横須賀ベース出来レース

ぎゅっと

「あ、そーいえばさ、青森でチケットもらったんだった。確か今週末」

 フラウにチケットを見せてみた。


「ふーん。そのアイドルがいいわけ?」

 いきなり冷たい反応。


「アイドルはどーでもいいって」

 どんなアイドルだって、フラウに並んだら霞む。


「握手って、なに。これ。変態」


「オレは興味ないけどさ、変態は失礼だろ。憧れてる女の子がいたらさ、普通に、手とか触りたいって思うじゃん。触るってゆーかさ、ぎゅっとしたいしさ、ぎゅっと、ぎゅっとしてもらいたいって」


 目の前のフラウにそれが叶ったらって思う。


「ぎゅっとぎゅっとって」


 フラウはイヤリングを揺らしながら眉根を寄せる。青森土産のキーホルダーを縮小コピーしたらしい。キーホルダーはいつも使っているバッグに付けてるって聞いた。

揺れるとイヤリングは青く発光した。発光する物質はオレのキーホルダーと異なり、青の色味が少し柔らかい。ほわっとした青がフラウに似合う。


「なんかさ、命を助けてくれた人らから貰ったやつじゃん。だから行こうと思ってて」

「ふーん」


 フラウはどうやらパスリングでゲストについて調べているよう。こっちからは何も見えねーけどさ、フラウの目の焦点が妙な場所にあるし、その辺りで指が動いている。


「記録残ってんの? だったらこの先、こひたんは芸能界で活躍するってことか」

「うん。スキャンダルまみれ」

「そこはいい」

「大和より3つ年上」

「ええ、タメくらいかと思ってた」

「2年後に、2歳、歳をごまかしてたことがバレるって」


 ゲストの「こひたん」こと小日向りんは、高校生アイドルとして去年ごろから人気が出始めた。童顔巨乳、エロい声。


「ごまかしてんのか」

「芸能活動を始めたのは実年齢14歳のとき」

「へー。意外と苦労してんだな」


 一般には「渋谷で制服姿のときに写真を撮られて少年雑誌に載った」というシンデレラ的なデビューということになってるけど。こうもSNSが蔓延(はびこ)ってんのに、よく騙せてるよな。だから2年後にバレるんだろな。


「なんか、私とはタイプ違う。てか、この人の胸、すごっ」


「フラウもそーゆー遺伝子入ってれば良かったのにな」

 やばっ。失言。


「入ってるよ。でもね、女性ホルモンとか後天的なものも必要なの! 私はまだ成長段階なの! 乞うご期待って感じなんだから!!」

 フラウは真っ赤になって抗議する。


「ごめんごめん。そーゆー意味じゃなくて。オレ的にはむしろ」

 好みの大きさって、何言ってんだ、オレ。


「むしろ?」

「なんでもねー」


 焦った。

 やっべ。視線がボタン2個開けの胸元に行ってしまう。3D感謝。

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