第五章 3
夢中で走り逃げ込んだ先は、約一年間通い続けた習慣がそうさせたのか、三階にある新吾の教室だった。
前田と手分けして教室の前後の扉をしっかりと閉め、二人は廊下から見えないように教卓の裏に身を潜めた。
教卓に背中を預け、呼吸を整えながら新吾は隣にいる前田を盗み見た。
遮蔽物の無い三階は一階よりも月明かりを多く取り込み、憔悴した前田の表情をはっきりと照らし出していた。自分も前田ほどではないにせよ、同じような顔をしているのだろうなと、再び腕時計の表示を確認しながら新吾はそう思った。
――まだ五十分もあるのか……。
新吾は時計を見たことを後悔した。ちっとも進まない時計の針が憎らしく、これから一時間近くあの恐怖が続くのかと考えると新吾の心は今すぐ前田を見捨てて帰りたい気持ちで一杯になった。
――駄目だ、駄目だ!
新吾は大袈裟に頭を振ると立ち上がって窓際へと向かい、窓を開けると鼻から空気を吸い込み、大きく深呼吸をした。
多少頭の中がすっきりとし、新吾はこれから何をしなければならないのか、もう一度考え直すことができた。そして新吾は一つ、解決策とまではならないが、対抗策として前田に確認したいことがあったことを思い出した。
「前田。指切り様は殺すことも追い返すこともできないって言ってたよな?」
しきりに廊下を気にしていた前田は新吾の方を振り返ると、新吾の質問の意図が理解できない様子で新吾の顔を見つめ、何を今更と不思議そうにしていた。
「殺すことも追い返すこともできないなら、何か弱点みたいなものってないのか? 口裂け女にはポマードみたいなやつ」
新吾は逃げ切るしか前田を生かす手段が無い以上、窮地に陥った際にできることがあれば生存の確率が高くできると踏み、それを前田に聞いておきたかった。
「そ、それなら、先端の尖ったものがあれば。指切り様は針とかが苦手だって言われてる」
前田は新吾の言葉の中にまだ戦う意思や自分を生き残らせようとする思いがあると感じ取り、話す言葉の中に体温が戻ってきていた。
「なるほど。じゃあ……」
新吾は前田から得た情報を現状況に反映させると、教室内にはあれがあるとすぐに思い付く物があった。
新吾は寄り掛かっていた窓枠から体を離すと、教卓へと近付き、教卓の中にあるだろう物を手探りし、一つの箱を取り出した。
「じゃあ、この画鋲でも良いんだよな?」
新吾は手にした箱を左右に振り、カチャカチャと音を立たせながら前田に問いただした。
すると前田は慌てて立ち上がり、箱を振る新吾の手を掴んだ。
「……実際に使ってみないと効果は分からないけど、多分大丈夫だと思う」
新吾は前田の言葉の中に怒気が含まれているように感じ取り、それがどういうことなのか分からず、戸惑いを覚えた。
「それから! ……指切り様は目が悪い分、すごく耳が良いって言い伝えだから、あんまり大きな音を立てるな!」
前田は言い終わると新吾の手を離した。
新吾はまたしても無知が為に前田の命を少しでも危険に晒してしまったのだと思うと、自身の浅はかな行動に反省の念を抱かずにはいられなかった。
前田は気落ちする新吾の姿を見て居た堪れなくなったのか、新吾に背を向けて窓に近付いていった。
「……あのパトカーって、俺達を探しているのかな?」
しばしの沈黙を破り、前田が口を開いた。
新吾は前田の唐突な切り出しについていくことができず、何も言葉を返せなかった。しかし、話題を変えて落ち込む新吾に気にするなと暗に伝えようとしているのが分かると、新吾はそれが凄く申し訳なくもあり、有難くもあった。
「……そうかもな。さっきも下で見たし、小学生二人がこんな時間まで帰ってこなければ搜索の一つもされるだろ」
新吾も窓際まで来ると前田の隣に立ち、一緒に民家の間を走る数個の赤色灯を見下ろした。
暫く無言で赤い光を目で追い続け、一番近くにいた赤が見えなくなったところで新吾は口を開いた。
「画鋲、多分これだけじゃ足りなくなるだろうから、もっと数を確保しに別の場所にも行かないか?」
新吾は助かるかもしれない術があるのであれば、その術をより強固なものとさせたかった。そのためには多少危険を冒すことになったとしても、今はそれが最善の策だと確信していた。
前田は当然隠れる場所の無い廊下へ出ることを拒んだが、新吾の持った画鋲の数がそれほど多くない事にも不安はあるようで、結局新吾の提案を受け入れるまでに少しの時間を費やした。
「……分かったけど、全部の教室に入って画鋲を探すのか?」
半ば自棄になる前田の質問に、新吾はお前を助けたいのだという気持ちを込めて口を開いた。
「いや、図工準備室を目指す。あそこには沢山の画鋲があったことを覚えてる」
前田は少し驚いた表情を作り、そして罰が悪そうに顔を背けた。
「でも図書室、開いてないだろ?」
「大丈夫。扉の上の換気の窓はいつも鍵が掛かってないから、そこから中に入って扉の鍵を開ける」
新吾にちゃんとした考えがあるということが分かると前田の自棄になった雰囲気が取れ、ある程度の覚悟が決まったように新吾の目を見た。新吾はそれを合図と受け取ると先頭に立って教室の後ろの扉に向かった。
「じゃあ、開けるぞ」
「静かにな」
前田の念押しに新吾は無言で頷くと、扉にかけていない方の手に刺さらないように一握りの画鋲を持ち、一つ深呼吸をしてから、そっと音を立てないように扉を開いていった。
少しずつ開き、頭が出せるだけ開いたところで顔を出して左右を確認する。勿論、廊下で指切り様が待ち構えているかもしれないという考えが脳裏をかすめるが、行くと自ら言い出した以上、新吾は覚悟を決めて進むしかなかった。
幸いにも廊下には指切り様の気配は無く、耳を澄ませても足音一つ聞こえなかった。
新吾は廊下に出ると、教室の中の前田に向かって手招きをした。
前田も廊下の様子を確認してから、恐る恐る教室から出た。
――俺が、先に行く。
新吾は無言でまず自分を指さし、次に図工室に向かう方向を指さした。前田が新吾の身振りに頷き、理解したことを確認すると新吾は慎重に一歩目を踏み出した。
一歩一歩、音を立てないように床に踵から足を置くようにして慎重且つ迅速に進む。丁字路にぶつかり、階段側の壁を背にしながら左手にある音楽室の様子を窺う。
音楽室の方に誰もいないことを確認すると一つ胸を撫で下ろし、新吾は続いて工作室に続く長い廊下の安全確認を試みた。
壁の影から顔を半分だけ出し、右目だけで廊下を確認する。こちらも特に変わったところは無く、ひとまず安全そうに見えた。
新吾は前田に向かって頷くと、そっと先を進んだ。
廊下に出てすぐ右手に一階から屋上まで繋ぐ階段があり、立っていた位置からそちらに目を向けた瞬間、咄嗟に新吾は左手で前田の進行を遮った。
新吾の目には屋上の方から三階の踊り場に降りてくる小さな女の子の姿が映っていた。
こんな時間にも関わらず、学校の中に小さな女の子がいることが不気味なのだが、新吾にはその女の子が指切り様だということが分かっていて、あまりに突然過ぎる遭遇に一歩も動けず、こちらに気付かないでくれと祈りながら身動きが取れなくなった。
新吾の祈りが通じたのか、指切り様は新吾達に気付くこともなくそのまま下の階へと降りて行き、やがて視界から消え去った。
新吾は生唾を飲み込んだ。喉の鳴る音が嫌に大きく聞こえて、新吾はそれすらも指切り様に聞こえてしまうのではないかと危惧したが、指切り様が戻ってくる様子はなかった。
しかし指切り様が校舎の中にいることが分かった以上、更に警戒を強めなくてはならないと新吾は改めて自分に言い聞かせ、衣擦れの音すら立てないように細心の注意を払って階段の前を急ぎ足で通り過ぎた。
図書室へ向かう途中も新吾と前田はしきりに背後に気を配り、新吾は手に持った画鋲の箱が音を立てないように注意しながら殆んど後ろを見たまま歩き、しかし何事も無く図書室に到着することができた。
新吾は図書室入口の扉の上部に設置されている窓の一つ隣にある、換気が目的のそれほど大きくない窓を見上げた。
――前田にはああ言ったけど、ここが開いてなかったら、各教室を回るか、一階の職員室に鍵を取りに行かなきゃならなくなるぞ……。
新吾は今からでも先に職員室に行くべきかと考えたが、流石に職員室の扉が開いているとは思えず、更に今は指切り様が下の階にいることを考えると、とてもではないが下に降りて行く勇気は無かった。
新吾は込み上げる不安を打ち消すように首を振ると、その場で跳躍をして辛うじて届いた指先で窓に力を加えた。
幸運にも新吾の想像通り窓には鍵が掛かっておらず、易易と窓を開けることに成功した。
新吾は余計な手間をかけることなく目的の第一段階を達成した喜びを感じながら、膝を充分に使って音も静かに着地した。
「やったな!」
前田は着々と目的地に近付いていることが嬉しいらしく、新吾は前田の言葉の中に高揚を感じ取っていた。
「あとはあそこを通って図書室の扉の鍵を開けるんだけど……」
新吾は初め、自分よりも少しだけ体の小さい前田に窓を乗り越えて鍵を開けてもらうつもりだったが、それを前田に伝えることはなかった。先程一階で起きた、窓が独りでに閉まる現象を思い出し、もしまた前田が窓を越えようとするときに同じ事が起これば、今度は手が届かずに助けることができないと思っての判断だった。
「俺が鍵を開けるから、悪いけど足場になってくれ。あと、これ持ってて」
新吾は持っていた画鋲を箱に戻してから前田に箱を渡すと、不満の声を漏らす前田を無視して、じっと窓を見上げた。
「……チッ。分かったよ」
前田は渋々承諾すると、開けた窓の下で四つん這いになった。
「悪いな」
新吾は前田に一声かけてから、流石に靴のままでは悪いと思い、靴を脱いでから前田の背中に足を乗せた。
前田の背中に乗った新吾は窓枠に手をかけると、腕の力を使って自分の上半身を先に図書室の中へと潜り込ませた。新吾の体は干された布団のようになり、新吾はそこから窓枠と平行になるように体を九十度回転させ、かなり窮屈な体勢になったが右足を中に入れ、今度は右半身が図書室の中に入る姿勢になった。
――あとは左足を通せば。
「佐竹! 早くしてくれ! 指切り様が来た!」
前田の言葉に驚愕し、新吾はぶら下がった状態で左右を確認する。すると、姿こそ見えないものの、間違いなく誰かの近付く足音、それも走ってくる足音が新吾の耳にもはっきりと聞こえてきた。
新吾は急いで左足を通し、碌に足元を確認せずに窓枠から手を離し、室内に飛び降りた。
ところが、着地しようとした足元には低学年向けの背の低い本棚があり、それに足をぶつけた新吾は態勢を崩し、咄嗟に受身を取ることもできずに新吾の体は床へと打ち付けられた。
予想外の出来事と体の痛みに少しばかり新吾が床に伏せながら混乱していると、前田が早く開けろとばかりに扉を叩いて催促していることに気が付き、新吾は匍匐前進のように這いながら扉に近付き、鍵を捻った。
錠の開く音とほぼ同時に扉が勢い良く開き、自分の通れる最小限の幅を滑るように通り抜けると前田はすぐさま扉を閉め、再び鍵を掛けた。
二人がほっとするのも束の間、足音は図書室の扉の前で止まり、そして扉に嵌め込まれた磨りガラスの向こうに頭がやっと見えるくらいの人影が現れた。
新吾は呼吸音すら指切り様に聞こえないように手で口を押さえながら、空いた方の手を使って前田の注意を引き、扉から離れるように指示を出した。
指切り様は扉を開けようと何度も試みたが、掛けた鍵がしっかりとそれを防いでいた。
そして諦めたように磨りガラスの前から人影が消え、二人が息を殺して指切り様の動向を見守る中、今度は新吾が図書室に入るのに使った窓の真下辺りの壁に、何かがぶつかるような音が鳴り始めた。
音は一定の調子で何度も鳴り、次第に壁の高い位置から聞こえるようになっていった。
――あの窓から入ろうとしてる!
新吾は指切り様の行動を察すると急いで壁際に駆け寄り、開いたままの窓を閉めるために本棚を足場にして跳躍し、窓のガラスに指を押し当て、撫でるようにして窓を閉めた。
新吾は閉まっていく窓を見つめ、次は鍵を掛けなければと足場に気を付けて着地し、もう一度跳躍しようと深くしゃがみこんだ瞬間、閉まる直前の窓が不自然な形で突然停止した。
新吾は思ってもみなかったことに驚き、しゃがんだまま固まって動けなくなり、固まった新吾とは対照的に閉まりかけの窓が自然とまた開いていき、そしてその下からゆっくりと黒い人影が姿を現した。
「逃げろ!」
ここはもう駄目だと判断すると、新吾は本棚から飛び降り、図書室の一番奥のいつもの窓に向かって駆け出した。その新吾の動きに釣られ、少し遅れて前田も走り出す。
「先に行け!」
前田よりも先に窓に辿り着いた新吾は手早く窓の鍵を開けて窓を開くと、後から来た前田を促した。
新吾は前田が窓を乗り越えてベランダへ出たのを見届けると、すぐに自分も後に続き、そのまま走り出そうとしたが足を止め、大した足止めにもならないと分かっていながらも窓を閉めてから前田の後を追った。
新吾が図工準備室へ向かうために正面を向くと、既に前田は準備室の窓を開ける動作をしていた。
「早く、早く!」
新吾が準備室の窓の前まで行くと、既に中に入っている前田が新吾を急かし、手を差し出していた。
新吾は無言で頷きその手を掴み窓枠に足を掛けると前田の手を引く力に合わせて一気に飛び上がり、図工準備室へと飛び込んだ。
前田は新吾を中に入れると、手を離してすぐに鍵の掛からない窓を閉めた。
「早く画鋲を探そう!」
新吾は窓に手を置いたままの前田に声をかけると、返事を待たずにすぐ行動に移った。
「図書室の窓は鍵が掛けられなかったし、ここの窓も鍵が掛けられないから、指切り様がここに来るまでそんなに時間が無いぞ!」
新吾は前田に伝えたかったのか、言葉にすることで自分自身に言い聞かせたいのか、どちらともつかない状況分析を口にしながら必死になって画鋲を探した。
――確かこの辺りにあったはずなんだけど……。
手元が暗く、搜索は思っていた以上に困難を窮め、それが新吾を焦らせた。
「あった!」
指切り様に居場所を見つけられ、危険を冒してまで来たにも関わらず、目的の物を手に入れられずに全てが徒労に終わってしまうのかと泣きそうになっていた新吾の背後から、そんな気持ちを払拭する前田の一声が上がり、新吾は泣き面から安堵と歓喜の面持ちに変わり、前田の方に振り返った。
しかし、二人が喜びを共有するよりも先に、二人の入って来た窓が勢い良く開き、新吾がそちらに目を向けた時には既に窓枠には子供のような体格の黒い人影が立っていた。
「前田! それを投げろ!」
新吾は前田に指示を出すと、自分は急いで指切り様の立つ窓とは対面にある、廊下に続く扉に近付き、鍵を開けた。
新吾は一度、自分達の命綱となる画鋲が指切り様に対してどれほどの効果を発揮するのか、その目で確認しておきたかった。だからこそ、すぐに逃げることはせずに前田が画鋲を指切り様に投げるのを待っていた。
「早く!」
「分かってる!」
もたつく前田を急かすと、前田はようやく画鋲を指切り様に向かって投げた。
「があああああああっ!」
前田が画鋲を投げてすぐ、指切り様はその小柄な姿からは想像もできないほどの低い叫び声を上げ、苦しそうにしながら立っていた窓枠から後ろに倒れ込み、新吾の視界から姿を消した。
新吾はあまりの効果のほどに驚いた。それと同時に手応えと一縷の希望を胸中に抱き、思わず拳を握った。
「前田、早く行くぞ!」
新吾は、はっきりとした対抗策を手にしたことで若干の余裕が生まれ、次の対策をすぐさま練り上げ、実行に移すことに決めた。
新吾は前田を連れ立って走り、途中、脱いだ靴を拾い上げると再び教室棟と特別棟の交点となる階段前まで戻ってきた。
「ここで止まってどうするんだよ? もっと離れようぜ」
指切り様から少しでも離れたい前田は暗くて良く見えなくなった図工室の方を不安気に見つめながら新吾に提案する。
「いや、ここで良い」
新吾は下へ向かう階段と普通教室へ続く廊下、そして今走ってきた特別棟の廊下を注視しながら言葉を続ける。
「ここなら指切り様がどこから来ても、反対側へ逃げられる」
「……そうか。じゃあ、俺はこっちを見張るから」
「それから、俺にも画鋲くれ」
前田は新吾の顔を数秒見つめ、それから何か言いたそうにしていたが、結局何も言わないまま新吾に画鋲の入った箱を渡すと背を向けた。
新吾はそんな前田の態度に少々疑問を抱いたが、今は監視の方が大切で、特に問いただすまでもないだろうと思い、あえて問うことはしなかった。
数分経っても指切り様が追ってくる様子は見られなかった。嵐の前の静けさなのか、不気味なくらいの静寂が辺りを包み、どこにも指切り様の気配が感じられなかった。
「……佐竹さ、なんか、冷静だよな」
「え?」
唐突に独り言のように口を開いた前田の言葉を、新吾は初め前田からの賞賛の声と受け取った。しかし、声色が暗く、少し硬い印象を受け、新吾は前田が自分への疑念を抱き始めたのではないかと思い直し、言葉を返すことができなかった。
新吾が言葉に詰まり、床に視線を落とすと、床に映る自分の薄い影の右肩に丸い瘤のような影ができていることに気が付いた。
新吾は思いがけず驚き振り返ると、そこには新吾の背後の窓をゆっくりと開け、外から中に入ろうとする指切り様の姿があった。
「うわああああっ!」
新吾は悲鳴を上げると共に急いで手にしていた画鋲の箱を傾けると、何個も取りこぼしながらもう片方の手の平に画鋲を乗せ、指切り様に向かって投げつけた。
「おおおおおおっ!」
画鋲を投げつけられた指切り様は苦しみながら校内に倒れ込み、新吾の足元に倒れた。
新吾は床で苦しみ藻掻く指切り様から二、三歩後退りをして距離を取ると、背後の前田を窺った。
驚くことにそこには前田の姿は無く、気付けば階段の下の方から足音だけが新吾の耳に聞こえていた。
自分を置いて逃げ出した前田を薄情に思いながら、ふと、新吾は聞こえていた指切り様の呻き声が聞こえなくなったと、もう一度指切り様の方に向き直った。
するとそこには、何事も無かったかのように立つ指切り様の姿があった。
新吾は今までと急に指切り様の様子が変わったような気がして俄に寒気を覚え、再び手の平に画鋲を出すと、それを指切り様に向かって投げた。
「おおおおおおおっ!」
今度は新吾が画鋲を投げた瞬間に指切り様が唸り声を上げ、新吾は正面から突風のようなものを浴び、それに気圧されたかたちで後ろに尻もちをつき、その衝撃で手にした画鋲が床に散らばった。
尻もちの痛みが治まると、今度は唐突に口の中に違和感を覚え、急いで口の中に指を入れて取り出し、それが画鋲だと分かると新吾は筆舌しがたい恐怖を覚え、早くここから逃げなくてはならないことを悟った。
――指切り様が、怒ってる……。
指切り様が一歩踏み出すと同時に、新吾は指切り様に背を向け、急いで立ち上がると前田の逃げた階段へと向かった。その際、周囲に気を配らずに動いたため、床に散らばった画鋲が新吾の手の平や膝に突き刺さった。
新吾は痛いと感じるよりも恐怖心に加えて体に異物が刺さっている違和感と嫌悪感から平常心を失い、無我夢中で階段に向かいながら手足に刺さった画鋲を手で払い落としていった。
新吾は足元の見えない階段を急いで駆け降り、二階を素通りして、そのまま一階まで降りた。とにかく新吾は指切り様と距離を取ることだけを考えていた。
一階の廊下の柱に背中を預けると、新吾は少しだけ顔を出して指切り様が自分を追ってきているのか、様子を窺った。荒くなった呼吸を可能な限り音を抑えて整えながら暫く階段を見張っていると、上の階から微かに足音のようなものが新吾の耳に入った。
――近付いてきてる。それに……、これは……、歌か?
上の階からぺたぺたと、一歩一歩確かめるような足取りで降りてくる足音と共に、お化けビルの中で指切り様と契約した際に聞こえた、あの幼い声で指切りの歌が聞こえてきた。
――歌なんか歌ってるのかよ……。
次第に追い詰められ、唯一の対抗策でもあった画鋲の効果を失った新吾と、まだまだ余裕のある指切り様との差に、前田を戦い守ろうとする新吾の意思は今にも折れてしまいそうだった。
新吾はそっと柱から離れると一階の三年生が使う下駄箱の方へと隠れ場所を変えた。
新吾は階段を降りた先の廊下が見張れる位置で再び柱を背にし、少し顔を出して耳を澄ませた。
指切りの歌は聞こえなくなっていたが足音は継続して聞こえていた。指切り様の足音は本当に小さく、耳に神経を集中させていないと聞き取れないようなもので、近付いているのは分かっても、今どの辺りまで来ているのかまで推測することは困難だった。そのため、階段の柱の影から突然指切り様の姿が現れたとき、新吾は思わず悲鳴を上げそうになった。自分の口を押さえて何とかそれを飲み込んだ新吾は、緊張の中、指切り様の動向を監視し続けた。指切り様はゆっくりと新吾の隠れる下駄箱の方へと進み、新吾は無策でここに逃げ込んだ自分自身を呪った。
――もう駄目だ……。逃げ場所がない……。
絶望し、逃げることを諦めた新吾の方へ、一歩ずつ近付いていた指切り様だったが、意外なことに唐突にその歩みは止まった。
どういう理由で足を止めたのかは分からないが、気の抜けてしまった新吾はもしかすると諦めるにはまだ早いのかもしれないと思い直し、もう一度指切り様の一挙手一投足に細心の注意を払って監視を続けた。
しばし観察していると、新吾は指切り様が自分のいる下駄箱と、その反対に伸びる空き教室方面と、職員室や新吾達の下駄箱のある方面のどこへ行くべきか迷っているように見受けられた。
――こっちには来ないでくれよ……。
新吾が微かな希望を手繰り寄せるように懇願していると、突然、背後から新吾の口が何かに塞がれた。
新吾は気が動転し、それを引き剥がそうと必死になり、触ってみて口を覆っているものが誰かの手であることが分かると、恐怖心はより一層強いものになっていった。
「静かにしろって! 俺だよ! 頼むから静かにしてくれ」
新吾は自分の耳元で囁く、震える声の主が前田だと分かると、抵抗することを止め、緊張した体から意識をして力を抜いた。
「今ので指切り様がこっちに気が付いたみたいだから、移動するぞ」
新吾は口を塞がれたままの状態で小さく何度も頷くと、それを確認した前田が先に玄関口の方へと静かに移動し、新吾は玄関のガラス越しに差し込む月光のおかげで辛うじて前田の後ろを付いて行くことができた。
新吾達は三列で図書室の本棚のように等間隔に並ぶ下駄箱の間に身を隠すと、新吾が廊下側、前田が玄関側と背中合わせになって、どちらから指切り様が来てもすぐに見つけられるように身構えていた。
そして、また虚ろな足音が段々と近くなり、音の響き方から推察するに、玄関口に近付いていると新吾は考え、ならば廊下の方へ逃げることが最善だと結論を出すと、前田も既に同じ考えに至っていて、新吾が振り返るよりも先に前田が新吾の背中を押して廊下へ行くように促していた。
しかし、二歩三歩と進んだところで新吾は上着の裾を前田に掴まれ、前方に転びそうになった。新吾は何事かと少し苛立ちながら振り返ると、新吾は苛立ちなど忘れ、そして指一本動かせなくなった。
新吾は前田の肩越しに指切り様を見た。月光を背にしたその姿は影絵のように輪郭がはっきりと浮かび上がっていた。
新吾は指切り様がこちらに気付かずにそのまま通り過ぎてくれることを願ったが、突然新吾達の足元で小さな、極めて軽い金属音が鳴り、新吾は一瞬何が起きたのか理解できなかった。ただ、指切り様の影がその音に過敏に反応したのを見て、自分でも無意識の内に下駄箱の中の誰かの上履きを手に取ると、玄関口に向かって投げていた。
上履きは玄関のガラスに当たると大きな音を立て、新吾達の方に向かおうとしていた指切り様の歩みに迷いを生じさせた。
指切り様は初めに音が立った新吾達を気にしているように動きを止めて様子を窺っていたが、新吾の投げた上履きの方も無視できない様子で、今すぐ新吾達の方へ向かってくる気配は無くなっていた。
それを見た新吾は再び下駄箱の中から上履きを取り出すと、同じようにしてまた玄関に向かって上履きを投げた。暗闇の中で上履きがガラスに当たり、再び大きな音が昇降口に鳴り響く。
すると指切り様は素早い動きで新吾達の傍から離れ、音のした方へと向かい、下駄箱の裏へと姿を消した。
それを見て新吾達は静かにその場から離れると、すぐさま走り出したい気持ちを我慢しながら二階に逃げるか、職員室の方へ行くのか、瞬時に身振りで相談すると二人は二階へ逃げる選択をし、階段の下まで進むと、我慢しきれなくなった前田がそこからは足音を無視して二階へと駆け上がり、音を立てるなと自分で釘を刺していたにも関わらず唐突に自分勝手な行動を起こしたことに呆気にとられたが、すぐに新吾も走って後を追った。先を走っていた前田は三階には向かわずに迷わず二階の低学年の教室の方へと走り、一番近くの教室へ逃げ込んだ。前田は後から来た新吾が教室に入ったのを確認すると、素早く静かに扉を閉め、その場に座り込んだ。
何の合図もなく走り出した前田を少し恨みながらも、足音に気が付いた指切り様が追いかけてくることを危惧し、すぐに頭を切り替えて新吾は次の隠れ場所を探した。
――カーテンの裏は……、駄目だ。教卓の下か、先生の机の下か? どっちも見つかったら逃げ場が無いぞ……。
新吾は教室中を見回し、必死に隠れ場所を探した。
「前田、まだ画鋲……」
まだ前田が画鋲を持っているのか聞こうとしたが、それよりも先に廊下から微かに足音が聞こえた気がした新吾は、とある隠れ場所を見つけ、前田を連れてそこへ逃げ、体を密着させながら並んで座るとなるべく小さくなって息を殺した。
二人が隠れた直後、新吾達の隠れている教室の扉が開き、小さな人影が中に入ってきた。
新吾達の隠れた場所からは指切り様の姿がよく見え、上陸した台風をやり過ごすように一刻も早く去ってくれることを願いながら、隣で震える前田の肩を掴み、新吾は指切り様に変わった動きがないか見守り続けていた。
指切り様はゆっくりと教室中を見て回り、新吾が思い付いた教卓なども確認していて、新吾はもしもあの場に隠れていたらと想像するだけで生きた心地がせず、咄嗟に思い付いた行動がまた前田を助けたのだと、引き続き戦う自信のようなものが自分の胸の中に強く灯るのを感じていた。
あらかた探し終わったのか、指切り様は教室を一周すると入ってきた扉の前で何か考え込むようにして立ち止まり、そして頭を抱えるようにして動かなくなった。
新吾に緊張が走った。
今、指切り様が立っている位置は二人がいる場所に非常に近く、身じろぎ一つが命取りになると言っても過言ではなかった。
「ひっ」
今まで悲鳴を上げなかったのは顔を伏せていたからなのか、そして今静かになったことで顔を上げてしまい、そこに指切り様を見つけて思わず声を上げたのか。どうであれ、新吾は前田の迂闊さを非難せずにはいられなかった。
勿論、指切り様に前田の小さな悲鳴はしっかり届いていて、声に反応した指切り様は新吾達のいる方へ近付くと、新吾達の隠れる掃除用具の前で立ち止まった。
新吾は全身に鳥肌が立ち、頭が真っ白になり始め、指先の感覚が無くなっていくのを感じながら、もう駄目だと思ったが、いつの間にか前田が新吾の腕を掴んでいて、締め付ける二の腕の痛みが新吾の失いかける意識を何とか繋ぎ止めていた。
指切り様は淡々として動きを止めず、掃除用具の扉に手をかけ、そして躊躇なく開いた。
指切り様は扉を開けたまま動かず、新吾は自分の体が二の腕と心臓だけになったような感覚に陥りながら、それでも指切り様から目が離せず、もう何も考えることができなくなっていた。
一体どれくらいの時間が過ぎたのか、新吾にはとても長く感じられたが実際にはそれほど経っていないことは、密室の教室で突然起きた不思議な突風と共に指切り様が新吾達の目の前から姿を消した後に分かったことだった。
二人は目の前で起こったことに、理解も、また状況を飲み込むにもまだ時間が掛かりそうだった。
月光の差し込む教室に、雲の影がゆっくりと流れていく。
危機は去ったのだろうかと、新吾は覚束ない足で掃除用具入れの上から降りると、後に続く前田に手を貸した。
床に足が着くと前田は精も根も尽きてしまったのか、その場に座り込んだ。
指切り様が突如姿を消したことに新吾は閃くものがあり、急いで教室前方の黒板に駆け寄ると備え付けの時計で時間を確認し、思わず飛び上がりそうになった。
時計は十時二分を指していた。
新吾の心に言い様のない安堵が広がり、しかしすぐに後悔と罪悪感が押し寄せてきた。
――ちゃんと説明しなくちゃ……。
意を決し、前田の方に振り返ると、新吾は戦慄のあまり声を上げられなかった。
まだ前田は気付いていないが、座り込む前田のすぐ隣に消えたはずの指切り様が立っていた。
「前田!」
やっとの思いで前田に逃げるように伝えようとした瞬間、指切り様が前田の頭を掴み、廊下の方へと引き摺り始めた。
新吾は床を蹴って二人に追いつくと、前田の足に飛びつき、前田が連れ去られないように必死に抵抗したが、指切り様の引っ張る力は非常に強く、新吾もろとも前田を廊下へと引きずり出そうとする歩みは止められなかった。
「やめろっ! 離せっ! 助けて! 佐竹! 痛い! 佐竹!」
新吾は頭上から前田の悲痛な叫びを浴びせられながら、教室から廊下に出る直前に扉の縁を掴み、何とか進行を止めることができた。
――この手だけは、絶対に離さない!
新吾がそう固い意思を持っていても、あの小さな体のどこにそんな力が秘められているのかと驚愕するほどの強い力で、指切り様は前田を連れ去ろうとする。
――ゆーびきりげんまん、うそついたら、はりせんぼんのーます、ゆーびきった。
暫く膠着していたが、不意に新吾の頭の中にまたあの歌が流れ込み、そして歌が終わると同時に、新吾は口の中に何かが入っている違和感を覚えると、それが口の中で爆発的に増大した。
新吾は思わず前田の足から手を離し、口一杯広がる異物を掻き出そうと口の中に指を突っ込んだが、指を入れると嘘のように口の中には何も無く、新吾が戸惑っていると新吾の耳に前田の引きずられていく音が聞こえた。
――しまった!
新吾は指切り様の策略で前田の足から手を離してしまったことに気が付き、動物のように四肢を使って床を蹴り、前田に追い付き手を伸ばしたが、あと少しのところで新吾の指先は空を切り、前田はそのまま指切り様に連れ去られ、廊下の奥に広がる暗闇の中へと飲み込まれた。
新吾はうつ伏せのまま、前田の姿が小さくなり、闇に消えていくのをただ見ていることしかできなかった。
「ま、前田……。前田!」
直後は茫然自失になっていた新吾だったが、すぐに我に帰ると立ち上がって前田を追って廊下を走り出していた。
「佐竹えええええ――」
登校と下校に使う中央階段まで来ると下の階から新吾の人生の中で今まで一度も聞いたことの無い、悲痛な思いが直接心の中に流れ込んでくるような逼迫した、自分の名を呼ぶ前田の鬼気迫る叫び声が聞こえ、そしてその叫び声が不自然に途切れた。
水を打ったように辺りは静まり返り、唯一、新吾の喘ぐような呼吸が階段に木霊していた。
「前田……。前田……」
新吾は弱々しい口調で前田の名前を呼びながら、階段を一段一段降り始めた。手摺から身を乗り出せば下の様子を窺えたかもしれなかったが、新吾は恐怖心からどうしてもそれをすることができなかった。しかし、恐怖心はあるものの、どういう訳か、新吾の足は前田に引き寄せられるように止まることはなかった。
時間をかけて二階と一階の階段の半分の踊り場に降り立つと、新吾はカラカラの喉を少しでも潤したいと唾を飲み込み、残り半分ある階段と対峙した。
「前田……」
新吾は重々しい足取りで一段一段降りる度に、蚊の鳴くような声で前田の名前を口にしていた。
一歩一歩進む度、新吾は階段の下に広がる闇に飲み込まれ、そのまま帰って来られないのではないかと怖くなったが、それでもまだ心の底には前田を助けたいという気持ちが残っていたのか、事の顛末を見届けなければならないと無意識に感じていたのか、引き返すことは頭の中に無かった。
既に体に馴染んだ階段なのに底が知れず、どこまでも下っているような、そのまま地獄まで続いているのではないかと、そんな事を考えていると突然階段が終わり、床に着いた足が何かに滑って新吾はその場で転んだ。
新吾が体勢を立て直そうと手を着いた先の床もまた、ぬかるんでいた。
新吾は手に付着した嫌に生暖かい液体が何なのか、指の腹を擦り合わせながら正体を探ったが、今はこれよりも優先すべきことがあり、それほど真剣に考えはしなかった。
「前田……」
新吾はぬかるみに転ばないように気を付けながら立ち上がると、暗闇の中の前田を探して一歩踏み出す。
ぴちゃっ、という水溜まりを踏んだような水音が辺りに響き、立ち止まった新吾は指先の感触と共に言いようのない不安が胸に広がった。
「前田……」
耳を澄ませても、前田の返事も一緒にいるはずの指切り様の足音すらも、新吾の耳に届かなかった。
そのとき雲の間から月が顔を覗かせ、新吾の立っている場所が玄関のガラスから遠かったために鮮明とは言えなかったが、少しだけ辺りが明るくなった。
足元に広がる水溜まりは割と広範囲に亘っていることを知り、それが不安に拍車を掛け、何とか前田を見つけられないだろうかと新吾が辺りを注意深く観察していると、保健室に向かう廊下に何か黒い塊のような物が横たわっているように見えた。
光が届かないために更に目を凝らさなければならなかったが、そこには間違いなく何かがあると新吾は確信した。
「前田……?」
新吾は水音を立てながらそれにゆっくり近付くと、膝を着いてそれに手を触れた。
「わっ!」
新吾がそれに手を置いた瞬間、一瞬ビクンと動き、新吾は思わずサッと手を引いた。新吾は激しく打つ鼓動を耳にしながら、もう一度勇気を出してそれに手を伸ばした。
「これは……、靴だ……」
新吾は触れた物の正体を突き止めると、全身から嫌な汗が吹き出し、不安が質量を持ったように新吾の腹の中に重くのしかかった。
「前田……、前田!」
新吾は倒れているのが前田だと確信すると、横たわる前田ににじり寄り、倒れている前田を抱き起こした。
しかし、抱き起こす途中で新吾は違和感を覚えた。
――何でこんなに軽いんだ?
新吾も前田も同じくらいの体格だが、自分の体重と比較してみても、抱き起こした感覚としてはあまりにも軽すぎた。
「前田!」
新吾の呼び掛けに、前田が答えることはなかった。
前田の背中に回した新吾の手に、生暖かい液体が絶えず伝い続ける。
新吾にはもうそれが何なのか分かっていたが、それでもそれを認めたくなくて、新吾は恐る恐る前田の頬に触れようと手を伸ばした。
――大丈夫……。絶対、大丈夫……。
新吾は何度も自分に言い聞かせながら、ゆっくりゆっくり手を近付けていく。
しかし、新吾の手は何にも触れることなく、腕が伸びきってしまった。
新吾は微かに残った希望の光が闇に飲み込まれるように視界が真っ暗になった。
「うわああああああああっ!」
新吾は前田の遺体を腕に抱いたまま、心の中に受け止めきれない怒りと責任と悲しみの余剰分を吐き出すように声を上げていた。
肺に入っていた空気を全部使い果たすと、新吾は意識を失い、血溜まりの上に倒れ込んだ。
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