ガムの玩具
兵馬俑見学の後、お土産を物色。食べ物が簡単なんだけどさ、日本にないような笑えるもの探してーじゃん。
ブランド店やオシャレな店には興味なし。
オレはごちゃごちゃとした怪しい街並みに吸い込まれて行った。
おおー。裸の鶏がぶら下がってる。豚の耳がごろごろ。うわっ、すっぽんじゃん。かえるじゃん。国際化が進んでも食文化は変わんねーんだ。ま、カエルって旨いもんな。
薬のバッタもんっぽい店登場。
「元気、元気」
日本語で話しかけられて見てみれば精力剤。
「NO」
咄嗟に英語で断っちまった。もっとじじいに勧めろよ。オレが必要なわけねーじゃん。若いって以前に、彼女いねーし。
「おみやげにいかが?」
またまた日本語。お店の人が勧めているのは、化粧品。資生堂、ポーラ、コーセー。日本製じゃねーかよ。日本語で話しかけてるってことは、日本人って分かってるんだよな?
「日本より安いよ」
偽物だな。たぶん。
よく見れは、資王堂、ボーラ、コーセ。きっちり偽物。逞しい。
お、駄菓子屋発見。
ガムがいろいろあるじゃん。眠気をストップするガム、口臭予防のガム、記憶力を高めるガム、キスしたくなるガム。買お。硬式テニス部男子二年全員分。もちろん、キスしたくなるガム。自分の分も。
ガム売り場の隣には、ガムの形の玩具があった。中国のガムは板の形。そのガムを一枚取ろうとすると指をパチンと挟んでしまうという単純なもの。これも買い。
ガムのイタズラ玩具を買いながら思った。
フラウにこのイタズラをしたいって。無理なんだけどさ。ぜってーかわいー反応するよな。
ひょっとすると、ガムってお菓子はフラウの時代にはないかもしんない。
ガムのイタズラ、こんな細(ささ)やかなことが叶わないのか。
でも見せてあげよう。きっと珍しがる。
昼は焼餅(シャーピン)。中国版豚肉バーガー。旨い。
ホテルに戻ると、菊池は、出かける前と同じ状態で釣りをしていた。
「釣れた?」
「80センチ」
菊池の服はどろどろ。魚と格闘したんだな。
「すげーじゃん。飯は?」
「ちょっと食った。なんか飲みたい」
菊池のリクエストに答えて、ホテル一階のラウンジに行こうとした。が、
「おい、キク、その恰好で行く?」
「おう」
どろどろの長靴、服、全体的に魚臭い。
「着替えろよ」
「やだ。飲んだら釣りするもん」
「飲み物買ってきてやるから」
オレが止めるのも聞かず、菊池はラウンジのドアを開ける。
うわっ、魚臭っ。
ラウンジからは魚の匂い。
床はコンクリート、客の半分は長靴。濃い。濃すぎる。釣り人以外立ち入り禁止ってくらい。
「じっとしてると寒いから、置き竿して店にいる人が多いみたいでさ」
菊池はニット帽を脱ぎながらホットココアを注文した。オレは紅茶。
ガムの玩具を試したくてうずうずしてんだけどさ、ココア飲んでるときってダメじゃん。この店を出るときがいいよな。
「80センチなんて、さすが黄河、さっすがキク」
「オレなんてぜんぜん。隣のおっさん、1メートル以上の釣ってたよ。手伝いに行ったんだよ。そしたら棒で魚を殴れって」
「そんな乱暴な釣り?」
「おう。殴った。水被った」
「明日は船乗るんだろ?」
「大和はどーする?」
「船乗る。釣りはしねーと思うけど。川から景色見たい」
「船、寒いからな。でも、シュラフは危ないから禁止」
「分かってるって」
菊池はあと2時間くらいで切り上げると言って釣り場に戻った。
あ、ガムの玩具。タイミング逃した。
イタズラは夕食のときにしよっと。
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