分かり易い方がいーぞ

「なんか博物館みたいなのあるぞ。近くに」


 早朝からお地蔵さんのようになっていたオレ達は、傘地蔵程度に動くことにした。


「博物館?」


 オレは初日に「海を眺めるのに飽きたら行ってみよう」と思っていた施設を検索してみた。

 びっくり。

 それはコア物質製造施設に併設されている博物館だった。


「せっかくだから行っとく?」

「歩ける距離だもんな」


 なにせ昨日の貨物船が密輸していた場所。目と鼻の先。

 2人で魚釣りの道具を片付け、てくてくと博物館に向かった。

 エネルギー製造についての展示なんて面白くないだろうと期待なんてしていなかった。が。


「すっげー、満員御礼じゃん」


 白くて広いホールには人が溢れていた。なんで?


「なあ、キク、ここだけ田舎じゃねーみたい」

「デートスポットっぽくね?」


 見ればカップルが多い。ホールにふわふわと飛ぶ案内用ドローンを呼んで館内の地図を見せてもらうと、土日だけ営業しているというカフェ、レストラン、食堂があると分かった。海の見える遊歩道なんてのもある。キャラクターショップも。


「大和ぉ、オレら場違いじゃね?」


 一目見て釣り帰りと分かるいでたちの2人。



「とりあえず、荷物をどっかに置かせてもらおう」


 再びドローンを呼ぶ。バランスボールほどの大きさのドローンは人を避け、オレ達の斜め上に浮かんでいる。


「荷物置き場はどこですか?」

「コチラニドウゾ。ゴ案内シマス」


 荷物を入り口付近に置かせてもらった。そこはロッカーや手荷物預かり所ではなく、貸し出し用のベビーカーや車椅子が置かれていた。ドローン搭載のAIは釣り竿のサイズから臨機応変に判断したもよう。やるな。人間みたい。


 ぶらぶらと館内を見学。

 エネルギー資源の歴史は石炭からスタートしていた。そして様々な発電方法のメリット、デメリットの説明。原子力発電から現在のコア発電に移行して久しい。時代によってエネルギー資源が変わり、資源国が栄枯盛衰を繰り返す。

 かつて石油で栄えたアラブ諸国は、現在、投資銀行大国として暗躍している。

 原子力発電所建設において市場をほぼ独占していた日本は、何年もかかる核の安全浄化技術によって現在も外貨を得ている。コア発電が主流になってからは、日本はコア物質の製造でシェアの六割を担っている。


「電気ってすげーな」


 菊池と一緒に感心。

 フラウのときは、どんなエネルギー資源を使ってるんだろう。見せてくれたパスリングは充電式? 電気屋に売ってんの? 帰ったら訊いてみよ。


「お、ショップあるじゃん。なんか買おうぜ」

「テニ部にお菓子」


 2人で20個入りのお菓子を2箱選んだ。ミニ萩の月っぽい。

 髪飾り、ネックレス、ブレスレット。そんなものに目が行く。フラウはこんなお土産はダサいって思うかも。でもさ、食べ物はムリじゃん。ホノグラフだから。物だったらさ、スキャンすればいいんじゃね?


「あ、きれー」


 手に取ったのはキーホルダー。直径2センチほどのガラスの球の中で、液体が空や海の色に発光するもの。ネックレスもある。

 かなり迷った。


 つき合ってもいないのにネックレスとかキモい?


 そんな考えが浮かんで、キーホルダーを2個買った。お揃い。照れる。

 どんな顔すっかな?

 想像している自分の顔が緩んでいることに気づき、菊池の視線を回避。


「ん? キク、何買った?」


 菊池はかなりでかい紙袋をぶら下げている。こいつ、手あたり次第に食い散らかした女の子たちにお詫びの品でも選んだ?


「魚拓バスタオル」


 菊池が指さした壁の上の方には、特大の魚拓が模様になったバスタオルの見本が何種類も飾られている。


「人魚の?」

 冗談。


「なかった。あったら絶対それ買ってた」

 BAKA。


「キク、なんか食いたい」

 甘い物食いたい。


「飯? カフェ?」

「カフェ」


 男2人のカフェって、カップルの中にいると辛い。オレが肩身の狭い思いをしているのに、菊池は何食わぬ顔でパフェとケーキを注文。オレはケーキだけ。

 周りのテーブル席の女の子たちは、彼氏とのデート中にもかかわらず、きちくきくちをチラ見している。なんつーの、テーブルに肘を突こうが、景色を眺めようが、一挙手一投足がいちいち絵になるんだよな。薄着してるわけでもなく、シャツのボタンを開けているわけでもないのに、色気がぼろぼろと零れ落ちる。BAKAだけどさ。


 とん


 目の前にガトーショコラが置かれた。

 甘い物大好き。

 オレがケーキに舌鼓を打っていると、菊池がポツリと言った。


「ホントはネックレス買いたかったんじゃね? 分かり易い方がいーぞ」


 見透かしてやがる。


「そんなんじゃねーって」


 それ以上、菊池は何も言わなかった。


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