絶望

実験が成果を出し、次の段階に進むと決定した以上、10匹の犬達は、いずれ処分命令がされる。

あの時、10匹いた中で一番若いミムだけに生き延ばせるチャンスがあった。

みんなの力が合わさり、あの時、逃がす事ができた。

「危険だ!逃げるんだ」とみんな叫ぶ。

私は逃げるミムに向け偽装メールに忍ばせたメッセージで、すべてを教えた。

あなた達、犬の知性化実験は、人間の法律では、許されない事だった。い・ほ・う・違法だったんだと。


ミムは、追っ手からうまく逃げきり、どこか遠く離れた場所で暮しはじめた。

私の指示通りにすべての情報端末をシャットダウンさせて。


そうなってしまえば、追っ手からは逃げられるが、こちらからも探しだせなかった。


時が経ち、今のミムは、もう、言葉を生みだす事も困難になりつつあるはずだ。

思考力が鈍く、出来なくなるのだ。

彼ら犬の体には、知性化を維持するための、投与薬剤が必要なのだ。食事の時に服用させていた細胞安定の為の薬が。


研究所を逃げだしたミムは私の待つ場所へは、来てはくれなかった。

ミムは、場所も、方角も、研究所の住所、名前さえもわからない。

研究所では、ミムたちに与えられていた情報は制限されていて、機密事項には、ブロック処置がなされていた。

すべての項目には仮のモノが付けられて理解させられていたのだ。

そう…私の名前も仮の名だった、すべては嘘、犬たちが感じていた私たちの顔、声、そしてニオイ。

私は悲しくなった。もう逢えないミムの面影を想い、涙を出して泣いた。


たぶんこのままだと、あと、1ヶ月もしないでミムは、普通の犬と同じになる。

でも   でも   そんなことは  問題ではなかった。 普通の犬に戻ることなどは…



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