第13話 アメリカ(1)

真夏の太陽が、平塚市で活動する自衛官らに照り付ける。通常の現場であれば消防や機動隊と共に捜索を行うのだが、放射能汚染という事実があるため、防護マスクを所持している自衛隊で作業を余儀なくされていた。マスクや防護処置を行っての服装に、自衛隊員らは悲鳴をあげていた。気温が四十度近くと計測されてからは、一時間ごとにローテーションで回すよう指示がきていた。その状況下、飯山と中村も例外ではなく、滝のように汗を拭き出しながら、同行を命令されていた部隊と調査していた。

「見つかったか?」

その中、貫録な体系をした和山一佐は無線と体を使った大きな仕草で、付近の隊員に問い掛ける。それを見、バツという合図を全員が返し、溜息をついてしまった。

「表皮なんて、そんなに剥がれるもんじゃねぇだろ。」

その一部始終を近くで見ていた中村は思わずマスク越しに愚痴を吐く。

「しかし見つかれば細胞から奴の弱点が分かるかもしれん。そう愚痴るな。」

隣にいた飯山はそれを聞き、柔らかく注意すると同時に軽く肩を叩いた。そして周囲を見渡し、瓦礫に表皮が付着しているか探すため歩き出した。鋭利になった瓦礫で防護服を破かないよう細心の注意を払いつつ歩いて回る。中村も同様に少し間隔をあけ、歩き出す。その直後だった。数機の米軍ヘリが上空に展開。少し遅れて地上の、少し遠くに目をやると米軍の車列がこちらに向かってきていた。その光景に飯山や中村。そして周囲の自衛官らは視線を集中させた。少ししてヘリや車両から防護服に身をまとった兵士らが続々と瓦礫と化した街に足を踏み入れる。

「中村。お前英語ペラペラだろ。パイロットなんだから。」

視線を外すことなく飯山はそう口を開き、中村に促した。少し困った表情を見せたが頷き、瓦礫に注意しつつ小走りで米兵の元に向かった。自衛官らの視線が一斉に中村に注がれる。数分、言葉を交わし険しい表情で帰ってきた。気が付くと飯山の隣には和山一佐もおり、中村の言葉を待っていた。

「自衛隊は直ちにここから撤収しろ。後は我々が調査を引き継ぐ。だそうです。」

不満な顔で報告してきた。その表情はマスク越しで分かる程だった。

「撤収?馬鹿な。我々は総理からの特命を受けて調査をしている。何故米軍から命令されなきゃならん。」

和山は米兵らを睨みつけ、そう反論した。

「分かりませんが、十分以内に撤収を完了しない場合、我々が撤収の手伝いをすると。」

中村は反論を聞きつつそう続けた。後者のふざけた内容に思わず飯山と和山は失笑した。

「しかし、指定された時間内に撤収しないと、今まで回収したものが取られてしまいますよ。」

飯山は頭を一旦整理し、和山に進言した。撤収の手伝いという事は米兵が自衛隊の所持品を運ぶことを意味しており、どさくさに紛れて採取したものを取られてしまうことを暗示していた。無論、本当に価値のあるものを採取したのかは未知数だったが、奪われては元も子もなかった。それを聞き和山はすぐに部隊に撤収命令を出した。指示を受けた隊員らは忙しく動き出す。

「採取物は各人のポケットに入れるようにな。」

近くにいた直属の部下に小声で命令を伝えた。それを聞き隊員は小さく頷く。そして無線ではなく直接耳を通して全員に徹底させた。

「検問があるだろうからな。見事な指示だ。」

飯山はそう1人ごち、自身も装備をまとめ、装甲車に向け足早に移動する。中村も少し遅れて続いた。

(総員二十名。撤収準備完了。)

車内に全員が乗り込んだのを確認した隊員が無線で報告してきた。飯山らの車内にその声が響く。

(よし。撤収。前へ。)

和山の短い号令を受け、車列は走り出した。数分走り、やはり目の前に検問が見えてきた。

そこには、先程の調査を目的とした部隊のような車両は一台もなく、全て戦闘車両で構成されていた。米兵から停車を促され、ドアを開けられる。ここは一体どこの国だ。乗車している自衛官らの疑問をよそに、M4ライフルを即時射撃位置に保持した米兵らが降りるよう指示してきた。その後数人掛かりでボディチェックや車内の探索を始める。和山は各人のポケット等に入れさせた採取物がばれないよう祈った。日本人は到底しないような乱暴な扱われ方をする隊員もおり、近くの隊員が思わず叱咤した。しかし即座に周囲の米兵に銃口を向けられる。黙る事しか出来ない現状。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる隊員に、飯山は腹底から煮えくりかえるような怒りを覚えた。そして数分が経ち、自衛官らは何もばれずに検問を終えた。直ちにここから去るよう促され、車両を運転する自衛官は全員アクセルを吹かしつつ帰路についた。皆、車内に乗り込むやいなや、安堵の表情を浮かべた。しかし駐屯地に着くまでは私語から厳禁だと言うことは誰しもが理解しており、車内に沈黙が広がる。なぜなら検問の際、盗聴器をどこかしかにつけられている可能性を否定できなかったからだ。数十分掛け、やがて車列は沈黙を守りつつ武山駐屯地に到着した。



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