外の世界
あの日の朝、私は、ミムの小さな体をかかえあげた。
ミムの顔と瞳がそこにあった。大きな黒い瞳には私の顔が映り、瞬きをするたびに新しい像を映しだす。
大好きだった!ミム。
あの時、あなたの目を見つめて、私はこう言ったネ!
「今日は、ね!すごいぞ!!そ・と・の・世界に・ぼ・う・け・ん・に行くのよ」って!
私達、研究員は、すべて、脳内インプラント接続回線を装備していて、文字情報を操り、犬たちの人工脳に付属している情報端末と直接会話が出来た。
他の犬たち、特に、ラウ(マサさん)やノオチ(ウッキさん)たちは、ミムを可愛がっていたね。
知性化犬は、人工脳との関りの経験値が増してゆくと嗅覚も高度に機能アップがなされてきて、周りのニオイを瞬時にとらえ、人や他の生物の放つ感情の変化さえも感知できるようになるらしかった。
ミムは小さいけれどしっかりといつも堂々としていて元気いっぱいだった。
その頃、やっと4本の足でしっかり歩けて、走れて、飛んで、廻って…何にでも自信がついた頃。
《見る》物、《感じる(嗅んじる)》物、何もかもが、すべてが素敵だったはず。
そしてついに訪れた、外の世界は、オドロキの連続だっただろうネ。
研究所の私達人間や、他の知性化犬とは違う、外の生き物たちとの、はじめての出合い。
前から歩いてきた自然犬のその、野蛮な…
たぶんキミには、ゾッとする臭いで怪物が近づいて来たと思えた事でしょう。
動物特有の性欲と食欲をムキ出しで近づいてきた、同じ姿をした異物に対し、「恥ずかしげも無く!」と文字記録を残していたミム。
それにしても、余りの下品なソイツを見ていて私は《感じ(嗅んじ)》たミムが、気を失うのでは無いかと心配してた。
その後、犬という動物は、ソイツのようなのが普通であってミム達のような存在が特別なのだと教えられた時のミムの感情の興奮度は、私との文字記述のやり取りのレスの多さでもわかった。
見た目は同じ姿をしているとはいえ、人間並に引きあげられた知能を持つあなたたちと自然の犬とはまったく別の生き物と見るべき。
特にあなたは、最後の10匹目。
これまでの研究成果の集大成として造りあげられた特別な存在なのだから。
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