【第7話】ドクズ大魔王の合コン極意 ~閲覧注意な魔王の呪文
夜の
築50年の学生寮は20室もの部屋があるけれど、寮母の
そのせいで、この寮は夜になるとしんと静まり返るのだった。
寮の自室。僕は、いじっていたスマホを机に置きそろそろ寝ることにした。
電気を消して布団に入る。
と、静かな部屋に、ぶうんとスマホが鳴る音がした。
また体を起こして、暗闇に光るスマホを取る。
待ち受けを確認すると、メッセの新着だった。
相手は……
待ち受け画面には『白星
それ以降の内容は改行されているみたいで、とりあえずアプリを起動して全文を読むことにしてみる。
……こんな夜にどうしたんだろう?
まあ白星さんならいつでもメッセくれて構わないんだけど。
それに『18時』とか時間を指定してくるって事は、またデートのお誘いかな?
女神スイッチによる行動はそう簡単に受け取っていいものではないんだけど……なんだかんだ嬉しいのは否定できないんだ。
苦笑しつつアプリを起動。白星さんのトークをタップ。すると――。
『明日の18時
モール裏のカラオケボックス前に集合な
来なかったらぶっ飛ばすから』
!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?
どうしたの白星さん、急に性格がワイルドになっちゃったね!? そんな頼み方しなくても、白星さんの頼みなら普通に行くけど!?
驚いて目を丸くしていると、新着のメッセがポンと浮かんだ。
『
お兄ちゃん。
要するに白星さんのお兄さん、白星
なんだ真央さんの仕業だったのか、安心した。
……って、安心でもなかったな。18時に集合って言ってたけど、今度は何を企んでいるんだ、真央さんは。
『いまお兄ちゃんが送ったやつ気にしな』
『おう、必ず来いよ』
携帯をもう一度奪われたんだろうか。
しかし、明日の予定は何もないけど、どうしたものか……。
○
翌日、夕方18時。モール裏の駐輪場。
通りには居酒屋やカラオケの店が立ち並び、初夏の夕闇にけばけばしいネオンを光らせている。
結局、来てしまった。
あの夜、もう何度か『本当に気にしないでね!?』と白星さんにメッセで念を押されたものの、真央さんがいったい僕に何の用事があったのか、気になるところではあったんだ。
「よう、来たんだな」
真央さんが現れた。
外見は小柄な美少年、なのに年上の大学生。そして中身は女グセ最悪のドクズ大魔王は、相変わらずいつもの緑ジャージを着用している。
「そ、それで、僕に何の用なんですか?」
ここに来るまでの間、真央さんの用件を予想してみたんだ。
モール近くに集合ということだし、例えば買い物や荷物持ちなど雑用の類であれば、その程度は構わない。真央さんは僕が変わるきっかけを作ってくれた人でもあるし、なんだかんだ借りはある。
ただし例えば……妹の白星さんについての相談である場合だ。
この可能性を捨てきれなかったのが、今日ここに来た一番の理由でもある。
なにせ真央さんは家族ゆえに、白星さんの過去を一番深く知る人物だ。たまに白星さんについての核心的な話題や、女神スイッチに関する話もしてくれる。
もし白星さんの話題だった場合は……しっかり真剣に聞かなくてはいけない。
「ああ、そうだな。今日テメーを呼んだ理由は――」
真央さんがジャージのポケットに手を突っ込んだまま、目を細めた。
固唾を飲んで次の言葉を待っていると、真央さんの唇がゆっくりと開き――。
「――これから合コンすっから」
いきなり言われて首をひねる。
ごうこんって……? ああ、合コンか。漫画とかでしか見たことないけど、出会いを求める男女が集まり、なんかその、ポッ○ーゲームとか、王様ゲームとか、終わったら持ち帰ったり持ち帰られたり、そんな破廉恥な集まり……って。
「な、ななな、何を言ってるんですか、真央さん!?」
「最近遊んでるダチがテメーみたいに女苦手でよ、合コン前に1/2くらいの確率で腹壊してドタキャンしやがんだよな。だからそいつの代打としてテメーを誘ったってわけだ」
「そ、そんな勝手に!」
「しゃーねーだろ。ナンパならともかく合コンで俺1人はきついぜ。相手は複数いるってのによ」
「き、きついったって僕を呼ばなくても! 真央さんなら友達いますよね!?」
「あ? いねえぞ。俺、すげーモテるから友達なんていねえよ。敵しかいねえっつうの。中途半端にモテるくらいじゃねえとつるめねえよ、人間なんてもんはな」
素直すぎる友達少ない発言にびっくりした。確かにこんな同級生がいたとして、簡単に近づけないかもなあ、とは思ったけど、
「そ、それとこれとは別です! ぼ、僕、まだ好きな人とかいたりするんで!」
僕がそう言うと、真央さんは大きなため息をついた。
「合コンに行くのは好きな女への裏切りだとか思っちゃってんのか?」
「そ、そんな感じでなくもないですけど……」
「あのな、テメーみたいな合コンのごの字も知らない童貞は勘違いしがちなんだけどよ、合コンって言ってもフツーの飲み会とか食事会だぞ? そんなギラギラしてねえから。むしろギラギラしてたら引かれるからな? 持ち帰りとかもフツーねえから。だいたいは知り合い増やすためのモンだからな」
「そ、そうなんですか?」
「まあ俺は持ち帰るんだけどな! お前も持ち帰れるように手伝ってやるよ!」
「いいですってば!」
ああ、油断してたらやっぱりドクズ大魔王だった!
「前にも言ったよな! テキトーな女と付き合ったりヤったりしとけって!」
「て、テキトーに出来ません!」
「じゃあ、お前いつ失敗すんだ? 大事な女の前で初めての失敗カマすのか? それかテメーは一生失敗しない完璧人間なのか? じゃあなんでモテねえんだテメーは」
「そ、そんな! でも! そういうのは大切な人のために」
「誰のために貞操守ってんだ。童貞ってのは女がありがたがるもんなのか? そんな女、見たことも聞いた事もねえぞ。相手見えてるか? 見えてねえからいつまでも童貞なんだろテメーは!」
ひいいい、真央さん変なスイッチ入っちゃってるよ!
完全に悪の魔王になっちゃってるよ!
「ただまあ……そこまで言うならいいけどよ。食事会としてだけ参加しとけ。俺としちゃあ、数合わせで誰かがいるだけで十分ではあるしな」
真央さんのトーンが若干落ちて安心する。
でも……あれ? 僕、いつの間にか参加することになっちゃってるな。
だけど、うーん……食事会としてだけなら別にいいのかな……?
釈然としないけど、借りもある人だし。
「ただ、テメーは合コン初めてだよな。だからちょっとレクチャーしてやる」
真央さんが突然言った。
レクチャーって、前みたいなトンデモ理論を教えてくれるって事なんだろうか。
「それじゃあ教えてやるよ。俺の考える『合コンの原則』をな」
こっちが肯定も否定もしないままに、合コン講座が始まってしまったようだ。
とりあえず聞くだけなら害はないだろうし、聞いてみるか。
「原則は『五つ』ある。まず第一には――」
真央さんが僕をじろりとにらむ。
「原則その一『相手がブスだからってテンション落としたらぶん殴るぞテメー』」
「そ、それはそうだと思いますけど……」
「これができねえ奴多いんだわホント。相手が気に入らねえからってすぐにやる気なくすんだよな。気持ちは分かるけどよ、まずは普通に食事会なり飲み会として盛り上げんだよ。これができねえ奴とつるむ気はねえからな俺は」
真央さんにしては、意外にまともっぽい意見だった。
「それに、だ。合コンの目的はその場で彼女を作ることじゃない。例えばブスとも仲良くなって人脈を広げる、すると、その付き合いの中でブスの背後に隠れている美人と出会えたりもする。出会いがないって嘆く奴は、目先の好き嫌いばっかりで、合コンをその場で終わりにするから出会いがねえんだよ。合コンの第一目標は『人脈を広げる』これに尽きるからな」
一見計算高い考えに思えたけど、まずは誰とでも分け隔てなく接すると言っているわけで、相手が気に入らなければすぐに態度を変える人間と比べれば、好感の持てる態度かもしれないと思ってしまった。
「そして残り四つ。ここからは『狩る』ための原則だ」
「か、狩るですか?」
「要するに、合コンで気に入った相手がいた時の対処法でもある」
それは……何となく僕には関係ない気もしたけど、真央さんが合コンでどうやって女の人を捕まえるのか、単純に興味があるので聞いておくことにする。
「原則その二『最初の三分で決まる。どんな美人でも気合で負けるな。女は
「き、気合ですか……?」
「そうだ。前にも言ったろ。女はヒエラルキーに敏感だ。美人だからってビビったら一発でバレるからな。テメーの目が泳いだ、腰が引けた、おどおどして変な敬語が混じった、これ全部バレてるから。バレたら格下扱いだ。もうオトモダチにしかなれねえよ」
「お、お友達、じゃだめなんですかね……?」
「女は一瞬でテメーをフォルダ分けするぞ。自分を狩りに来た強い狩人か、対象外のオトモダチか。そして、女は狩人しか恋愛対象としては見ない。決してだ」
「と、友達から仲良くなるパターンもあると思うんですが……」
「それはオトモダチじゃなくて、狩人が狩人のまま『友達』の立ち位置にいただけだ。いったん対象外のオトモダチに分類されたら終わりだぞ。オトモダチなんざヌイグルミ扱いと変わらねえ。オトモダチに口説かれたりましてや告白されたりなんて、女にとっちゃあ『仲良く遊んでたヌイグルミから、ペ○スが生えてきた!』みたいに気持ちの悪いことだからな!」
「ひい、生々しすぎませんか真央さん!?」
「だからよ、まずビビるな。そして自信満々でいろ。どんな女相手でも俺が格上だって思いこめ。強い俺様がお前を口説きに来たって姿勢を崩すな。以上が原則その二だ」
やっと五つのうち二つの原則が終わった。心臓がどきどきしてる。
やっぱり真央さんの言葉は刺激が強すぎたんだ、僕には!
「そして原則その三、だいたい合コン開始後三〇分までだ。ここまでは『丁寧にほめろ』。まずは
「ほ、ほめる、ですか?」
「そうだ。無難でいいぞ。相手の生活とか趣味を話しながら、服だとかアクセサリーでも何でもいいからほめろ。相手の気遣いとか性格とかでもいい」
ここは真央さんにしては普通な言葉な気がして、ほっと息をつく。
「だが、これもさっきの自信満々な態度がないとダメだからな。女に向かって、ヘラヘラへりくだって言うほめ言葉ほどキモいもんはねえから。下心なんざどうせバレてんだから、自信たっぷりにまっすぐほめてやるんだ」
「た、例えば……真央さんは、どんなふうにほめたりするんですか?」
「そうだな……『は!? いいケツしてんな揉ませろよ!』」
「それほめ言葉なんですか!?」
「どう考えてもほめ言葉だろ!? 素直にほめてんだろ!?」
普通だと思ってたら、やっぱりドクズ大魔王だった!
「そして、原則その四『ポジションの確認』だ。これは合コン開始三〇分以降の話になる」
ポジション。いきなりサッカーみたいな事を言われて首をひねる。
「女に対して優位に立てたか、これから本格的に攻めても大丈夫かどうかを、踏み込んだトークで確認する。例えば軽くディスったり、ちょい上から目線のトークが出来ていれば合格だ」
「ちょい上の目線で、しかもディスるんですか?」
「そうだ。あえてちょい上目線のトークをすることにより『ディスってもジョークとして喜べる距離感』になったかどうかを『確認』する。ここで注意することは『ディスる事自体が好感度につながるわけではない』という事だ。この辺、たまに因果関係を混同しがちで、ディスっただけ好感度が上がると勘違いして、滑ってるのにディス連発する馬鹿がいるんだがな」
「ええと、例えば真央さんは、どんな『ちょい上』というかディスりをしてるんですか?」
「そうだな……『さっきはホメてみたけど、お前よく見たらブサイクだな!』」
「すごい上からディスですね!?」
この人、悪人すぎません!? また心臓がどきどきしてきた。
「それよりだ、このポジションの優位がとれなかった時、要するに、ディスっても反応がいまいちだった場合、これは――諦めろ。すでにテメーの負けだ。その場は普通の飲み会として流せ。いかに無駄な深追いを避けるかは、狩りでの最も重要なテクニックだからな」
でも、さっさと諦めて次に行くからこそ、色々な女性を相手にできるという事なのかもしれない。
僕は……誰かのことを諦めるにしても、もっとその人に向き合ってからとか、そういう話だと思ってるんだけど。
まあ、すべては真央さんの個人的な話、というふうに聞くことにしよう。
「そして最後だ。合コン開始後二~三時間後の話、ディスれる関係である事を確認して、ホメも交えつつ盛り上げた後――『撃て』」
「う、撃つって?」
「持ち帰るって事だ!」
ああ、やっぱり始まった。ここからは完全に僕には関係のない話だった!
「要するに、持ち帰れるかどうか『確認』してからホテルなり自宅に連れ込むって事なんだが……そうだな、確認のためになるべく『気持ちの悪い技』を使うといい」
「気持ちの悪いって……それ、ダメなんじゃないですか?」
女の子と話すのにわざわざ気持ち悪くする必要があると、おかしな事を言っているように聞こえたので訊いてみる。
「気持ち悪くていいんだよ。そうだな、例えばよく言われるのは……5秒目を合わせる、おもむろにボディタッチする、エロい話題を振る。雑誌のナンパ記事とかでよくいう『落とすワザ』とか名前の付いているアレだ。まー気持ち悪いな。でもこれは落とすワザじゃなく『落ちたかどうかを確認』するワザだ」
「落ちたか、どうか?」
「そうだ。さっきのディスることと同じ、この後に続く『セッ○スという
5秒見つめ合うとかはテレビや雑誌で聞いた事がある気がするけど、そういう意味だったのか……。
「このへんを試してダメだったら引いとけ。諦めろ、撤退だ。そこから持ち帰ろうとしてもまず無理だし、無理やり押し倒すのは犯罪だからな!」
やっぱり引く時はあっさりしてるんだな、真央さん。
ただ、こういうふうに自分の中でどこが引くラインかきっぱりしているところは、ある種の潔さみたいなものも感じる。
「んで、この『気持ち悪い技』については、エロくキモく、だがなるべく間接的なほうがいいとは思うぞ。女は直接言われると恥ずかしがるからな。それとなく伝わるのがいい」
「それで……真央さんは、どんな感じで誘うんですか?」
「おうセッ○スしようぜ」
「直接的すぎません!?」
やっぱり真央さんは悪の大魔王だった。
「まとめると『いかに人脈を広げ、いかに脈なしと脈アリを素早く仕分けして、出会いの回転数を上げるシステムを作るか』ってことに集約されるんだが……そろそろ時間だ。準備しとけよ」
真央さんが腕時計を見ながら言った。
おそらく、相手の女の子たちが来る時間って事なんだろう。
「まずは第一の原則からだな。ブスばっかでも気を抜くなよ。普通に盛り上げる気持ちでいろ」
「は、はい」
「まー期待するなよ。今日の合コンをセットしたのは俺じゃなくてドタキャンしたあの馬鹿だし、どんなのが来るか分からねえ。つーか合コンに来るのなんてだいたいがブスだ。それでもまずは盛り上げんだよ」
そういえばそうだった。
攻める以前の話、まずどんな相手でも普通の気持ちでいること、それだけは賛成ともいえる原則だった。
「あ、真央くんだーーっ!」
と、横から黄色い声がした。
声の方に目を向けると……うわあすごい美人三人組が歩いてきたぞ。
年の頃は大学生くらいか、アイドルとかタレントでも通用しそうな美人ぷりだ。
「あ、代わりの人、見つかったんだ! でも、あたしたち別に真央くん一人でもぜんぜん良かったけど」
「前から真央くんの話聞いたりして、飲み会したいなーって思っててえ♪」
うう、みんな僕の事なんか眼中にない感じだ。
それにこの三人組、みんな頬を染めて最初から真央さんに好感度全開じゃないか。
どんだけモテるんだよ真央さんは……!
それより、ええと、合コンの原則、ビビらない、だっけ。
でも、これだけ美人だと誰でもビビりませんか……?
僕は、真央さんを横目で見る。
さぞ自信満々でやる気な顔をしているんだろうな、と思っていたら――。
「…………………………………………はあ」
え? なんでため息つくんですか? 相手、普通に美人ですよね? なんでそうでない子に会ったみたいな残念な顔してるんですか? しかも、どんな相手でも表情変えるなって言ったの真央さんなのに!
真央さんが、その三人をびしっと指さした。
「お前ら、何歳よ」
「え……真央くんと同い年だけど、ほら近くの大学の」
「ブスは許せるが、テメーらガキじゃねえかああああああああ!」
真央さんが絶叫した。
そのまま背を向けて、通りの方へずんずん歩き去っていく。
完全に意味不明だった。
とりあえず僕だけ残ってもしょうがないので、ぽかんと立ち尽くしている女の子三人に一礼して、真央さんを追いかける事にする。
「ま、真央さん、何が不満だったんですか!?」
「前から言ってんだろ。二四歳未満は女じゃねえって。ガキはいらねえっつうの」
そういえば最初に出会った時に言ってた気もするけど……え? あんな美人でもだめなんですか!? しかも、真央さんと同い年なのになんでガキって表現できるんですかね!?
それに……さっき確か「出会いをその場で終わらせず人脈を広げろ」って、熱く語ってたじゃないですか!?
「ま、真央さんの言葉を借りると、例えば、あの子たちの知り合いに年上の美人とか真央さん好みの女性がいる可能性だとか……そんな事を言ってましたよね?」
「は? 大学生の知り合いはだいたいが大学生だ。効率が悪すぎんだよ。俺だってそこまでヒマじゃねえ」
「で、でも、うーん、あの子たちに年上のお姉さんがいたりだとか」
「は? 合コン相手の家族とか、テメーどんな泥沼カードを引きてえんだよ。それに高校生の姉貴と知り合うために、女子小学生や女子中学生と合コンしたりすんのかテメーは? しねえだろ? 限度があんだろ? それと一緒だ」
「び、微妙に違う例えな気が……」
「つーか、テメーやけに食い下がるな。もしかして気に入った奴いたのか? そんなら早く言えや」
「わあああ、ち、違います単に興味本位です!」
僕は、この魔王の謎すぎる思考回路に大混乱しつつ、その背中を小走りで追いかけたのだった。
○
10分後。
僕と真央さんはカフェでお茶をしていた。
ガラス越しの街路にはたくさんの人が行き交っている。
僕の隣に座る真央さんは、細長いプレッツエルをかじりながら、だるそうに目を細めていた。
微妙な沈黙だった。
空気に負けて、なんとなく質問をぶつけてみる事にする。
「どうして真央さんはそんなに、こう、女の人と遊ぶのが好きなんですか?」
「あ? 嫌いな奴いんのか?」
きっぱり返された。
それは、そうかもしれないけど……。
「まー、セッ○ス自体は別に楽しくないぞ。これは遊んでる人間あるあるだがな、服脱がすくらいが一番テンション上がって、いざヤる段階でテンション下がるんだよな。だって解剖学的にはぶっちゃけどの女も一緒だし、10倍可愛かったらエッチも10倍気持ちいいとかねえんだわこれが。だからよ、そこが楽しいわけじゃねえんだよな」
ひいい、最悪に生々しい。訊くんじゃなかった……!
「じ、じゃあ、それなら何が楽しいんですか?」
「……知らねえ」
いきなり、神妙な顔をして黙ってしまう真央さん。
「俺も分かんねえ。不毛だと思ってても、止める気はねえんだこれが。……まあ、業が深いってやつだな」
そう言った真央さんが、どこか寂しそうに遠くを見る。
「
小さく何かをつぶやいた後、完全に沈黙してしまった。
と、その時だった。
ガラス越しの街路に
白星さんだった。
白星さんは僕たちを見て目を丸くすると、ばたばた走って店内に入ってくる。
「もう! お兄ちゃん、探したんだから! 亀丸くんをどうするつもりだったの!?」
はあはあ息をつきながら、白星さんがぷんすか怒っていた。
心配して探しに来てくれたらしい。特に何もされてないので、真央さんを擁護してあげようと思っていたら……真央さんがやけに悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「あのな、お前の言う『練習』だぞこれ。この亀丸に初めての合コンを経験させてやろうと思ってたんだからな」
「え? 亀丸くんの……練習?」
「そうだ。亀丸を女慣れさせるために、合コンはものすごくいい練習になるからな!」
「すごく……いい練習なの?」
「そうなんだがなあ……合コン中止になって困ってるんだ。そうだ絵馬! せっかくだからさ、お前が亀丸に合コンの練習つけてやってくれないか?」
「わ、わたしが……合コン?」
「まあ無理か。絵馬はガキだしまだ早いよな」
ああ、ああ……すごく嫌な予感がする。
白星さんの目がキラキラし始めて、口がうずうず閉じたり開いたりして、
「わ、わたし! 亀丸くんと合コンの練習したい!」
「じゃあ、とりあえず亀丸の隣に座るか」
ひい、白星さんがわくわくした表情で隣に座ってきた!
こっちに膝を向けて、子犬みたいにふんふん鼻を鳴らして、走ってきて汗ばんでるせいか、ものすごく甘い女の子の匂いを振りまきながら接近してくる!
「そ、その! 亀丸くんの、ご、ごしゅみは、なんでしょうか……!?」
ぎゅっと握った手を膝に置いておずおず訊いてくる白星さんだけど、たぶんそれは合コンじゃなくてお見合いだと思うなあ……!
「絵馬、違う。合コンってそういうんじゃないから」
ため息をついた真央さんが椅子から降りて、白星さんに耳打ちして、
「……だから……で」「へ!?」
「だめなら……で」「ふぇ!?」
ああ、どうやって止めよう。悪い予感しかしない!
真央さんが耳打ちから離れると、白星さんの顔が真っ赤になっていた。
そうして「うう……」もじもじしたかと思えば、
「か、亀丸くん……はい、ほーほ!」
ひい、白星さんがプレッツエルを口にくわえてこっちに向けてきたぞ!?
お兄さん! ポッ○ーゲームとか教えないでくれます!?
「は、はめまるくん、ははふ」
白星さんが潤んだ目をして、僕がくわえるのを待っている!
でも、さすがにこれはダメだ!
「し、白星さん違う! それは違うから! 合コンはそんな事をするものじゃあ」
「ああ絵馬、すまん間違った。亀丸が好きなのは二番目に教えた方みたいだな」
僕の声をさえぎるようにして真央さんが言うと、白星さんが「そ、そっか!」と慌ててプレッツェルを口から取り……。
胸を寄せて、谷間にプレッツェルの先端を挟んでた。
「は、はい、どうぞ……」
「ま、真央さん! 妹になに教えてるんですかーーーーっ!?」
抗議してみるけど真央さんはどこ吹く風、笑いをこらえた感じで肩を震わせている。
「うう、ご、合コンって、こんなえっちな事するの……?」
「し、白星さん違う、本当に違う! 合コンはこんなことしないから!」
「で、でも、亀丸くん、合コン初めてなんでしょ……?」
「そうだぞ! 何百回も合コンに行ってる兄貴の俺を信じろ!」
「うわあああ真央さん本当にやめてくださいドクズすぎですよーーっ!?」
やっぱりこの魔王は悪の権化だと、そう確信したある日の夜だった。
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