脱出
そして…今…
どこにでも有りそうな町並み。時折通りすぎる自動車、そして静かな細い路地。
ひっそりと建つ白色のマンション。
白い建物には尚も小雨が悲しく悲しく、降り続いていた。
すっかり暗くなった空、マンションの最上階から少し下の一室、灯りの消されたベランダに一人の女性の姿があった。
私は、今、とても悲しかったあの時を思いだしていた。
ミムと、別れてしまった瞬間を。
私とミムとは、違う種類の生き物。もちろん最初からわかっていた事。
じっと見つめてくれるあなたのその真っ黒な大きな瞳がそう教えてくれていた。
ミムは、犬、実験用の動物、そして私は、人間。
研究所での犬達との楽しい暮しは長くは続かなかった。
別れの日の前日、会社側から決定事項として突如としてある通知がなされた。
会社は成果のあがった今回の研究を高く評価したと…
…そして次の段階へ進める事にしたと言った。
つまりは、 今 を処分すると。
私たち研究者側の反対は聞きいれられることは無く、 すべて破棄 が決定した。
反対する私たちに対しては、会社側の徹底的な監視がはじまり、行動は制限された。
別れの日の前の晩、眠っているあなたのゲージのそばに立ち、私は決断していた。
そしてそっと願った。
明日はもう、あなたには逢えない。
でも、あなたは逃げてね。きっとよ。
そして、きっと戻ってきて…と。
そしてあの日、私は、定時の散歩には一緒では無かった。
同じ研究員の本橋さん(斎藤さん)に頼み、私は仕事を休んだ。
自宅マンション近くであなたを待っていた。
メールに忍ばせた位置情報の意味をミムが理解してくれるのを信じて…
本橋さん(斎藤さん)との散歩から戻り、研究所施設に入り 一瞬で危険なニオイを感じとったミム。
他の9匹の犬達はゲージに入っていた。
リールにつながれていなかったのはミムだけ。
そして私は、送信履歴を偽装させながら、あの最後のメールを送信した…
ミム!走って!逃げて! と…
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