第八話

「お疲れ様です。こちらの牢になります。」

見張りの兵士の案内で牢に来たベレッタは、先程の商人から取り上げた指輪を投げ渡した。

「少し席を離れてくれ」

賄賂を受け取った兵士が去っていくのを見送った後、ベレッタは牢屋越しに


祈りを見た。


ただ膝をつき、両手を合わせた静かな祈りが、とても切なく、神聖さを持ったものだった。

祈りの間、ベレッタは何も出来なかった。

やがて、祈りを終えた聖女。ジャンヌ・ダルクは目の前の男に礼を言った。

「ありがとうございます。祈りの間、ずっと待って…」

ジャンヌは、目の前の男の顔を見た途端に言葉を止めた。


「……っ!なぜ貴方が!?」


「これが俺の運命だよ。ジャルタ。」

オルレアンの村で育った二人が、再会した瞬間だった。


「俺は空白の書という、ストーリーテラーの運命を持たない存在だった。」

ジョージから言われた事実を淡々と告げる。

「だから、俺は運命を変えられる権利があった。だけど俺は、お前を戦場へ行かせてしまった。死ぬ運命とわかっていながら」

ジャンヌは、信じられないといった表情で震えている。


「俺が…んだ。ただの村娘のジャルタを」

「……っ!!それは違います!!貴方は何も悪くない!!」


「じゃあお前が悪いのかよ!?違うんだよ!!お前なんか魔女じゃないって、みんなわかってんだよ!!お前にはなぁ!!んだよ!聖女サマ!!」

周りに聞こえる可能性も無視しながら、ベレッタは叫ぶ。

「お前の為と言って自分に言い聞かせ、主の裁きと言って誰かの運命を捻じ曲げる!一番の愚か者は俺だ」

ベレッタは拳銃を取り出す。ジャンヌはそれが大砲の一種と気づく。


「……だから、俺は俺にとって最悪の罰を与える。」

銃口を、ジャンヌに向けた。


「火刑に処されるお前の運命じゃない。俺の運命でお前を殺す。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る