北京でこひたん

 午前9時10分羽田発。午前11時30分北京(ぺきん)着。


 まだ午前中。空港で釣り専門のツアーガイドを探し、ホテルに荷物を運んで食事。

 天安門広場と万里の長城なら自分達で行けるからとガイドを断った。

 寒い。


「日本より寒くね?」

「ぜんぜん寒い」


 化学繊維や携帯カイロが発達してるから、これくらいの寒さはへーき。

 写真撮りまくり。テニス部のSNSにアップしたら、授業中のはずなのに返信が続々届く。おいおい。

 夜は北京ダック。ツアーガイドに予約を任せた店。ってか、中国グルメ旅行って企画だから飲み食いと交通費と宿泊費タダって。

 北京ダックを食べようとレストランの個室にいると、


「一緒にいい?」


こひたんがやってきた。


「え?」

「げっ」


 ちなみに「げっ」と失礼な応対をしたのはきちくきくち。しょうがない。菊池はこひたんのせいで顔面パンチを喰らったんだもんな。


「マネージャーさんは一緒じゃないんですか?」

「オフだもん」


「あの、すみません、席を外してもらえませんか」

 きちくきくちはストレート。


「ざんねーん。ファンサービスでアタシも一緒に食事するって企画なの」


「オフじゃなかったんですか?」

 オレは素朴な疑問を投げかける。


「オフなのはマネージャー。アタシ、北京生まれなの。だから通訳も案内も任せて」

 にこにこしながらこひたんは席に着く。


 オレは「どこかからフラウが見てるかも」と思いながら、注意深くこひたんと距離を取りながら食事した。

 フラウが、こひたんは2年後に歳ごまかしてたことがバレるって言ってたっけ。SNSでこれだけ個人情報が晒されてるのになんでだろって思ったけどさ、北京生まれだったからかも。


 嫌そうだった菊池は、こひたんをガン無視でオレに釣りの話をした。が、さすが人に揉まれたこひたん、するっと会話に入り込んで話が弾む。いつしか菊池もこひたんと普通に喋っていた。


 こひたんは黄河で釣りというテーマに、同行を諦めた。やっぱり。菊池の言った通り。

「トイレがないのはね。女の子にはちょっと」


「いやー残念」

 おっと、菊池がぜんぜん残念そうじゃない。むしろ嬉しそう。


「北京だけじゃないんです。黄河の源流とかも行くから」

 オレはホローに回る。


「あーあ。小笠原君と一緒に遊ぼうと思ってたから、1週間暇になっちゃったなー」

 ん? オレ?

 そっか。こひたんは菊池が行くこと知らなかったんだもんな。


「オレは釣りするけど、大和はしねーから、一緒に遊べば?」

 気軽に言うなよ、きちくきくち。フラウが見てたらどーすんだよ。


「オレも釣りデビューするので」

 生餌はNGだけど。フナ虫もNG。今回は川だからフナ虫いねーしOK。


「お、いーんだよ。釣り。あの竿がしなったときのワクワク感、サイコー」

 マックスって釣れたときじゃねーんだ? なんか、オレ、本格的に釣りすることになったじゃん。


 食事の最後、こひたんは言った。


「じゃ、またね」

「じゃ」

「どーも」


 あれ? またね?

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