日本語がいい

「大和が海に落ちたことが、世界平和を守ったんだね」

「落ちたことが?」

「でしょ? 言ってたじゃん。海上保安庁に連絡したって」

「防衛隊海軍が偶然いたんじゃねーの? 密輸組織捕まえようとして」

「捕まえるんだったら、コア物質を積む前に狙うと思う。危ないもん。貴重だし」

「そっか」

「きっと、連絡を受けた海上保安庁が密輸船を発見して、防衛隊海軍に連絡したんだよ」


 ほー。


「世界平和とかって、ちっさいことで崩れるんだなーってのが感想」

「小さくないよー。エネルギー物質の密輸って」

「でもさ、あの数時間のたった一つの事件で、どっかの国とどっかの国が戦争するなんて」


「そっか。この時代は国があるもんね」


「へ? そっちはねーの?」

「ないよ。地名は残ってる」

「へー。フラウってどこに住んでんの?」

「モスクワ」


 いきなり。日本の地名が出てくると思ってた。青山とか品川とかさ。


「そんな遠いとこに住んでんの? じゃロシア語?」

「ロシア語? あ、全世界英語。共通。それ以外もちょっとだけ残ってる。ニーハオとモウマンタン、ボンジュール、ハラショー」


 ニーハオとボンジュールしか分かんねー。


「外見は日本人とロシア人のハーフに見える」

「色々。混血。胃腸はアフリカ系で脳はアングロサクソン系、生殖器はアジア系なの。成分表見たい?」


 生殖器とかって。そーゆー言い方、どうかと思う。


「成分表はいいよ。フラウはフラウなんだから。ってか、今更だけど、オレ、英語話せる」

「なーんだ。でも日本語がいい」

「なんで?」

「ふふ。秘密」


 変なの。


 フラウはパスリングを起動させたが、成分表の表示はしなかった。出てきたものは、世界地図。イギリス中心。

 フラウが指先で操作すると、地図の陸地の部分がオレンジとグリーンに変わっていった。オレンジは中国とロシアから始まって次々と陸地の色を塗り替えていく。一方、グリーンは北アメリカから始まって、南米、太平洋の国々、ヨーロッパを塗り替えていく。

 見たことあるじゃん、これ。

 ちょっと前にテレビ画面でレポーターが説明していた、ドルと元の勢力地図。

 違うところは、テレビの世界地図のイギリスと日本が浸食されていないクリーム色のままだったのに対し、フラウが見せてくれる世界地図のイギリスと日本はグリーンだということ。もう一つ加えるなら、グリーンの一番強く輝く部分はアメリカ合衆国、オレンジの一番眩しい部分が中国であること。


「ほら。パワーバランス。ね。どっちの色も同じくらいでしょ? これはね、軍事力だけのパワーバランスじゃなくって、人口、技術力、国民性、もちろん経済力、そういったものを含んでるの。純粋に軍事力と経済力って面から見たら、この時代はアメリカが覇権国。だけど、成長や国民性を加味すると、中国も同じくらい」


「へー。日本ってアメリカ圏かー。境界じゃん」

「そんなこと気にしなくっても大丈夫。大和が世界平和を守ったんだから」


 笑ってっし。


「かんけーねーって。小市民にはさ」

「どーなんだろーね」


 フラウは意味深な目をした。

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