ステータスは愛する人と人生を終えること

 男に振られて、別の男の胸借りるよーなあざとい女は、フナ虫よりもNG。ま、菊池は面食いで胸重視だから、ちょっとはありがたいんだけどさ。


「大和。今、他の女の子のこと考えてたでしょ」

「別に。いーじゃん。つき合ってるわけじゃねーじゃん」

「でもおもしろくない。エチケット違反」

「へーへー」


 フラウって色んな顔するんだな。媚びるような上目遣いなんてなくてさ。笑ったり、ちょっとだけ睨むような顔したり。照れたり。拗ねたり。


「ねえねえ大和、横浜駅の近くの学校なんでしょ?」


 今度は身を乗り出してきらきらした目でオレを見てくる。


「おう。横浜駅から歩ける。坂あるけど」

「横浜は今もとっても素敵なところなんだよ。海が綺麗でね、海の上を歩けるの」

「ベイブリッジは昔っからあるよ。そこのこと?」


「ううん。横浜駅の海側の方。足を一歩出すと、その下の海だけがね、ゼリーみたいになって、歩けるところがあるの。歩き終わると普通の海。デートスポットなの」


 フラウの時代でも、横浜はデートスポットなのか。


「技術がすっげー進歩するんだな。あ、そーだ、フラウっていろんな時代のいろんなとこ、見放題なんだろ?」

「うん。なになに?」

「横浜駅の西口の川沿いに屋台のラーメン屋あるんだよ。旨くてさ。最近のオレのお気に入りなんだ。見とけよ、屋台」


 ホントは一緒に行きたい。


「屋台?! 面白そう」


 一緒に食いたい。


「フラウの時代はラーメンってある?」

「あるよ。食べ物はね、栄養は健康志向になってるけど、味はそんなに変わってないの。あ、辛い物は少なくなったよ。強すぎる刺激が体に良くないって」

「なんか面白いな」

「時代は違うのにね。同じものがあるんだもんね」


「じゃさ、今度写真送ってやる……っと、できねーんだ」


「うん」

「こーゆーのさ、スマホで話したり写真送ったりしたいのに」


 オレの言葉に、フラウはぽっと頬を染める。


「大和。そんな風に言ってくれるなんて。まるで私のこと好き「違うから」


 素早く否定の言葉を被せるオレ。


「女の子にはもっと優しく話してよね。ちょっとヒドイと思う」


 フラウは眉と口をへの字にしている。


 こーゆーの慣れてねーんだよ。よく分かんねーし。

 でもさ、フラウと喋ってることは現実かもしんなくても、限りなくバーチャルに近い存在なんだから。ホノグラフに心奪われてどーする。未来の技術で「なりすまし」って可能性だってある。そーじゃん。最悪、かわいい女の子の映像見せてるだけのおっさんかもしんない。実は研究対象にされてるとか。何の研究? ほら、あれだよ。昔の人の生態調査。


 ツッコミどころ満載の考えを心の中で繰り広げるオレ。


「そーいえば、最初、運命の人になんとかかんとかって言ってなかった?」

「私の時代ではね、運命の相手を見つけることが人生の最大の目標なの」


 またまた意味不明。


「人生ときたか」

「もう何年も前から、哲学的にも精神の安定っていう医学的観点からも、パートナーの必要性が重要視されてきてるの。医療が発達して技術が進歩して、いつまでも元気。でもね、それって幸せってことには結びつかなくて」

「ま、今ですら、平均寿命がどんどん上がって来てるもんなー。これで歳も取らなくなったらますますだよなー」


「もうね、自然死はほぼできないの」


「マジで不老不死じゃん」

「だから、人生の終わりは自分で決めるの。でないと地球が人で溢れちゃって、食料もエネルギーも足りなくなるから」

「そんな都合かよ」

「長く生きてる人に言わせれば、心の中に忘れられない悪い思い出が溜まり過ぎて生きていくのが辛くなってくるんだって」

「いーこともいっぱいありそうなのにな」


「私たちの時代では、最愛のパートナーと一緒に人生を終えることがステータスなの」


 なんつった?


「人生を?」

「終える」

「おい、心中じゃん」

「そうとも言う」

「待て、オレは死ぬつもりねーぞ」


オレのことを運命の人ってゆーんだったらさ、それって、一緒に死ぬ相手ってことじゃね?


「大丈夫だよー。だって、もともと私が生まれたときには、とっくの昔に大和はいないんだもん。一緒に生きることすらできないから」


 フラウは首を傾けてくすくすと無邪気に笑った。


「だよな」


 そーだった。冷静に。


「だって大和は34歳まで生きるんだもん」

「それを言うな。割とクる」


 結構短命じゃん。34って。これが本当なら、結婚相手を悲しませること必須。子供いたら成長見れねーじゃん。


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