人は気の抜けた声を漏らした。


「まあ王子も王子ですけどね。お優しいのは美徳ですが、年頃の娘に夢を見させてしまうかもしれない行動は控えるべきです。 ……助けていただいた私が言う事では無いのですが……」

「そ、そうですね……それは確かに」

「な、なんだ……貴女、中々分かってらっしゃるじゃないですか」


 元々は公爵家の参加として従う家柄の二人だが、彼女たちはどちらも“サリア様ラヴ”で繋がっている。

 サリア嬢を褒め称えられて悪感情を抱くはずも無い。

 その後もサリア嬢を持ち上げる発言を繰り返す私に対して、最初の驚きや警戒心はすっかり霧散。

 私は二人のティータイムに入り込む事に成功した。


 ……さて、本番はここからだ。

 

「……サリア様の名声は隣国でも轟いています。この間は外交にすら大人顔負けの意見を述べていたとか」

「さすがサリア様です! まさに次期王妃に相応しいお方!」


 止め処もなく続くサリア嬢を持ち上げ高揚していく二人。

 私はそんな二人に冷や水の如き言葉を放つ。


「まあ……残念ですが欠点が無いとも言えませんが」


 その瞬間、恍惚としていた瞳がきつい物に変わり、私に向かって刺さる。


「……何をおっしゃってますの?」

「いえ、確かにサリア様は優秀です……優秀すぎる程に。ですから万に一つ、恋愛面において、他者が入り込む可能性が無いとは言い切れません」


 私の言葉に令嬢二人は怒りを露にして立ち上がった。


「無礼な! 王子との婚約は国王が定めた国事! 他者が簡単に入り込む余地など」

「そうです! アルフレッド王子の相手として相応しい方は他には……」

「……“そこ”ですよ」

「「え?」」


 激高する二人に私は努めて冷静に、冷淡に聞こえるように言う。


「王子としては常にそんな優秀すぎる女性が婚約者としているのです。国を預かる王族として、そんな能力者の事を……どう思いますか?」

「え? でもそれは……」

「当たり前な事なのでは?」


 私の言いたい事が伝わらないらしく言いよどむ二人。

 どうやら気持ちを共有できていないようね。


「ならば分かりやすい喩えを一つ。リリア様、テディ様……」

「はい?」

「なんです?」

「貴女方はサリア様の一のご友人です。ならば明日よりあの方の友人に相応しいように、あの方と同等の学力、礼儀作法、外交能力、その他もろもろの全てを身に付けて下さい……って言われたら、どうします?」


 私の言葉に二人は真っ青になって凍りついた。


「で、出来るワケが無いでしょ!」

「サリア様の英才教育は幼少期からに及ぶ! 今から急に出来るワケ……」

「でも、アルフレッド王子は昔から言われ続けてきたはずです。しかも殿方であるのですから恐らく『サリア様よりも上であれ』と」

「「!!」」


 今度こそ二人とも私が言いたい事を理解したらしい。

 そう、ゲームのストーリー上王子との婚約破棄の原因になるのは、幼少から優秀である婚約者に対するコンプレックス。

 王政国家の男尊女卑がまだ根強いこの国で、周囲から女性より上で無くてはいけないと言われ、その相手がこの国で最優秀である公爵令嬢なのだ。

 そのプレッシャーに晒され続けた王子が脇を見た時、自分より遥かに地位の低い男爵令嬢が懸命に頑張る姿に心を動かされる……それが王子ルートの全容だ。


「それは……確かに辛いですね」

「あの優秀なサリア様の上を義務付けられるなど……」


 この二人はゲーム上サリア嬢の取り巻きで、ヒロインの嫌がらせでは実行犯となるのだが、よくある断罪現場での手の平返しはしない。

 断罪されるサリアと共に潔く命運を共にする……ある意味本当の友人。

 だからこそちょっかいを出すヒロインが許せず嫌がらせに加担してしまうのだけど。

 でも、私はそんな二人だからこそ……『あのゲーム』において嫌いなキャラではない。


「でも、でしたらどうすれば良いのですか?」

「今更サリア様に愚者を演じろ……とでも?」

「……殿下が愚者であれば効果的かも知れませんが、この場合残念ですが逆効果でしょうね。王子も優秀な方には違いがありませんから」


 そう、コンプレックスに感じていてもアルフレッドだって優秀。

 実際成績に関しても毎回サリアを2位に位置づけているのは他ならぬアルフレッドなのだから。

 そんな相手に手を抜くのは逆効果。

 怪獣ゴッコでわざと倒れる敵に喜べるお子様ではないのだ。

 ソレを打破する為には……。


「私に……妙案がございます。ご協力、願えませんか? お二方……」


 私は戸惑いの表情を浮かべる二人の令嬢にニヤリとした笑顔を向けた。


              *


 公式設定というのがあのゲームには存在していた。

 各キャラクターの詳細の中には攻略対象に関する事が主ではあったのだが、その中には悪役令嬢サリアに関する設定もあった。

 プライドが高いが努力家である、という外見でも分かる設定に紛れて、彼女はある物が苦手であるとされている。

 そ・れ・は……。


「ひ!?」

「!? どうなされたのです、サリア様」

「何かいましたか? 虫か何か……」


 突然声を上げた彼女を心配する取り巻き二人、だが彼女はすぐに居住まいを正し、いつも通り冷静で美しい令嬢の姿を取り繕った。


「な、何でもありませんわ……ほほ」


 しかし扇子で隠した口元が震えているのは分かる。

 そして「さあ、お二人とも。次の授業が始まってしまいますわ、行きましょう」と足早に、まるで一瞬でもその場にいたくないとばかりにサッサと教室へと向かう。

 そんな彼女の姿を確認した取り巻きの二人は顔を向けずに“私”へ親指を立てた。


 今サリア嬢が声を上げた理由、ソレを私たちは知っている。

“歩いていた廊下の窓の外で、上から生首が落ちるのを見た”からだ。

 何故知っているのか……それは犯人が私たちだからさ。


 彼女が唯一苦手としているのは『怪談』に相当する、いわゆる『お化け』だったりする。

 高いプライドを維持するためにその事をひた隠し、他者には絶対に知られないように気を配っていたワケだが……この前、不幸にも彼女は聞いてしまったのだ。

 いま噂になっている学園にまつわる怪談を。


 昔、この学園で貴族令嬢へ身分違いの恋をしてしまった男が、決して結ばれない事に絶望して自らの首をかき切って絶命した。

 それ以来、この学園では男の生首は『フリーの、しかも高貴な身分の令嬢を求めて彷徨っている』という……どこにでもありそうな怪談。

 しかもこの怪談は話を通じて伝播して、より身分の高い令嬢の前に現れ、さらに狙われた者以外は目撃する事がない……という。


 サリア嬢は友人の手前、「なんとまあ下らない噂ですわね。そんな未練タラタラな軟弱者、わたくしが成敗して差し上げますわ」などとのたまったものの、内心は心底怯えていた。

『なんて話を聞かせるのよ! しかも高貴な身分が狙われるのなら、公爵令嬢のわたくしは最有力候補ではありませんか!?』と。


 そして彼女には悪霊の回避方法をそれとな~く知らされていた。

『フリーだと狙われる、けど想い人と一緒にいると悪霊は出て来れない』という事。

 当初彼女は頑張っていた。

 彼女は幼少から『王子の支えにならなくてはいけない私が、王子に甘えてはいけない』と考えていたのだった。

 しかし、度重なる生首遭遇(私たちのいたずら)に彼女のプライドはとうとう折れた。


「も、もうしわけ、ありません……アルフレッド殿下……わ、わ、わ、わたくし……わたくしは、その……」


 偶然二人きりになった時、いつも大衆の前では気丈に振る舞い、隙を絶対に見せない彼女が、王子に対していいたいことも言えず涙目でしがみ付く。

 そして、いつも頼られたり甘えられる事のなかった優秀すぎる婚約者が、自分を男として頼るその様は可愛らしい女の子のそれ。

 ギャップ萌えとは良く言ったもの、何しろ約18年分のギャップ萌えだ。

 王子は戸惑いつつも顔を赤らめる。


「わわ、分かった、分かったから……少し落ち着け。バーナード、一旦彼女を私の部屋で休ませる。手配をしておけ」

「畏まりました王子」

「え!? あの、それは……」


 お付の執事へそう伝えると、王子はサリア嬢の手を優しく取った。


「さあ、行こう。大丈夫だ、君は私が守るから」

「え……あ、は、はい……」


 その二人の姿を茂みから確認した私たちは歓喜のハイタッチをかました。


*『』内、小声

『っしゃあ!』

『やりました! ついにやりましたわ!!』

『苦節一ヶ月、いや~長かったですわね!』


 学生、未婚の男が部屋に女性を招き了承する……本来なら結構ギリギリの行為なのは王子も、そしてお付の執事だって分かっているはず。

 しかし、それでも王子から誘った……今この時を逃す手はない!


『リリアン、テディっち、次の作戦よ!』

『OKマリちょん、この事実をそれとな~く学園中に流すのね』

『お二人が完全な公認カップルとして見られるように……了解よ』

『余計な事は言わなくてもいいよ。聞き手が勝手に想像してくれればいいんだから……ど~せ婚約者同士だし~』


 私たちはわる~い笑顔でサムズアップをかました。


                *


 それから私は自分の望む通り、自分の為に奔走した。

 略奪愛の逆ハーヒロイン……なんて胸糞悪い未来をぶち壊すために。

 大嫌いだったが為にやりつくし、全く違う二次創作を作ろうとしていたあのゲームの知識を駆使して、バカップルを増産する為に。

 アルフレッド王子とサリア嬢はあの一件から互いの理解を深め、今となっては二人が一緒にいない日は無いのではと思えるほどのラブラブっぷりだ。

 その他の攻略対象たちも、我々『三羽烏』の活躍によりすっかり婚約者と良好な関係を築いている。

 卒業パーティで、誰も余す事無く傍らに幸せそうな婚約者を伴っている光景に、私は自分がやりきり、成功したと喜んでいた……が。


 最後に訪れたのはヒロインざまあ……か。


 攻略対象たちの私を見る目はヒロインに対するものじゃなく、明らかに敵を見据えるソレでしかない。

 だが……正直なところ、コレも予想はしていたのだ。

 前世の知識を利用してストーリーを改ざんする為に、私は高貴な貴族令嬢たちにあらゆる狼藉を働いた……それは事実だ。

 この結果は……仕方が無いのかもしれない。


「はい……その通りです。私が学園の皆を誑かし、サリア様を始めとするご令息、ご令嬢の方々へ狼藉を働いた首謀者でございます」


 私の肯定の言葉に周囲はザワつく……が、王子とサリア嬢は驚く様子も無い。先刻承知、という事なのでしょうね。

 ちなみに一番巻き込んでしまった悪役令嬢の取り巻き二人、リリアとテディにはいざとなったら『私に騙された』として私を売るように言い含めてある。

 おそらく、だからこそ、王子もサリア嬢もこの反応なのだろう。


 これは私自身の自己満足の為に起こした事件。

 利用させてもらったあの二人を巻き込むのは筋が違う。


「そうか……やはり」


 視線を逸らさない私に対して、王子も視線を逸らさない。

 そして、王子はサリア嬢から受け取った書簡を広げた。


「貴殿の覚悟、国への、王家への忠誠、そして最後まで決して仲間を売る事の無い責任感と胆力……しかと見せてもらった。ここに王家よりマリーナ・ガーネット嬢へ感謝の意を唱えると共に感謝状を贈る」


「………………………………へ?」


 その瞬間、私への断罪で静まり返っていたはずの会場から割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった……。

 な、なに?

 私が戸惑っていると、サリア嬢が前に出て、慈しむような笑顔で私の手を取った。


「貴女がいてくれなければ、私は王子へ素直になる事は出来ませんでした。私たちの今の幸せは貴女がもたらしてくださった物なのです。本当に、ありがとうございます」

「私も、貴殿のイタズラが無ければサリアの魅力に生涯気が付けなかったかもしれん。本当に、感謝しているぞ」


 へ……へ!? な、なにこれ!?


 戸惑い、周囲を見渡してみると、未だに敵視しているような攻略対象たちから聞こえるのは侮蔑とかではなく。


「くそ、自分よりも婚約者を理解されているようで気に食わないが……」

「ああ、彼女のお陰で、と考えると……」


 まさかお前等、さっきからの視線はライバルとしての視線だったのか!?

 いやいや、私に百合属性は無いけど!?


 そして拍手する人々に紛れて見えるのは、手を合わせて私に謝っているリリアンとテディっち……。

 あ! という事は!!


「あんたら! “本当に”裏切ったわね!! こっぱずかしい事になるから真相は言うなって言ったじゃん!!」

「ごめんマリちょん! だって、やっぱり貴女一人が悪者にされるのは耐えられなくて……」

「サリア様に今までの事を全部……」


 んがあああ! これは全部私が私の為に、私の行動で不幸になる令嬢たちを見たくなくてやった自分勝手な所業なのに!

 断じて彼女たちの幸せの為にやったつもりは無いのに!!

 私は鳴り止まない拍手が気恥ずかしくて、思わす頭を抱えてしまう。


「ところで、わたくしも貴女をマリちょんとお呼びしても宜しいかしら? できましたらわたくしにも素敵なあだ名を付けていただきたいのですが……」

「……勘弁して」

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