第14話 アメリカ(2)

「おやっさん!これはどういうことだよ!」

武山駐屯地に到着して、飯山は防護服をすぐ脱ぎ、汗を拭い終らない中、携帯で岡山総理に直通で電話を掛けていた。岡山総理は父方の親戚だったため、電話番号は知っていた。電話に出るなり、飯山は大声で怒鳴ってしまっていた。総理を怒鳴れる自衛官など前代未聞であり、電話すると知っていた中村は思わず言葉を失った。

(いきなりなんだ!俺が何かしたってのか?)

総理執務室で会見前の束の間の休息をとっていた岡山はいきなりの親戚からの電話。それも最初から怒鳴られ気分を害しながら怒鳴り返してしまっていた。飯山は怯むことなく事情を話す。

(俺達が調査していた平塚市の海岸線。事実上いま、アメリカの領土になってるんだよ。奴の残した何かしらを採取しようと強引な手に出たんだろうが、米軍に追い返されるわ。検問は銃口向けられて食らうわで。政府として承諾してんの?)

物凄いタメ語の連続に隣で中村は冷や汗をかいていた。

(いや。そんなことは聞いてもいないし、初耳だ。)

数秒岡山は黙り、そう返してきた。

(それで?いま平塚は?)

「まだ米軍が居座ってると思うよ。とりあえずこっちは被害なしで帰ってこれたからいいけど、」

岡山の唐突な問いに飯山は冷静に返した。

(そうか。良かった。しかし、もう少し辛抱してくれ。一般回線じゃ話せない内容だから何も言えんが、もう少し耐えてくれ。すまん。)

飯山が口を開こうとした瞬間、岡山が口を開き耳を傾ける。その内容に飯山は少し溜息をつき、

「おやっさんも大変だな。分かった。何とかしてくれると信じて耐えます。」

岡山も精一杯やっていることを言霊で感じ、そう返した。

(じゃ、頑張るんだぞ。)

総理としてではなく、親戚の叔父さんとして優しい口調で、岡山は最後に言い電話を切った。

切れたのを確認すると飯山は軽い笑みを浮かべつつ携帯をポケットにしまう。中村は電話の内容を話してくれるのを待っていた。

「もう少し耐えてくれ。だってさ。総理も精一杯やってるってことだったぞ。」

中村の顔を少し見、そう口を開く。そして頷く彼を横目に自身が着ていた防護服の整備を始めた。





 時刻は午後5時を回り、夕日が太平洋を赤く染める。日本海を中心に実施されていた米韓合同軍事演習。巨大生物の報を受け、演習を早々と切り上げた米海軍第七艦隊は、大統領の命令を受け小笠原諸島近海に移動していた。数日前、巨大生物と接触。安全確認のため、一時舞鶴港に入港していた空母ロナルドレーガンは少し遅れて艦隊に合流。その姿は中心にあった。また空母の甲板上には艦載機が隙間なく配置されており臨戦態勢で航行していることは明らかだった。太陽が沈みかけ、各艦には電灯が灯り始める。空母の甲板上には誘導灯が点灯を始めた。その中、一機のオスプレイがロナルドレーガンに近付き、着艦要請を出してきた。グアムのアンダーセン空軍基地に所属しているその機体は、後任の在日米軍司令官を乗せていた。着艦要請を承諾した空母の甲板上には、誘導灯を所持した海軍兵らが姿を見せ始める。着艦体制に入り、ローターが巻き起こす風が海軍兵のシャツを激しく揺らす。やがて機体は甲板に足を付けた。それを見、海軍兵らは即座にワイヤーで固定に掛かる。安全が確認されると、後部ハッチから数人の士官と共に後任の在日米軍司令官となったエドワード中将が姿を現した。艦長や第七艦隊司令が敬礼で出迎える。

「エドワード空軍中将だ。宜しく頼む。」

答礼し、短く挨拶を交わす。彼は貫録が良いと言うタイプの司令官ではなく、細身でエリート感が漂っている人物だった。数日前までワシントンDCで勤務していただけに、雰囲気は周りの人間と違っていた。そして士官らとの挨拶が終わるとエドワードはCIC(戦闘指揮所)に案内された。薄暗く青がかった室内には幾多にも及ぶ電子機器が配置しており、空母のCICは艦隊の頭脳として機能している。複数の隊員らが各所で打ち合わせをしている中、エドワードは周囲を見渡し、

「早速だが、私は大統領から生物の捕獲。または細胞組織の採取を命じられてきている。現在可能な作戦プランについて教えて貰いたい。」

第七艦隊司令に早口な口調で問い質す。

「はっ、捕獲という面では、我が艦隊の保有戦力を以てしてでは現実的な話ではありません。なので、火力攻撃によって表皮をはがし、採取。これが現実的なプランです。そして現在、目標は父島の沖合一五キロ地点。またはその周辺海域に潜伏しているものと、先ほど横田から情報が来ました。確実な位置情報把握のため、捜索部隊を編成中です。」

正面にある大きめの固定スクリーン。そこに映し出されている周辺海域の地図を見ながら艦隊司令は説明した。

「了解した。また動きがあったら教えてくれ。」

艦隊司令の説明に時折頷く。そして話が終わるとエドワードは短くそう言い、追随してきた士官と共にCICを退室した。


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