99.6%

 ホテルは1号棟、2号棟、3号棟とあり、繁盛している模様。ロビーには長靴を履いた様々な国の釣り人がうろうろしている。弱冠魚臭い。

 そしてそこは釣りの社交場。

 外国人旅行客なら英語が通じると思うのか、平気でべらべらと英語で話しかけてくる。中国人とは翻訳アプリと漢字での筆談。

 父に言われて少しは挨拶と買い物程度の中国語を覚えたが、中国語、速過ぎ。どこが区切りなのか、歯が立たねーし。


 スマホ片手に中国語にしどろもどろのオレに反して、菊池は英語も中国語も話せないのに、ゼスチャーで会話がしっかり成り立つ。

 釣り人シンパシー。


 なんかさ、菊池って生命力あるよな。女にモテて、体力あって、意外と神経図太くてさ。

 次の朝、起きたときにはもう、菊池は釣りに行っていた。

 釣りは菊池に任せた。1メートルの魚が釣れたら、オレ、恐い。ヘタレっぷりがハンパねー。



 西安だもんな。兵馬俑見に行くか。


 ぶらぶらと街歩き。同じアジア人、だから地元の人に紛れてるつもり。だったんだけど、やっぱ日本人って分かるのかな? 観光地の案内用ドローンが日本語で話しかけてくる。日本の案内用ドローンと同じ汎用品。バランスボールほどの大きさ。


「ヨロシカッタラゴ案内シマス」

「あの、質問なんですけど」

「ハイ」

「日本人って顔認証システムで分かるんですか?」

「イイエ、外国人旅行客ノ95パーセント以上ガWiFiルーターヲ借リルノデス。ソノ時ニパスポートノ記録ガ登録サレマス。我々案内用ドローンハソレヲ識別スルノデス」


 へー。そーなんだ。スマホと一緒にWiFiも携帯するもんな。


「ありがとうございます」

「イイエ、ドウイタシマシテ。他ニゴ質問ハアリマセンカ?」

「はい」

「デハ、楽シイ旅ヲ」


 ってことは、オレは人間から見れば中国人に見えるのか?


「あの、すみません。オレって中国人に見えますか?」

 売店で鳩の餌を買うときに訊いてみた。翻訳ソフトで。


「日本人観光客だろ? 日本人は靴が綺麗なんだよ。瞼もちょっと違う。ここへ来る中国人の観光客は大抵地方の人だからね。農村部の人はそんな金持ちに見えないよ」


 あらら。オレってお金持ってるように見えるって? 未成年なのに。


「お金持ち?」

「服、靴、歩き方、姿勢、全部。身なりは韓国人に見えんこともないが、韓国人はもうちっとがっしりした体型だよ。髪もそんなに長くない。兄ちゃん、スリに気をつけな」

「そうなんですか。一銭も持ってないんですけど」


 だって電子決済だから。


「はははは。ここじゃみんな金は持ち歩かないもんな」


 一人で鳩に餌をやった。

 フラウが見てるかもな。

 だったら一人じゃない。



 兵馬俑を見ながら、その時代の権力集中の凄まじさにビビる。

 変わんないのか。今も。

 世界の上位0.6パーセントの人の資産は、残りの99.4パーセントの資産より多いんだもんな。

 ふー。間違いなく残りの99.6パーセントじゃん、オレ。

 兵馬俑の時代だったらさ、兵士どころか死にそうになりながら米作って、それすらも巻き上げられてたんだろーな。

 履いてきた靴がたまたま買ってから2か月で小綺麗に見えたからって、その他大勢。


 フラウの時代は、子供は平等って言ってたっけ。

 それが正しいことなのかどうかも分かんねー。つーかさ、自然交配がないってことが、オレ的には間違ってると思う。ただ、自然交配=不平等は否めない。んー。正解なんてあんのかな。

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