美少女がぐいぐい

 


 次の日、最寄り駅で、乗り換えの駅で、学校の近くの駅で、フラウの姿を探した。

 なんとなく会いたくて。

 フラウはどこかで見ているのか? オレが何時にどこを通るのか。


「大和」

「フラウ」


 駅の自転車置き場で自転車の鍵を外しているとき、フラウが横に立っていた。


「今日もいい?」

「待ってる」


 ちょっと食い気味な返事だったかも。だってさ、駅を過ぎたから、もう今日は会えないんだろうなって諦めててさ。そしたらサプライズ。嬉しくって。


 フッ


 自転車置き場にフラウの姿はなくなった。

 きょろきょろと辺りを見渡す。誰もいない。

 過去の時代のことは見放題だって言ってたから、姿を消しても周りに気づかれない場所と時を選んでるのかもな。


 ヤッタ。今夜も会えるんだ。

 オレはふんふんとハミングしながらチャリを飛ばした。

 今日は何を話す? 話題なんてどーでもいい。近くにいるだけで。

 そりゃさ、横浜を案内して、定番のデートコース歩けたら、すっげー楽しいだろうけど。そんな贅沢言わねーし。あ、フラウの時代って屋台のラーメンなんてないんじゃね?



 夜11時半。フラウ登場。


「うぃぃぃ」


 オレが手を上げて挨拶すると、フラウも戸惑いがちに「うぃぃぃ」と返してきた。

 かわいい。ツボった。


「ははっははは」

「どーして笑うの? 大和」

「なんでもねーよ」


「ね、この時代の自転車って大きいんだね」


 フラウは今日見た自転車に驚いていた。

 自転車は前輪後輪があって、その間に座る。昔はペダルが付いていて漕いでいたらしいが、最近は漕がない。目的地を登録すれば自動運転も可能。


「フラウの時代は小さい?」

「タイヤの部分がないの」

「へー。じゃ、タイヤでは走ってないんだ?」

「えーっとね、イスの下にタイヤが付いてて、道路をイスが滑ってく感じ」

「あぶねーよ。それ」

「安全対策はばっちり。スピード感は慣れればOK」

「ふーん」


 今一つ、安全度が分からん。シートベルトがごついのかも。


「今日ね、大和の一日をときどき見てみたの」


 ふふふふふと嬉しそうにフラウが笑った。


「勝手に見んなよ」


 よかった。今日は体育のサッカーで結構頑張ったんだよ。英語の時間に当てられたときもきっちり答えられたし。


「大和って、大勢で廊下を歩くんだね」


「どこ見てんだよ。どーでもいいじゃん」


 休み時間、申し合わせたように硬式テニス部の2年男子で集まったりする。特別な用はない。ただ喋るだけ。お菓子を分け合ったりして。


「楽しそうだった。一緒だね。私んときと」


 そして、オレはフラウが菊池を見てしまったことに気づく。好きな女の子に会わせたくない男ナンバーワン。


「あの中の1番イケメンが、オレの親友。菊池」

「そうなんだ」


 あれ? 他の女の子と反応が違う。

 菊池が友達って聞いただけで、女の子はみんなきらっと目を輝かせるのに。フラウはなんてことのないように菊池を素通り。


「すっげーかっこよくね?」

「え?」

「そっちの時代じゃ、そうでもない?」

「みんなあんな感じ。だって、人間は遺伝子操作で生まれるんだもん」

「外見も?」


「当然。人に好印象を与えるように。外見がいい方が人生得するじゃない。鏡を見てもテンション上がるし。私の時代には美男美女しかいないの。あとは好みの問題」


 こいつ、自分を美人って言ってるよな。なんかさ、綺麗な子の傲慢発言ってどうなんだろ。


「フラウから見たら、この時代ってブサイクばっかなんじゃね?」

「アジアの偏った地域の遺伝子だもん。しょうがないよ」


 フォローになってねー。


「上から目線だな」

「でもね、大和の外見は大好き」



 どきっ



 いきなり。「大好き」って。

 心臓が口から出るとこだった。


「そりゃどーも」


「大和はどんなタイプの女の子が好きなの?」

「きれい系? かわいい系? ツンデレ系?」

「翻訳アプリ、すげーな。そこにツンデレを並べるのは弱冠妙だけど」


「ねーねー。私みたいなのはどお?」

「外見が良くてもな。人間は中身だろ」


 外見はかなり重要ではある。だけどさ、きちくきくちが切り捨てた女の子を見ると、外見だけじゃって思うんだよな。だってさ、あの女の子達は、オレの胸で泣くこと平気なんだよな。しかも、明らかに狙ってうるうるした女の武器的な涙目でオレにキメ顔作るんだもんなー。


 本当に菊池のこと好きだったらさ、オレの胸でなんか泣かないと思う。

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