どきどきするとかわいいピンク色
「毎日がまあまあ楽しーけど。テニ部の友達とラーメン食ったりさ」
「だって、世の中には有り余るほどお金があって、上層階級の人脈作るために名門校に入ったり、小さなころから英才教育受けたりしてる人がいるじゃない。私の時代では、チャンスは平等だよ?」
「考えたこともねーし。そんな世界、無縁」
「ま、今の日本は、時代的にも国際的にも格差は少ないもんね。じゃ、食べるものがなかったり内乱だったりで生死の境にいる人がいることについては?」
「そっちの世界の方が、正直実感わかねー」
「ふーん、そんなもんなんだ。がっかり」
「悪かったな。世界平和よりも彼女で」
開き直るオレ。
「んー。つまり、当事者ってあまり気にしてないし、なんとも思ってないわけね」
「かったい話題。フラウの時代の人ってさ、そんなことばっか考えてるわけ?」
せっかく部屋で女の子と2人っきりってのにさ、これはねーよ。
「まさか」
フラウはぶんぶんと首を横に振った。
「だよなー。オレなんてさ、ほぼほぼだらだら友達といるだけでさ。で、すっげー楽しい。お笑い動画の真似してさ、テニスしてさ、ラーメン食って。
今日フラウは何してた?」
「さっきフクシマの遺跡を見てきた」
「遺跡?」
「原子力発電所の残骸。私たちの時代には公園になってるの」
「平和だな」
「それと、アオモリに。
自撮りしようと思ったんだけど失敗しちゃった。海岸線が変わってるんだもん」
「自撮りねー」
時代が変わっても、記念撮影ってしたいもんなんだな。
「流行ってるの。自分のホノグラフを色んな時代に送って自撮りするの」
「青森かー。ねぶた? オレも行きてー」
「ああ、ねぶたも見てくればよかったかも」
「ねぶたってフラウの時代にもある?」
「希望すれば体験させてくれる」
「あるんだ!」
「ない」
「は? 体験できるんだろ?」
「担ぐ人がいないもん」
「人がいない?」
「人はいるけど、コミュニティを維持するのは無理。人間が土地に根付いてないから」
「は? よく分かんねーけど」
「私たちの時代はね、ベビーは里親に預けられるの」
そっか。培養されるんだもんな。
「それでもさ、育った場所って大切にしねーの?」
「ずっとその土地に暮らすわけじゃないから。教育期間が終わると里親から離れる決まりなの」
「決まってんのか」
「里親の情が深すぎて、子供の将来の可能性を奪わないように」
「へー」
返事はするものの、意味は分からん。
「伝統って言葉の盾で市場や文化を独占しないようにってこともあるかな」
「へー」
なんとなく分かるような分かんないような。
「というわけで、ねぶたは観光として、うーんとね、この時代だとVRが近いかも。そーいった体験。でもね、世界中でたくさんのカーニバルがなくなったのに、リオとねぶたは残ってるから、すごいことだと思う。あ、ハロウィンやクリスマスは健在だよ」
フラウは人差指をピンと立てた。いやいやいや、クリスマスをカーニバルに入れるなよ。クリスチャンにとっては神聖なものなんだから。
「なあ、で、フラウって何しに来たの? なんかさ、すっげー使命背負ってるんじゃね?」
「ううん」
フラウがかわいく首を横に振る。
「ホントに、あのプレートだっけ、あれだけ?」
今度は縦にぶんぶんと頷く。
「私にとってはね、すっごく大切なことだったの。楽しかったよ。あのプレートの実物を見るために、保管されてる博物館の倉庫へ行ってスキャンしたり、特定の時間の特定の場所にホノグラフを映し出す方法を調べたり」
「調べてできるんだから、すげーよな。未来は」
「私がすっごいの!」
ちょっとは謙遜しろよ。
「ここまで来たんだからさ、ついでになんか体験でもする?」
自然交配とかさ。あ、ムリなのか。
「ホノグラフの投影場所を移動させるのは技術的にはできるけど、エネルギーをたくさん使うからダメ。私はね、大和と会えればいーの」
ふふふっとフラウは照れくさそうに首を傾けた。
きゅん
やばっ。また心臓が。かわいすぎ。
「じゃさ、フラウの時代のこと教えて。制服はコスプレって言ってたじゃん。その制服ってどうやって手に入れた? 骨董品? ネットオークション?」
「大和の時代のデータをスキャンしただけ」
「へ、写真とかから服まで作れるわけ?」
「そ。この時代にも3Dプリンターってあるじゃない。それと同じ単純な技術。だから素材は違うんだけど表面の光の反射や吸収を利用して同じものに見えるの。ホノグラフじゃ違いなんて分かんないでしょ?」
「完璧」
「いつもはどんな服着てんの?」
「いろいろ。最近の流行りは体の線を出して、心拍数と脳波で色が変わるってタイプ」
イメージが追いつかん。
「心拍数で色が変わって、なんかいーことあんの? アスリート用?」
「アスリートは前から着てたかな。今はね、初デートのときに着て行くのが流行ってるの」
「は?」
「どきどきしてますってアピール」
どきどきしてますとかって、相手にバレたらダサくね?
「変なの」
「ど、どきどきしてると、す、すっごくかわいいピンク色に変わるんだから!」
フラウは目の前で俯いて耳を赤く染める。
「ふーん」
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