第三話 キアラ=ハイトがチャットに参加しました。

 一時的にVR世界から戻ってきた後、ギアにタブレットを繋いで掲示板を表示した。こうする事でリアルでも掲示板を見ながら作業できる訳だ。

 それにしても流れるのが早いな。まあ、中は3倍速だから当然と言えば当然か。


 タブレットを片手に居間に降りると作り置きされたご飯が置かれていた。

 廊下に出て玄関を覗くと両親、姉、妹、それぞれの靴が無くなっていたので外出にでも行ったのかもしれない。

 親がいない以上、タブレット片手にご飯を食べても行儀が悪いだ何だといわれることはないので、存分に掲示板を眺めながら食べるとしよう。


「それでは、いただきます。っと」


 電子レンジで温めたご飯を俺は手早く口に放り込むのだった。

 なお、ご飯の感想はいつも通りで普通でした。

 失礼かもしれないが、正直自分で作った方がおいしいと思われます。面倒だからしないけど。お母さん、いつもありがとう。




 部屋に戻った俺は例のMMOでギルメンからグリテジアの事を色々と聞く。


『キアラ=ハイト:今日は~』

『(´・ω・`):こんちゃー(。・ω・)ノ゛』

『Coppelia:あ、キアラさん。こんにちは』

『月兎:お姉ちゃん!やほー!』


 一応、皆には俺が男だとは言っている。

 ただ、月兎は俺が使っているキャラが女という事もあって何故か執拗に俺の事をお姉ちゃんと呼んでくる。まあ、それ以外に害はないのでいいのだが。

 ちなみに俺が女キャラを使っているのは単純に作りたい顔や骨格が男キャラになかったからだ。


『キアラ=ハイト:皆さんはグリテジア、どの職業で始めるつもりなんですか?尚、私は鍛冶師で始めるつもりです』

『(´・ω・`):えっ、お嬢、生産職なん?』

『キアラ=ハイト:そうなんですよ~。まあ、私の場合は全装備可能な職業っていう事を考えて選んだんですけどね』

『(´・ω・`):そうなんか~。(。´・ω・)ん?なら、見習いや道化師でよくない?』

『キアラ=ハイト:あー、生産職の戦闘EXPボーナス分かります?』

『(´・ω・`):あれやんな?あの、戦闘職が生産、生産職が戦闘した時に倍くらい経験値ボーナスが入るやつやんな?』

『キアラ=ハイト:それです。それ。闇属性を選んだので少しでも経験値ボーナスが欲しいんですよ』

『Coppelia:へー、そんなのあるんですね。私は人形使いの特殊職なので知りませんでした』

『キアラ=ハイト:特殊職は経験値ボーナス入りませんからね』

『Coppelia:やっぱりそうなんですね。この間パーティーを組んだ生産職の友人のレベルがポンポンと上がっていって私のレベルを抜かした時に可笑しいな~とは思ってたんですよ』

『(´・ω・`):可笑しいなと思っとったんやったら聞いてくれたらよかったのに』

『Coppelia:いえ、その程度の事でお呼び出しするのは申し訳ないなと』

『(´・ω・`):気にせんでええんやで?お嬢みたいにバンバン聞いてや』

『キアラ=ハイト:あらあら、まるで私が質問しすぎている様に聞こえるのですが?』

『(´・ω・`):実際そうやん』

『キアラ=ハイト:確かにその通りですね』

『(´・ω・`):認めんのかい!』

『キアラ=ハイト:事実ですからねぇー』

『月兎:えっ、飲み物取りに行ってて今戻ったんだけど』

『月兎:お姉ちゃん、戦闘職じゃないの!?』

『キアラ=ハイト:ええ、まあ、戦闘も普通にしますけどね』

『月兎:私、魔法使いなんだけど相変わらずヘイト取るからお姉ちゃんいないと辛いんだけど』


 月兎の奴はこのゲームでもグリテジアでも魔法職をするつもりの様だ。

 ちなみに私はこのゲームで盾剣、略さず言うと盾持ち片手剣士をしていた。役割は敵からの敵意ヘイトを集め他の味方に攻撃の飛ばない様にする事。俗に言う壁役を務めていたのだ。

 そんな訳でパーティーに壁がいないとヘイト無視で火力に特化している月兎は一瞬で狙われて紙防御を貫かれて死んでしまう訳だ。


『キアラ=ハイト:確か、しょぼんさんが拳闘士をするそうなので、避け壁をして貰えば如何です?』

『月兎:えー、私避け壁あんまり好きじゃないなー。あれ、敵によっては攻撃抜けてきて流れ弾で死ぬし』

『キアラ=ハイト:しょぼんさん何とかなりません?知り合いの壁職の人を紹介してあげて下さい』

『(´・ω・`):お嬢が壁するんじゃあかんの(。´・ω・)?正直、俺の知り合いでお嬢より特殊な壁はおらんねんけど……』

『キアラ=ハイト:何を言ってるんですか……。別に私のプレイヤースキルはそれ程高くないのですから一人くらい私より、』

『キアラ=ハイト:上手なプレイヤーの知り合いが居るでしょうに』


 そうなのだ。自分で言うのもなんだが、俺のプレイヤースキルはそれ程高くない。そのゲームに慣れるまで初見クリアみたいなことは出来ないし。

 よく、コマンドの操作ミスで死んだりした。

 見た事もない様なタイプの攻撃にも弱いしな。俺が得意なのは、繰り返す事でパターンを解析するのと、経験値などの回収する方法の効率化くらいだ。


『(´・ω・`):いや、お嬢のあれは別物……というか、別次元やろうに……』

『月兎:お姉ちゃん天才!』

『Coppelia:キアラさんはもう少し自信を持ってもいいと思います!』

『キアラ=ハイト:いえ、自分の実力くらい把握しています。中盤以降ならともかく、序盤の私は正直使い物にならないでしょう』

『(´・ω・`):んー。言わんとする事は分かるけど、お嬢はその序盤を抜けたら人外やん。今のうちに囲っときたいわ』

『キアラ=ハイト:そう言われましてもねぇ.....ホントにただの雑魚鍛冶師ですよ?私』

『月兎:いや、お姉ちゃんの場合、ただの謙遜って可能性も……お姉ちゃんは天才だからね!』

『キアラ=ハイト:それはないですね』


 何故か皆の俺への評価が高い。これはあれかプレッシャーをかける新手の嫌がらせか?


『キアラ=ハイト:とにかく。そんなに煽てても職業は変えませんからね!』

『月兎:はーい(´・ω・`)』

『キアラ=ハイト:顔文字やめい』

『月兎:(・×・)』

『キアラ=ハイト:絞め××ましょうかぁ?えぇ?』


 おっと、『殺し』というワードが倫理的に問題がある言葉として伏字にされた様だ。


『月兎:お姉ちゃん怖い。ガクガク(((゜Д゜;)))ブルブル』


 ココで誰も何も言わなくなったので水を取りに行くことにした。




 

『(´・ω・`):ところでさ。うっさーはグリテで何やっとったん?一回も会わんかったけど』

『月兎:ほとんどソロで狩りしてレベル上げしてた』

『(´・ω・`):そうなんかー』

『月兎:うん』

『(´・ω・`):野良呼んでパテは組まんかったん?』

『月兎:本気で言ってる?私の野良運の無さ知ってるよね』

『(´・ω・`):……すまそ』


『Coppelia:ルナマキナ狩り@5』

『月兎:行く~!』

『(´・ω・`):俺も行く~』


『Coppelia:弓で行きますね』

『(´・ω・`):拳で行くわー』

『月兎:杖で行く!』


『Coppelia:残りは現地で呼びますか?』

『(´・ω・`):せやなー』

『Coppelia:リーダーお願いします』

『(´・ω・`):(;゜Д゜)))エッ』

『月兎:よろしく~』

『(´・ω・`):うっさーがやってくれへん?』

『月兎:野良運*o_ _)oバタッ』


 水をとって戻ってくると皆で狩りに行くことが決まっていた。

 それにしても、ルナマキナかぁ……。あれ、壁するの面倒なんですよね……。

 まあ、いいや。行くか。ボッチ寂しいし。


『キアラ=ハイト:遅ればせながら私も参加できますか~?』

『Coppelia:まだいけますよ~』

『月兎:お姉ちゃん!』


 おっ、しょぼんからパーティー招待が来た。


『キアラ=ハイトがパーティーに参加しました』

『キアラ=ハイト:よろしくお願い致します』

『月兎:よろしく!』

『Coppelia:よろしくお願いします』

『(´・ω・`):よろー』

『キアラ=ハイト:すぐに現地に向かいますね。先に呼んでおいて下さい』

『(´・ω・`):りょ』


 突進スキルで度々急加速しながら最短ルートで現地に向かう。

 ルナマキナがいるエリアは町からそこまで遠くないので割とすぐに着きそうだ。


「ルナマキナか……光属性だから弱点は闇か。んで、確か魔法攻撃が通りやすいんだったかな?」

『こあらBBQさんがパーティーに参加しました』

『キアラ=ハイト:よろしくお願い致します』


 目的地の方向に移動キーを入れながらチャットを開いて素早く挨拶する。そして、再びチャットを閉じた。危ない危ない、壁に向かって走るとかいう無駄行動をとりかけた。


 さて、今のうちに装備を決めてしまおうか。防具は光・闇耐性付きの<クリミナルシスターシリーズ>一式で揃えれば75%ダメージカットできるからそれ一択だろ。問題は武器だな。

 闇属性の片手剣となると<魔剣=グラム><邪剣=オーガキラー>とかだけど、どれも龍特攻やら鬼特攻なんかの特攻武器で武器としての性能は今一なんだよな。模造月神ルナマキナだと月特攻か神特攻なんだよな。


 月特攻、神特攻の闇属性片手剣は……持って無いか。別属性なら水属性の月特攻で<鏡花冥月>や火属性の神特攻で<神焔カグツチ>なんかがあるんだけどな。と言っても特攻よかは属性相性の方が簡単にダメージが出やすいからな……

 仕方ない、なら無難に高基礎高ステータスの闇属性の片手剣でいいか。俺の持ってる闇属性武器で一番ステが高いのは……<冥府の血鈍>かぁ。攻撃力389か。強いけど微妙だな。<なまくらシリーズ>は高基礎だけど打撃武器なんだよな……。月神は打撃系、斬撃系の効きが悪いからな。

 あ、そうか。<魔晶剣フォーレム>に闇属性の結晶を刺せばいいのか。あれなら魔法系の攻撃扱いだし割と火力も出るからな。刺す結晶はA+ランクくらいの質でいいか。


「と、丁度ついたか」

『キアラ=ハイト:ふぅ、やっと、着きました。皆さん、お待たせ致しました。』

『(´・ω・`):お疲れさん。……早くね?』

『キアラ=ハイト:突進スキルましましで来ましたからね。お陰様でMPがすっからかんです。』

『(´・ω・`):なるなる。人集まらんかったから5人で行く事になったわ』


 過去ログをさらってみると確かにそのような会話がなされていた。

 まあ、ルナマキナはストーリー後半のボスの中では装備やアイテムさえ整えていれば簡単に倒せる部類のボスだからな。5人でも……というか時間を掛ければ私一人でもクリアできるだろう。


『キアラ=ハイト:みたいですね。アイテムバフは移動中に済ませてあるのですぐにでも戦闘に入れますよ』

『月兎:お姉ちゃん壁よろしくね!』

『キアラ=ハイト:りょーかいです。月兎もバ火力お願いしますよ』

『月兎:ば?』


(・・・約15秒程経過)


『月兎:あぁ!!バカじゃないよ!!』

『(´・ω・`):遅いw』

『キアラ=ハイト:ww』

『Coppelia:w』

『こあらBBQ:(笑)』


『(´・ω・`):さてと、そいじゃ行こかー』

『キアラ=ハイト:ノ』

『Coppelia:は~い』


 そこでチャットが途切れ画面が暗転する。

 パーティーリーダーのしょぼんが決定した事でボス戦専用エリアに入ったようだ。

 さてと、それじゃ気分を切り替えようか。俺は軽く首を回して、意識を画面上に集中させた。

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