第4話 収入の話。どれが儲かるの
赤字ではやっていけない。採算が合わないと生活もできない。
仕事なんてそんなものだ。
農業には確約された定期収入がない。会社勤めと大きく違うのはそこだろう。まあ、個人事業主なので、当然かもしれないが。
キャベツの場合、おおよそ
キャベツは季節のものなので、基本的に一時期に収穫の仕事がどっと押し寄せる。収穫適期というのは、品種を変えて植えたとしても、それなりに固まるものだ。ちなみに上記面積に関してだが、大きな一つの畑で、というのではなく、三つくらいの畑を使っている人も多い。つまり、畑ごとに品種を変えたり、植え付け時期を変えたりして、多少のズレを生むことで、作業を分散するわけだ。
さて。
キャベツの収穫は基本的に、箱詰めが必要になる。
小さい玉でも、大きい玉でも、同じ箱に入れ、何玉入るかで出荷規格が変わる。五玉でも十玉でも、同じ箱――であるのならば、必然的に五玉の方が大きく、実は一つ当たりの単価も良い。
一町歩の広さともなれば、収穫に人手がいる。たとえば四人家族で作業している状況だと、手が足りなくなり、人を雇う必要があるわけだ。
これが、人件費と呼ばれる経費になる。
どうして会社は人件費を減らそうとするのか? それは、どれほどの利益が出たところで、人件費そのものは、人を雇っている以上、どうしたって減らせないからだ。
十人雇えば作業が楽になるけれど、経費がかかる。だが、二人雇ったくらいでは、手が足りない。
それでは、作付け面積を減らせば? 売り上げが減る。
おそらくここが、一番難しい問題だろう。ベストとなるのは、個人で作業が行える範囲で、人件費が必要なく、それでいて黒字になること――なのだろうが、そういう条件の方が珍しい。
だから、規模の大きさと必要な人手、そのバランスが重要になるのだ。
儲けが出る農業って、何がある?
仮に私がそう問われたら、ミニトマトは良いと聞いたと、答えるだろう。
――ただし、休みは取れない。
ミニトマトは年中出荷をするため、ハウスの中で栽培する。簡単に考えるのならば、敷地を五つに区切って育てた場合、一区画を収穫し終えたら、その区画には新しく苗を植えて、次の区画を収穫する――そうすることで、年中収穫が可能であり、まあ当然ながら、常に仕事がある。
個人的に知り合いのミニトマト屋も、そういう感じだ。儲けてはいるようだが。
世間の流れ、というものも重要だ。
今から農業を始める人がいたとしたら、私は間違いなく、花やくだものではなく、野菜を押す。
何故か?
確かに野菜は、安い時は安いし、高い時なんてのは大抵の場合、不作の時だ。価格は安定しないし、冗談交じりではあったが「うち以外の場所で被害が遭えばいいのになあ」みたいなことを呟く、キャベツ農家がいたりもする。
だがそれでも、野菜の需要がなくなることがない。
値段の高低というものは、基本的に需要と供給の関係に直結する。
値段が高い時は、不作の時。需要はあるのに供給が追い付かないから、手に入れにくくなり、値段が上がる。逆に、豊作の時は需要よりも多い供給が行われるため、酷い時には捨て値になり、薄利多売どころか、出荷用の段ボール代と同じ、なんて時もあったそうだ。
しかし、それほどまで安いのは稀であろう。
需要にも、順序がある。
不景気を実感するのがこういう部分なのだが、野菜を食べる人は多くとも、くだものを必要とする人は、少ない。更に言えば、花を買う人はもっと少なくなる。
生活が苦しくなって真っ先に切られるのが、食べられないものだ。
安定した需要があるものを選択するのは、当然と言えば当然だろう。初期投資の面で負担の少ないキャベツ、あるいは投資しても取り戻せるだろうトマトなど、野菜が勧められるのはそういう理由でもある。
これが儲かってるから、これをやろう。
一度、施設を作ってしまうと、中でどんなものを作るかは、ある程度、変えることができる。私の知っている人だと、温室での観葉植物から切り花系に移り、今はトマトを作っている人がいる。儲けがどの程度出るのか、それによって生活できるのか、状況と相談して変わっていった。
しかし、農業を始めるに当たって、これが儲かりそうだからと足を踏み入れるのは、危険である。
まず、農業というのは軌道に乗るまでに時間がかかり、すぐに大きな儲けが出るわけではないこと。その頃に値段が下がっていては、目も当てられない。
また、目先のものに飛びつくと、あれこれと作物を変えるばかりで安定せず、最終的に大きな負債だけが残る可能性が高い。逆に、何かしらの強い理由などがあれば、上手くやっていくこともできる。
さて、次項では私がやっているカトレヤを含めた、花の話を。
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