メロンパンで人魚釣り
否定できねーよ。好きだよ。
プラタナス並木の中を校舎に向かう。並木道の下には生徒がうようよ歩いている。どこを見渡してもフラウほどの美少女はいない。いるわけない。素材が人間離れし過ぎ。
「やーまと」
ぽんと肩を叩きながらオレの横に並んできたのは菊池。
「うぃぃぃ」
「聞いたぞ、大和。駅で、すっげぇかわいー子としゃべってたって? 誰? 同中?」
「人違いだった」
「なーんだ。つまんねーの」
親友の菊池に後ろめたいが、正直に話せば(男には)心優しい菊池は、オレに心療内科を勧めるだろう。自分も半分は夢だと思っている。が、他の人にも見えてたってことは、やっぱり現実なのか。未だに半信半疑。
「悪かったな。つまんなくて」
「はははは。なーなー、それよりさー、大和ぉ、幻の魚出たんだよ」
「黄河か? アマゾンか?」
「青森。近いだろ?」
「遠ぇーよ」
ここ横浜。
「日本だぞ。日本。新幹線ですぐ。夜行バスなら寝て起きたら即」
「なんだよその言い方。まるで」
誘ってるみたいじゃんという言葉を飲み込んだ。菊池の目が明らかにオレを誘おうとしていたから。てめーみたいな、合コンで1番かわいー子持ってくヤツの誘いには乗らん! 誘いたいなら、せめて2番目にかわいー女の子を融通してからにしろ。
「やーまと♡」
「なんだよ」
「青森、行こ♡」
「テニ部」
「オレも一緒にサボってやるから」
一緒にって、てめーがサボって魚釣りに行きたいんだろーが。
オレたちの高校のテニスコートは5面。これを軟式テニス部男女22人、硬式テニス部女子18人、硬式テニス部男子36人の3集団でやりくりする。部員数は硬式テニス部男子が圧倒的に多い。
つまり、休むと一人当たりのコート割り当てが増えて喜ばれる。ゆるゆるな部活で出欠連絡不要、というか、欠席歓迎だったりする。
はー、っと溜息を吐きながら、オレは菊池につき合う決心をした。
こいつ、女以外のことはしつこいんだよな。今日断ったら平日の授業中であろうが拉致られそう。
「で、新幹線? 夜行バス?」
「金ねーからバス」
だろーな。
きちくきくちは「ラブホって高いんだよな」と悪びれない。おい、人を気遣って未知の話は避けろ。
「いつ?」
「今週末。金曜深夜出発。夜行バスや民宿は予約しとくな、じゃ」
菊池は横を通り過ぎる女の子に声をかけられ、とっとと姿を消した。
オレは釣りは好きじゃない。なんと言っても生餌がNG、フナ虫もNG。じっと待つのも性に合わない。現地で別行動か、天気が良ければ隣に座ってゲーム。でもまあ、菊池と温泉に入ったり、その土地の名物を食べたり、無駄話をするのが楽しくて、誘われるとついて行くわけだ。青森は初めてだが。春休みは長野、去年の夏休みは高知だったっけ。
菊池は一人で行動するのは寂しいらしく、オレに声をかけてくる。
週末は青森か。って青森のどこよ。
フラウに言わなきゃな。青森行く日、会えないって。
最近、フラウは毎晩11時半に現れる。
どんどん自分の頭の中がフラウでいっぱいになっていってるって自覚はある。同時に「それはまずい」って言い聞かせる。でもさ、どーしよーもねーよ。もう。
ときめくしさ。心臓ねじれるしさ。思わず触れそうになるしさ。
なんもできねーこと分かってんのに、邪なこと想像するしさ。
降参。否定できねーよ。好きだよ。
毎日会いてーよ。正直、青森には行きたくても、その間会えないのが辛い。
オレは、フラウが現れたときに、今週末は不在だと告げた。
なんかさ、こーゆー予定を伝えるって、つき合ってるっぽくね?
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