~新たな事件~
町は火に包まれていた。人々は逃げ惑う。悲鳴が町中、響いていた。そこに一人、少年が立っていた。手からは炎を出している。彼の目は血のように赤く、平然と建物を燃やしていく。警察は少年を捕まえようとする。も、不思議なパワーで警察を突き飛ばした。
「……邪魔を……するな。人間ども」
そう冷たく言い放ち、炎を大きくし、町全体を焼き尽くそうとする。
「そこまでだ! 獣!!」
その声と共に、バァン!と、銃声が聞こえた。
「……く……!!」
少年の手から赤が溢れ出す。
「……またお前か……。この前、左手を使えなくしたはずだが……」
彼は前も町を燃やそうとしていた。そこで銃に撃たれ、左手に傷を負ったのだ。かなり傷は深く、もう左手は使えなくなったはずなのだ。しかし、あれからまだ数日しか経っていないのに、左手が使えるにまで回復している。驚くべき回復力だ。少年はキッと睨み、
「またお前か、人間」
痛みに耐えながら言う。
「お前が心を変えるまで、何度でも現れるさ。お前、何故こういうことをする」
「人間には関係のないことだ。俺の問題だ。話すまでもない」
少年はそう言い、左手を庇い、今度は右手を向ける。
「……お前は知っているか? お前と同じように赤い目を持ち、暴走した少女のことを」
「……俺の先生だ」
「そうか。ならば話は早い。お前の先生はかつて、人間だった。名前は留美。幸せに暮らしていたんだ。そして感情は暴走し、大暴れしたんだ」
「……先生は辛かっただろう。俺も元は人間だった。だが俺は、この町の人間が憎いのだ。俺を苦しめ、嘲笑い、俺を見下した奴等だ。今度は俺が苦しめるんだよ……!!」
少年は右手から炎の球をを作り出す。
「落ち着くんだ!! 先生は大切な人を傷付けてしまい、今、行方不明になってしまっている!! お前も同じ過ちをするのか!?」
「!!」
少年は驚き、右手を下げる。
「先生が……行方不明……? そんな……そんなはずない……。だって先生は……今、此処にいるんだ……!!」
そう言って、少年は首に付けたペンダントを握る。
「此処に先生はいらっしゃる!! よく見ろ!! 人間!!」
少年のペンダントは怪しく光っていた。その光は少年の周りを包み、そしてふとあの少女は現れた。
「……!! 留美……」
留美という名の少女。そう、この少年が暴走する前、獣化した少女だった。
「先生!! この者達にその声を……!!」
少年は少女に跪ひざまずく。少女はゆっくりと目を開ける。……赤かった。あの獣化した少女が帰って来てしまった。
「…………ニンゲンドモ、ヒサシブリね……。ワタシのトウジョウ……ビックリシタカナ……?」
留美はそう呟く。時々、目の赤が点滅する。もしかすれば、正気に戻るかもしれない。そう思った銃を持つ男は一歩前に出る。
「びっくりしたよ……。留美さん。まさか行方不明の貴方が来るとは思わなかったからね」
その声に留美は視線を男に向ける。……青だった。少し微笑みながら
「何とか……生きてました。一時はどうなることかと思いましたけど……」
「留美さん。貴方の行方不明は衝撃でした。その姿を見せれば……喜びます。私と来て下さい」
男は留美を保護したかった。もちろん、後にあの少年も。男は覚醒現象についての研究をしていた。覚醒した少年少女のほとんどは実は幸せながらも悩むことがある子ばかりだということが分かったのだ。だから男は二人の話を聞きたいと願っていたのだ。
「……私を……どうする気ですカ……」
留美の目がまた赤くなり始めている。これはまずいと男は留美に向かって言う。
「貴方を傷付けることはしません。彼のことも。私は貴方達を守りたいのです。どうか信じて下さい」
男は頭を下げた。その様子に留美は目を見開く。驚きのあまり、目の色も青に戻る。
「せ……先生!! 駄目ですよ!! 人間を……憎い人間を……!!」
「憎く思ってる人間は誰? 貴方? それとも私?」
「!?」
「貴方は、私を利用して、憎い人間を殺そうとしているんでしょ?」
「り……利用だなんて……」
「いいえ。だって私は、人間を憎んでるっていつ言った? 私は誰も憎んでないわ。そもそも貴方から私に近付いてきたじゃない!!」
「……!!」
「貴方は、彷徨ってた私に声を掛けた。“大丈夫か?„って。心の壊れた私でもしっかり届いた。最初は助けの手だと思って手を取った……。だけど違った……。貴方はただ……獣化した私を利用して憎い人を殺そうと企んでいただけだった……。そして、しまいにはある機械に封じ込められ、しかも呼び出された時の私は、獣化した状態であるようにプログラムされていた……」
「……」
少年の目の色が変わった。男は嫌な予感がし、叫ぶ。
「留美!! 逃げるんだ!!」
留美は顔を上げる。目が赤い!! これはやばいと男は身構える。
「大丈夫。目は赤いけど、まだ獣じゃないから」
そう言って、留美は笑い、男の元へ飛ぶ。
「!?」
「赤い目だからって、完全に獣化してる訳じゃないの。獣の能力が使えるだけ。私を連れて行って……!!」
よく見ると、留美の目は片方ずつ色が違った。片方は青。もう片方は赤。奇妙だったが、どこか美しかった。
「……留美!! 行くよ!!」
「うん……!!」
男は留美の手を握り、駆け出す。
「……待て、留美……。逃がさねぇよ……?」
少年はニヤリと笑い、怪しく光るペンダントを留美に向ける。
「……ペンダントに……吸い込まれる……!?」
「留美!! 駄目だ!!」
留美を引っ張る。留美の体が緑色に光り出す。
「嫌……戻りたくない……。また……獣に……」
「今助ける、留美!」
「え……」
「私があのペンダントを壊します!」
「あ……貴方……」
「あぁ、申し遅れました。私は覚醒人間保護課のレン・キルラです。あの言い伝えについて調べ、覚醒した人達を保護する者です。留美はそこにいて下さい。すぐに戻りますので……!」
「……レ、レン……早く……ね」
留美の体がますます緑になっていく。時間がないようだ。レンは走る。
「もうやめるんだ!」
その声に少年は振り向き、レンを見て言う。
「……お前のせいで俺の計画はぐちゃぐちゃだ。計画は実行しないでやる。留美のことも……解放してやる。ほらよ」
少年は首に付けていたペンダントを外し、地面に落とし、それを踏み潰した。緑色の光はすぅ……と消えた。
「分かってくれて私も嬉しいよ」
「……一つ、条件がある。約束してくれるなら、もう人間を殺さない」
少年の目は相変わらず赤い。
「何だ?」
「お前が此処で死んでくれたら……な!!」
そう言って、右手を上げ高速に炎の球を作る。
「さようなら、邪魔者……!!」
レンは覚悟を決め、目を閉じる。
「レン、危ない……!!」
バァン!!
爆発音。レンは目を開けると、目の前が炎に包まれていた。
「レン、大丈夫?」
そこには、留美がいた。
「留美!? 留美は大丈夫なのか……?」
「私は大丈夫。良かった、レンが無事で」
そう言って、留美は微笑むが、留美の体が炎に包まれていた。
「私は大丈夫だから。レンは下がってて。私は人間じゃない。獣だから」
「……留美……!!」
レンが手を伸ばすも届かず、留美は少年の方へ向かう。留美は少し振り向く。レンに向かって微笑み、そして目を真っ赤に染めた。姿を獣に変えた。だけど前とは違う。人間を襲う獣ではなく、人間を守る獣だった。
「ようやく目覚めてくれましたか! 先生!」
少年は獣化した留美を見て、気味悪く笑う。留美は少年に向かって、同じ気味悪い笑みを浮かべ
「エエ、オカゲさまで……ね?」
そう言って、少年の元へ歩く。
「そうか。では予定通り、殺やろうか。人間どもを」
「その前に」
「?」
「殺したい人間がいるの。ソイツからでイイかしら……?」
「いいぜ。あいつだろ? あの男」
少年はレンの方へ指をさす。
「……いいえ」
留美は少年の後ろへ回り、低い体勢になり、
「……貴方……よ!」
そう言って、爪を立てる。
「……ぐっ!!」
深く突き刺さり、赤い華が少年の服と地面に咲く。
「くっそ……獣が……ナメやがって……! ええい、俺もなる!!」
少年は元から赤かった目をさらに赤くし、爪に牙が出始める。
「ヘヘ、コレデオレモつよクなったゼ!」
そう言うと少年は留美を突き飛ばす。
「きゃ……!!」
留美は転げ落ちる。
「留美……!!」
レンはもう見ていられず、銃を少年に向けて撃つ。
バァン! バァン!
「……レン!?」
「ぐあっ!?」
二発は少年の両足に命中。これできっと動けないだろう。
「留美、今のうちだ!! 逃げよう!!」
「……うん……!!」
留美は少年をちらっと見て、レンの方へ飛ぶ。
「そうはさせねぇ……よ!!」
少年は右手を上げ、炎の球を作り出す。
「さようなら、先生」
ニヤリと笑い、炎の球を発射した。
「留美、危ない……!!」
「!?」
留美が気付いた時には、もう目の前だった。
「あぁ……せっかく自由になれたのに……終わりか……」
そう言って目を閉じる。
「留美ーーーー!!」
レンは手を伸ばす。するとピカッと光った。
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