そんな顔すんなよ
黄河釣り旅行計画
中国グルメ旅行の計画は大詰め。旅行会社の人と綿密な打ち合わせをして、ホテルもレストランも決めた。渡航だけでなく、中国国内での移動のチケットも手配済み。飛行機はエコノミークラスでいいと言ったのに、せめてビジネスクラスという点を譲歩してくれなかった。
ホテルは立地重視。星の数なんてどうでもいい。オレら、出歩くから。シャワーとベッドがあれば、基本OK。その旨を伝えた。
「若いですね」
旅行会社の人はにこにこ。
「現地に行ってから禁漁区だと移動時間がムダになってしまうので、釣りのポイントだけは事前に確認して欲しいんです。そこまでの交通手段が分かれば、ガイドの人が一緒にいなくても大丈夫です」
菊池は釣り重視。
旅のコースはグルメじゃなく釣りが本流。
中国グルメ旅行ってより、黄河釣り旅行。
「分かりました。北京とはほとんど時差がありませんし、今、電話してみましょうか」
旅行会社の人がその場で電話してくれた。
「はい、はい。聞いてみます。あの、下流は広すぎて、水がどろどろで、釣りをする人はいないそうです」
「直接話していいですか?」菊池は身を乗り出して、受話器を手に取る。「菊池です。よろしくお願いします。船から釣る人もいませんか? はい。はい。そうですか。はい。はい。では案内してください。お願いします」
くるっとオレの方を向いて、菊池が説明。
「河口付近は釣りポイントがないけど、迫力満点だから見た方がいいって。次、源流訊いてみる。はい。はい。そうなんですか! おお。すごいですね」
あ、源流は釣れるんだな。さらに菊池は頷き続ける。
「防寒具をきっちり準備します。はい。じゃ、もう、そこに泊まります。いいですね。はー。是非。どんな魚ですか? 釣り竿やルアーの準備があるので」
すっげー気合入ってっじゃん。ここまで入れ込んでる人間の隣で、オレ、ゲームすんの? それもなー。釣りデビューしてみる?
菊池は旅行会社の人と電話を替わった。
「大和ぉ、なんか申し訳ないくらい、オレ、釣りしかしたくないかも」
「どーぞどーぞ」
「中流の西安(シーアン)に、ホテルから釣りができる名物宿があるんだって。すげくね? そこって、釣り専門のホテルでさ、船もチャーターしてくれるって。源流んとこは景色が良くて、新婚旅行用のお洒落なホテルがいっぱいあるんだってさ。もう湖に散歩できるくらい近く。ばっちり。標高が高くて寒いから防寒具をしっかりって言われた」
「湖に歩けるなんてすげーじゃん」
「やばっ」
菊池の目がきらっきらに輝いてる。
「すげーな。釣り三昧できるな」
「やー、もう、幻の魚、釣るかも」
「そーいえば、前にキク、黄河に幻の魚がいたって言ってたじゃん。あれってどこ?」
「源流の湖。湖自体が幻。地図にねーんだってさ」
「それ、ブログ?」
「中国の古文書には載ってる。オレの曽祖父は幻の湖を見たらしい」
怪しすぎ。
一応、オレの希望も通した。兵馬俑博物館と万里の長城。アリババの本社は遠くて断念。でも、第2の拠点が北京にあるということなので、そっちで記念撮影する予定。
グルメの方は、基本中華。でも、黄河源流の新婚旅行で人気のホテルは、チーズフォンデュが売りということなので、それを予約。
菊池は思う存分釣りをしたいだろうから、菊池がさして興味のない場所には、オレが一人旅。翻訳アプリもあるし、道案内のアプリもあるから大丈夫っしょ。観光地だったら案内用のドローン飛んでるだろうし。
中国に銀行口座を作ったから、所持金なしで支払いOK。電子決済のペイってお金遣ってる感覚ねーから、細かく計算しないと。元換算って結構難しいかも。セレブ菊池は金銭感覚今一つだもんな。
というわけで、母と相談して、どれくらいお金を遣いそうなのか検討。
「お、大和、中国旅行の計画か?」
リビングで検討していると、父が帰ってきた。
「物価ってどーなの? 飯、一食いくらくらい?」
「田舎の方は安いけど、北京は日本より高いぞ。接待に使う店がごろごろあるからな。屋台なら同じ料理でも一桁かもっと違う。ただ、屋台は味が濃い」
「問題ない」
「没問題(メイウェンティ)」
おお、中国語だ。
「お父さん、中国語も話せる?」
「ちょっとだけ。翻訳アプリがあっても、簡単な言葉くらいは自分で話すと印象がいい」
「そっか。挨拶ぐらい覚えよ」
そういえば、フラウって「翻訳アプリを学習させた」って言ってたよな。でも自分で日本語を喋ってる。どーなってんだろ、未来のアプリって。
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