会いてー
「鼻血出てる」
「すっげー痛い」
「記念撮影していい?」
「大和、喜んでっだろ」
「ちょっと。はははは」
だってさ、今までこうならなかったのが不思議なんだよ。
硬式テニス部男子2年のSNSのグループに菊池の鼻血写真をアップすると、次々とメッセージが届いた。
『おめでとう』
『大変だったな(笑)』
『ざまあ』
『天罰』
『きちくきくちを慰める会をしよう』
『カラオケ』
『参加します』
『オレも』
メッセージはぽこぽこと途絶えることなく届く。
「キク、すっげー人気者」
「くっそ。みんな面白がってさー」
とりあえず、急遽コンビニでティッシュとマスクを買った。
菊池はティッシュを鼻に詰め、マスクをしてオレの家に来た。オレの家の方が近いから。中国旅行の相談が終わっていないってのもある。
「こんにちは。あら、菊池君、風邪? イケメンが見えなくて残念」
オレの母も御多分に洩れずきちくきくちの色気にやられている。菊池が来ると、お菓子のグレードが上がり、菊池参加の夕食はすき焼きか焼肉になることが多い。
「にしても、どーしてキクがいる場所分かったんだろ」
「あいつ、あざみ野の塾通ってる。誰かにオレがいること聞いたんだろ。女って情報網すげーから」
「東京の地下鉄並み」
「毛細血管並み」
菊池はオレのベッドに横になって、鼻の横を氷で冷やす。
「ちょっと痣できてる」
「くっそ。グーで殴られた」
「珍しいよな、キクっていっつも後腐れない子選ぶのに」
「オレの女を見る目がまだまだってこと」
ほー。
菊池の鼻の穴の周りには茶色くなった血が付いている。もう1回写真を撮りたくなる。が、これ以上いじるのはやめとこ。
2人で中国旅行の計画を練りながら、母手作りのイチジク入りクッキーを食べた。それから、それぞの親に承諾を貰った。菊池は電話連絡で。
夕食はやっぱりすき焼きで、菊池の顔の痣に、母は心を痛めていた。
「オレ、この顔で家に帰れねーよ。親に訊かれるじゃん。女って言いにくい」
「だろーな」
「言わなかったらさ、いじめられてっかもって心配するじゃん」
「ははははは。キクが? ないない」
オレは笑い飛ばした。けどさ、親は心配するよな。理由訊いてくるだろーな。
というわけで、菊池はひとまずオレの家に泊まることになった。
菊池はしょっちゅうオレん家(ち)に泊まる。コリー犬の諭吉も懐きまくり。諭吉にとって、菊池の訪問は、いつもより上等の牛肉を食べられる合図だもんな。
食後、菊池が入浴し、次にオレ。
横須賀ベースって海風が思ったよりあって、髪の毛がごわごわ。中国旅行を想像しながらのバスタイム。体の力を抜いて湯舟に浸かる。
兵馬俑と万里の長城は見たいよな。世界制覇したアリババの本社前で写真撮って、天安門広場で天安門事件のVR体験して。釣りもすっから、全部は無理だよな。
いっぱい食おう。あ、行く前に中国に銀行口座作ろっかなー。中国って電子決済だもんな。中国人じゃなくても口座作れるのか? うーん。親父に訊こ。
たださ、その間、フラウに会えねーじゃん。
「フラウ」
はー。
「会いてー」
ついつい独り言。
どーしたんだ、オレ。こんなヤツじゃなかったはず。
まあ、なんだ。恋の病ってやつなんだろな。
ばちんと両頬を叩いて気合を入れ、ざばっと湯舟から上がった。
風呂上りに冷たい麦茶を1杯飲んで、自室のある2階へ。
ガチャ
自室のドアを開けると、足元に菊池が尻もちをつき、ベッドにフラウが腰かけていた。
あれ? まだ9時なのに。
「ごめんなさい、私💦」
焦っているフラウ。
「いい。菊池だから」
何がいいのかよく分からないくせに口走るオレ。
「なに? この子。いきなりだったんだけど。パッて。いなかったんだけど」
尻もちをついたままの菊池は両目が最大級の大きさでロックされている。
まず菊池を落ち着かせ、ベッドに座らせた。フラウにはいつもオレがいるポジション、デスクチェアに座ってもらった。
「ホノグラフだから、私、空中だって大丈夫だよ」
「いーから。これ以上、キクを刺激するな」
オレはベッドの菊池の横に腰掛けて、赫々然々とフラウが未来から送られたホノグラフってことを話した。
突拍子もないことじゃん。でもさ、菊池は信じてくれた。だてにBAKAじゃない。
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